今のビジネスパーソンはみな多忙です。特にこの時期、年末は仕事で自分を追い込み、正月は普段と違う生活リズムや食生活で逆に疲れてしまうというのもよく聞く話です。
「睡眠負債」という言葉がありますが、もっと広い意味でいえば、「疲れ」そのものが自分の体の負債といえるのではないでしょうか。
ためればためるほど利息がついて体の状態はより悪化し、栄養ドリンクでごまかして自転車操業。気づけばどうしようもないほど悪化してしまって手のほどこしようがなくなってしまっている…。
そんなことにならないよう、本特集では、疲労という負債をためこまないマネジメント術についてご紹介します。
第2回では、ライフハッカー[日本版]の連載『伊庭正康の「最高効率ワークハック術』でおなじみの伊庭正康さんが登場。ストレスは、れっきとした心の“疲労”。そんなストレスを溜めず、うまく付き合うストレスコーピングのテクニックを紹介します。今回は後編です。
▼前編はこちら
伊庭正康(いば・まさやす)

1969年、京都生まれ。1991年、リクルートグループに入社し、残業レスで営業とマネジャーの両部門で累計40回以上の表彰を受賞。その後、部長、社内ベンチャーの代表を歴任。2011年に独立して「株式会社らしさラボ」を設立。リーダー、営業力、時間管理等、年間200回以上の研修に登壇。またストレスコーピングコーチとして、ビシネスパーソンにコーピングのスキルを紹介している。『できるリーダーは、「これ」しかやらない メンバーが自ら動き出す「任せ方」のコツ』(PHP研究所)ほか著書多数。
自分はどのパターン?「認知の歪み」6つの傾向
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前編でも触れた通り、仕事や人間関係だけでなく、天候などの環境や、思いがけない朗報といった喜ばしい変化も、心身にとってストレスになります。
ストレスをゼロにすることは難しいけれど、日々の生活で感じるストレスの対処法として試してみたいのが、「ストレスコーピング」と呼ばれるメンタルスキル。
ストレスコーピングには4種あると前編で紹介しましたが、伊庭さんによれば、ビジネスパーソンにもっとも大きく関わるのが、評価に対するコーピング。
「評価に対するコーピングでキーワードになるのは“認知の歪み”。人は、ある出来事に遭遇した時に、一定の解釈を加える考え方のクセが生じると言われています。
その歪みを整えることが、ストレスを和らげる一番の近道となるのです」(伊庭さん、以下同)
たとえば、上司から予定していた1on1をキャンセルしたいという連絡があったとします。
確かな事実は「キャンセルになった」という出来事なのに、
「自分は上司から期待されていないのではないか」
「上司たるもの、部下の声に耳を傾ける時間を最優先にすべきだ」
などという主観的な解釈を加えてしまう。これが「認知の歪み」です。
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ストレスコーピングでは、この認知の歪みを6つのストレスパターンに分類。それぞれのタイプの傾向を、伊庭さんが解説してくれました。
1. イライラ型(自己過信型)
●べき思考
「もっと部下に親身に関わるべきだ」「もっとミーティングに時間を割くべきだ」というように、自分の正解を基準に考えてしまい、物事が思ったように進まないことにストレスを溜めてしまうタイプ。
2. オドオド型(自信喪失型)
●マイナス思考
「上司から再び注意を受けた自分はダメな奴だ」「ここには自分の居場所がない」というように、過度にマイナスに捉えてしまうタイプ。たった一度のミスでも挽回できないとの思い込みがある。
3. クヨクヨ型(過去悔恨型)
●自己関連癖
上司に同僚や部下が怒られているのを見て、「私がもう少しケアしてあげられれば良かった」など、非論理的な自責をしてしまうタイプ。物事がうまくいかないことを自分の責任にしてしまい、ストレスに。
4. モンモン型(未来不安型)
●認知の歪みの特定が困難なタイプ。複合的な歪み
「これをやったら怒られるのでは」「上司に認めてもらえないのでは」と、自分や将来に漠然とした不安を抱えているタイプ。満たされない思いと根拠のない理想の間で葛藤している。
5. ヘトヘト型(疲労困憊型)
●完璧思考
上司から頼まれてもいないのに先回りして仕事をしたり、突っ込まれた時のために準備をしたりと、武装しすぎてしまうタイプ。人に迷惑をかけることを嫌い、手抜きをすることは不義理だと感じている。
6. ムカムカ型(人間関係誤解型)
●読みすぎ
「イライラ型」の思考に、さらに“評価”を加えてしまうタイプ。「会議をキャンセルしたのには、何か理由があるはずだ。きっと自分に関心がないんだ」と、相手が自分に悪意を持っているはずだと誤解しがちなタイプ。
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どれも「わかるわかる」という気持ちになるのではないでしょうか。
なお、強弱の程度はあるものの、誰もがそれぞれの傾向を持っているのだそう。
「以前の私は、典型的なイライラ型。
歩道を横に広がって歩く人たちを見て、『端に寄って歩くべきだ』『なぜ後ろを歩く人のことを考えられないのか』など、自分の正解を人に押しつけていつもイライラしていました(笑)。
私たちは出来事を“歪んだ目”で見ている。それに気づくことがストレスコーピングの第一歩になります」
そんな伊庭さんは、「今ではイライラすることはめったにない」とのこと!
物事をストレスの種にしないコツがあるならば、知りたいものです。次のステップへ進みましょう。
思考を転換させる「セルフトーク法」
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伊庭さんが解説するのは、ストレスコーピングの大切なプロセスである「セルフトーク法」です。
セルフトークとは、無意識に心の中でつぶやく言葉のこと。
「寒いな」「もう夜か」「お腹空いたな」といった言葉のつぶやきの回数は、1日に6万回とも言われています。そしてそのほとんどがネガティブなもので、それが認知の歪みを強めてしまうのだとか。
そこで講じたいのが「セルフトーク法」。
マイナスのセルフトークを反駁(はんばく/反論すること)し、別の角度からセルフトークをつぶやくことで、マイナスの思考を「合理的な思考」に転換するという手法です。
【セルフトーク法:考え方の例】
- 「いつも自分ばかり…」→「いつもとは言い切れないか」
- 「失敗したらどうしよう」→「今、できる準備をしよう」
- 「Aさんは学歴があるから」→「Aさんと自分は違うから」
反駁というと難しいですが、「要は自分で自分につっこみを入れること」と伊庭さん。
ネガティブになる自分を、もう1人の自分が励まして別の見方をアドバイスすると考えれば、やってみようという気持ちになれますよね。
ストレスコーピングは「究極のビジネス&ライフハック」
典型的な「べき思考」だったという伊庭さん。
先ほどの「横に広がって歩く人たち」に文句を言う自分に「いや、そんな時もあるでしょう」と反駁を続けた結果、イライラすることが減り、仕事や人間関係もうまくいくようになったと言います。
「セルフトーク法によって認知の歪みが軽減されると、ありのままの自分を受け入れられるようになります。
人のことも許せるようになるし、『この人はモンモン型かな』などと分析できれば、かける言葉も変わってきますよ」
ストレスを溜め込まないために、積極的に取り入れたいストレスコーピング。でも伊庭さんの話を聞くと、何よりのビジネスハックであり、ライフハックになりうるのだと気づかされます。
今、ストレスで心にモヤモヤを抱えているならば、まずは前編で紹介した「エクスプレッシブ・ライティング」を試すもよし、自分の「認知の歪み」の傾向を探るもよし。さらにはセルフトーク法を身につけて、ストレスと上手に付き合えるようになりたいものです。
朝カーテンを開けて「良い1日になりそう!」と、セルフトークがポジティブな内容に変わっている――そんな自分に気づける日も、そう遠くないうちにやってくるかもしれません。
ストレスマネジメント術まとめ
- ストレスは出来事や変化(=刺激)に対する反応であり、ゼロにすることは不可能。喜ばしいこともストレスになりうる。
- 体の負債となる心の疲れの原因は「デイリーハッスル」と呼ばれる日常の小さなストレス。これを自分の許容量を超えないように管理することが重要。
- 感情を書き殴る「エクスプレッシブ・ライティング」などの手法によって自分を客観視し、ストレスの対象を把握することが第一歩。その後適切なコーピングを行なう。
- ビジネスパーソンにとって最重要なのは「評価」に対するコーピング。自分の「認知の歪み」の傾向を認識し、歪みを整えることがストレスを和らげる近道。
- 認知の歪みを整えるのに有効なのが「セルフトーク法」。心の中でつぶやくネガティブな思考を反駁し、「合理的な思考」に転換するのが有効。
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