今のビジネスパーソンはみな多忙です。特にこの時期、年末は仕事で自分を追い込み、正月は普段と違う生活リズムや食生活で逆に疲れてしまうというのもよく聞く話です。
「睡眠負債」という言葉がありますが、もっと広い意味でいえば、「疲れ」そのものが自分の体の負債といえるのではないでしょうか。
ためればためるほど利息がついて体の状態はより悪化し、栄養ドリンクでごまかして自転車操業。気づけばどうしようもないほど悪化してしまって手のほどこしようがなくなってしまっている…。
そんなことにならないよう、本特集では、疲労という負債をためこまないマネジメント術についてご紹介します。
第2回では、ライフハッカー[日本版]の連載『伊庭正康の「最高効率ワークハック術」』でおなじみの伊庭正康さんが登場。ストレスコーピングコーチとしても活動する伊庭さんに、ストレスを溜め込まないコーピングのスキルについて聞きました。今回は前編です。
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伊庭正康(いば・まさやす)

1969年、京都生まれ。1991年、リクルートグループに入社し、残業レスで営業とマネジャーの両部門で累計40回以上の表彰を受賞。その後、部長、社内ベンチャーの代表を歴任。2011年に独立して「株式会社らしさラボ」を設立。リーダー、営業力、時間管理等、年間200回以上の研修に登壇。またストレスコーピングコーチとして、ビシネスパーソンにコーピングのスキルを紹介している。『できるリーダーは、「これ」しかやらない メンバーが自ら動き出す「任せ方」のコツ』(PHP研究所)ほか著書多数。
対処すべきは「日常の小さなストレス」

企業研修などを通じて、多くのビジネスパーソンの課題解決をサポートする伊庭さん。
彼らと接するなかで感じるのは、「ストレスのほとんどは職場の人間関係に原因がある」ということ。
「些細な行き違いも、以前は『ご飯でも行こうか』『コーヒー買いに行こうか』といった、ちょっとしたコミュニケーションの場で解決できていた。
でも、昔に比べてこうした機会が減ったことに加えて、コロナ禍で対面するチャンスすら持てないことも、ストレスを増長しているように感じています」(伊庭さん、以下同)
また、「そもそもストレスは“刺激”に対する反応であり、これをゼロにすることは不可能」と伊庭さん。
寒さ、暑さといった気温の変化や騒音などは想起しやすいストレスですが、結婚や昇進といった喜ばしいことさえも変化であり、“刺激”。ストレッサー(ストレスの基)は、実に多岐にわたるのです。
体の「負債」になるストレスとは?
ストレッサーは「物理的刺激」「心理的刺激」の2つに分かれ、それぞれに「ライフイベント(人生の出来事)」「デイリーハッスル(日常の出来事)」があります。
【体の「負債」となるストレスの一例】
- 物理的刺激
ライフイベント…放射能、光化学スモッグなど
デイリーハッスル…気温、立ちっぱなしの姿勢など
- 心理的要因
ライフイベント…転勤、昇進、結婚など
デイリーハッスル…悪口、評価、多忙、暇など
本特集のテーマである「疲れ負債」の観点で見た時、心の疲れの原因となるのは「デイリーハッスル」。この日常の小さなストレスを“コップから溢れさせないこと”がカギとなるそうです。
ストレスに応じて使い分ける4種のコーピング
日々のストレスを、小さな芽のうちに摘むにはどうすればいいのでしょうか? そこで取り入れたいのが「ストレスコーピング」のテクニック。
ストレスコーピングとは、認知行動療法(心理学)をベースとした、トップアスリートからビジネスパーソンまでにおけるストレス対処の技術として広がりを見せるメンタルスキルのことです。
このストレスコーピングは、「働きかける対象によって対処法が4種類に分けられる」と伊庭さん。
- 「刺激」に対するコーピング:ストレスを感じる刺激から、無理せず物理的に離れる。
- 「評価」に対するコーピング:フラットに物事を見ることで、実は深刻ではないことに気づく。
- 「反応」に対するコーピング:ストレス反応が出そうなら、心身ともにリフレッシュする。
- 「社会的支援」型のコーピング:1人で解決できないことは、第三者の力を借りて解決を図る。
これらを状況に応じて組み合わせることで、ストレスの対処力が高まるそうです。
しかし、そうは言ってもストレスにさらされている時は、「自分がどんな状況で、どんなコーピングが適切か…」までは考えが及ばないですよね。
自分を客観視し、「ストレスの対象」を知る

そこで大切なのは、「自分が何をストレスと感じているかを知る」ことです。
伊庭さんがすすめるのは、「エクスプレッシブ・ライティング」。ストレスコーピングの手法の1つで、思ったことやその時の感情をひたすら紙に書き出し、可視化するものです。
「きれいな字で整った文章を書こうと思わなくてOK。
『苦しい』『嫌だ』といった感情から、『会社に行きたくない』『◯◯さんが嫌い』といった対象や行動までを、とにかく自由に書き殴っていいのです」
紙に書き出すことで自分の感情を客観視し、ストレスの対象を把握できるようになると言います。
また、活用次第では過去の自分を冷静に振り返るヒントにもなるため、伊庭さん自身、日常的に行なっているのだとか。
「紙でなくとも、スマホやクラウド上のドキュメントなどを使っても良いでしょう。
なお、負の感情をぶつけるのみではなく、目標やうまくいっているポジティブなことを書くなど、応用することで自分なりの心の整理術も身につきますよ」
次回の後編では、自分をもっと深く探るストレスコーピングの方法を紹介します。
それまでに、ぜひ自分がストレスに感じていることを書き出し、ストレッサーの正体と自分の感情の傾向に見当をつけておくことをおすすめします。そうすることで、後編の内容をより自分ごと化して生かすことができるでしょう。
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