『こんな時代だからこそ学びたい 松下幸之助のリーダー学』(江口克彦 著、アスコム)は、「経営の神様」として知られる故・松下幸之助氏のリーダー論をまとめた書籍。先だってご紹介した、『こんな時代だからこそ学びたい 松下幸之助の神言葉50』と同時発売されたものです。
ちなみにご存知のとおり、著者は松下氏の直弟子とも側近ともいわれる人物。松下氏の考え方を伝えるべく、精力的な活動を展開されている方です。
リーダーはいかなる場におけるリーダーも同じである。社長はもとより、会社の部、課、班、グループを問わず、また団体のそれぞれの責任者を問わず、少なくとも五人であろうと三人であろうと、そのリーダーたる者はこの心がけがないと、社員なり、部下なり、メンバーは仕事に懸命に取り組んでくれるものではない。(「まえがき」より)
この先、いま想像できないような技術が登場し、世の中の状況も激変するはず。さまざまな変化に即応していく必要があるわけで、そのためにも松下氏のリーダー論を活用すべきだということなのでしょう。
きょうはそんな本書のなかから、第8章「ほめる、叱る」に焦点を当ててみたいと思います。
人はほめて使う
ここで紹介されているのは、松下幸之助さんの著書『指導者の条件』のなかに登場するエピソード。
加藤清正の家老であった飯田覚兵衛という武勇にすぐれた人物が、隠居をしてから次のように語ったというのです。
「自分は、はじめて戦に出て軍功を立てたとき、多くの仲間が敵の弾に当たって死ぬのを見て、もう武士は辞めようと思った。
ところが戦が終わると、すぐに清正公から『きょうの働きはまことにみごとであった』と刀まで賜ったので、辞めそびれてしまった。
その後も合戦に出るたびに、今度こそはと考えたが、いつも時を移さず陣羽織や感状を与えられ、ほめられたので、それに心を打たれてとうとう最後まで自分の本心通りにいかず、ご奉公し続けてしまった」
当時、“清正陣営に覚兵衛あり”と音に聞こえた勇者でも、さむらい奉公を続けた本当の理由が清正公にほめられ続けたことにある、というのはいささか意外な感じもしますが、人間というものは、ほめられることによってそれだけ感激もし、発奮するということなのでしょう。(112〜113ページより)
同じことは、現代の私たちにも当てはまるのではないでしょうか? なぜなら人は、ほめられればそれをうれしく感じ、自信をつけることができるものだから。その結果、「今度はもっと成果を上げてやろう」という意欲も起こり、それが成長の励みとなるわけです。
しかし逆に、自分の働きが人に認められないとしたら、それほど寂しいことはないはず。
そういう意味でも、職場で人を生かして育てようと思うのであれば、ほめることが大切。部下がなにかいいことをしたとき、あるいは成果を上げたときには、心からの称賛とねぎらいを惜しまない。それこそが、リーダーとしてのひとつの要諦なのだと著者は記しています。(112ページより)
叱るときは一所懸命、叱る
松下幸之助という人は、ほめることの達人でしたが、同時に叱ることの達人でもあったのではないかと思います。
私は松下に仕えて、年中、ほめられ、ときに叱られもしました。(114ページより)
著者はこう振り返っています。
たとえば報告に行くと、「よくやっているな」「よくやったな」と、口先だけではなく、心からいってくれたというのです。それは、「さらに一所懸命がんばれよ」という激励でもあったわけです。
しかしその一方、ときには呼び出しを受け、3時間以上も叱られ続けたことが何度かあったのだといいます。
その言葉、内容は先ほどから同じことのくり返しです。もう黙って聞いている以外にありません。
(中略)
私は、自分の半分の歳の部下に、これほどまでに情熱をかけて、一所懸命に叱ってくれる松下の姿を見て“すごいな”と思うようになってきました。そして、その叱責が心からありがたいと思われてきたのです。
それは、その叱責が個人的な感情、私情にとらわれてではないということ、激しい怒りの言葉の奥に温かさ、優しさがあるということが分かったからでしょう。(117ページより)
とはいえ、激しく叱られたのですから気分はいいものではなかったはず。事実、「あした、顔を合わせるときどうすればいいのか」と考えると、心が重くなったそうです。
その一方、「あれほど心を込めて叱ってくれたのに、このままにしておいていいのだろうか」とも感じていたといいます。そこで決心したのは、「明朝早く松下さんのところに行って、もう一度お詫びをしよう」ということ。
松下は、私が挨拶するとニッコリ笑って、 「えらい早いな、なんか用か」 と口を開きました。
「いいえ、きのうは申し訳ありませんでした。おっしゃる通りで、つくづく反省しました」 と私が言うと、「いや、分かってくれたか。分かってくれたらそれでええ。あんまり気にせんでええよ」 と松下は言ってくれたのです。
その瞬間、いっぺんにそれまでの気まずさは消えてしまいました。あとは笑顔でいつものように雑談ということになりました。(118〜119ページより)
著者はそれ以降、厳しく叱られたあとは、必ず松下氏を可能な限り翌日早朝に訪ね、お詫びをすることにしていたのだそうです。そうやって気まずさを残さないようにしたことが、23年間松下氏に仕え続けることができた理由のひとつだということです。
たしかに、部下にそこまで思わせた松下氏のリーダーシップには学ぶべきものがあるのではないでしょうか?(114ページより)
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リーダーとして人をまとめるために必要な、しかも普遍的な考え方がコンパクトにまとめられた一冊。変化の多い時代を生き抜いていくために、参考にしてみるといいかもしれません。
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Source: アスコム