『思考の達人デカルトに学ぶ むずかしい問題を考え抜く力』(齋藤 孝 著、光文社)は、ものの考え方、筋道を立てて考える方法をトレーニングしようという目的に基づいて書かれたもの。
「一生懸命やったことが身につきやすい人生のゴールデンエイジ」であるという理由から、小学4、5、6年生がメインターゲットとして設定されています。が、内容的には子どもだけでなく、大人も学べることの多い一冊だといえます。
重要なポイントは、頭の上手な使い方として「自分で筋道を立てる」ことに重きを置いている点。それができるようになれば、途中であきらめてしまうのではなく、粘り強く考えられるようになるというのです。
そのやり方を教えてくれるのが、哲学者のデカルトです。
デカルトは400年も前の人ですが、どうすればものごとをうまく考えられるようになるかを研究して『方法序説』という本を書きました。この本は何百年にもわたって世界中で読まれています。(中略)
デカルトの考え方は、ものを考えるときの武器になります。ぼくはそれをデカルト刀(とう)と名付けました。(「はじめに」より)
つまり本書ではデカルト刀をマスターすることを目指し、デカルト刀によって世界のいろいろな課題を切っていこうとしているわけです。
そんな本書の第2章「考える力がつく4つのルール」のなかから、きょうはいくつかをご紹介したいと思います。
なんとなく、思い込みで答えを出さない
大人にも子どもにも人間関係のトラブルはつきもの。そんなとき感情を優先させてしまうと「この人、嫌い!」と決めつけてしまいがちですが、理性を働かせると、それが思い込みであると気がついたりもします。
決めつけないというのは、思い込みを避けるということ。明らかに正しいと思ったことだけを信じるようにするということです。(40ページより)
そのため、「だいたい大丈夫じゃない?」「なんとなくこんな感じでしょ?」というのもデカルトには通用しないのだと著者は主張しています。難しい問題や面倒なことを前にすると、「なんとなく鬼」が出てくることがあるのだとも。
たとえば、「世界でもっとも母語としている人口が多いのは、何語でしょうか?」と質問されたとしたら、どう答えるでしょうか? ちなみに母語とは幼いときから話している言語のこと。
多くの人はなんとなく、「世界では英語が多いんじゃないかな?」と思われるかもしれませんが、それは間違い。そして、「なんとなく鬼」がここで出てきています。したがって、それをデカルト刀で切らなくてはいけないというのです。
理由は明白。明らかに正しいと思うものであれば信用してもいいけれど、「なんとなく」思っただけではだめだからです。「英語かな?」と思っても、自分でしっかり調べる必要があるということ。そうすれば、「世界でもっとも母語としている人口が多いのは中国語」だということがわかることになります。(40ページより)
即断しない。すぐに決めるのも失敗のもと
また、思い込みに即断が加わると、さらにひどいことになるといいます。いうまでもなく即断とは、すぐに判断してしまうこと。「この人、嫌い!」がまさにそれにあたります。
子どもの世界なら、「明日遊ぼう!」と友だちから誘われて、よく考えもしないまま、その場で「いいよ!」と返事してしまうのも独断。もちろん、実際に遊べれば問題はないでしょう。
しかし、あとから家の人に確認してみた結果、「明日はおじいちゃん、おばあちゃんの家に行くことになっていた」ということも考えられるわけです。だとしたら友だちの誘いを断らなければなりませんが、あとから断るのは、ちょっとバツが悪いものでもあります。
同じように、社会にも思い込みや即断で失敗することがあります。たとえば、どこかの町で誰かが「空港をつくりましょう」と提案したとします。「空港をつくるにはこれだけのお金がかかるけれど、つくったあとにこれくらいの人が利用して、こんなにたくさんの経済効果があります」と説明するわけです。
この場合の経済効果とは、町にたくさんお金が入ってくるということ。空港を利用した人が町を観光し、ホテルに泊まって食事をしたら、ホテルやレストランにお金が入ります。さらに「空港があって便利だから、遊園地もつくりましょう。工場もつくりましょう」と決まれば、町にどんどん人が集まり、お金も入ってきます。
そういう話を聞いた多くの議員が「なんだかよさそうだね」と思って、議会で賛成します。そのため空港を建設することになったものの、できあがってみたら、思ったほど利用する人は多くなく、経済効果も小さかった…としたらどうでしょう?
著者いわく、これも「なんとなく鬼」にやられてしまったケース。多くの人はよく調べもしないで、なんとなく経済効果がありそうだと思い込んでしまうということです。(43ページより)
仕事や問題は、小さく分けて考える
むずかしい問題は小さく分けて考えるべき。大きな仕事は、小さく分けるほどやりやすくなるからです。
たとえば、部屋があまりにぐちゃぐちゃで家の人から「片付けなさい!」と怒られたとします。(中略)部屋中にあらゆるものが散乱していると、どうやって片付ければいいかがわからない。
そういうときは、まず部屋を小さく分けます。机の上、引き出し、本棚、窓の近く、とゾーン別に分けて片付けるとやりやすいですよね。(47ページより)
小さく分けて考えると、少しずつ問題が片づいていくもの。大きな問題も、小さく分けて考えてみる。そうすれば、問題をより深く考えることができるわけです。
デカルト刀を使えば、「ぼんやり鬼」を退けて、ものごとをどんどん分解して、ねばり強く考えられるようになるのです。(47ページより)
仕事にもあてはまることだけに、心にとどめておく必要はありそうです。(47ページより)
デカルトの考え方を知り、デカルト刀を身につければ、頭を上手に使って難しい問題と戦えるようになると著者は太鼓判を押しています。ビジネスに役立てることもできるでしょうし、もちろん、お子さんと一緒に学んでいく楽しみもあるはずです。
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Source: 光文社