2020年10月2日、「Schadenfreude(シャーデンフロイデ)」という単語の検索数が普段より3万500%増加し、最も検索された単語の1つになったとMerriam-Webster.comが報告しました。

10月2日といえば、ドナルド・トランプ大統領とメリッサ夫人の新型コロナウイルスの陽性が公表された日となります。

シャーデンフロイデという言葉が人々の関心を惹くのにはわけがあります。Merriam-Websterによると、シャーデンフロイデとは「他人の不幸から得る喜び」のことなのだそうです。

認めたくない人もいるかもしれませんが、この喜びは私たちの多くにとってなじみのある感情です。そして、いじわるな喜びを味わったあとで、罪悪感を感じたことがあるという人も、少なくはないと思います。

ドイツ語の「Schadenfreude」は、「Schaden(損害)」と「Freude(喜び)」が組み合わさった言葉で、翻訳されずにそのまま英語のなかに組み込まれた借用語の1つです。

2020年10月に多くの人がこの言葉を耳にし、辞書で調べたということなのでしょう。

だとすると、それは何を意味しているのでしょうか?

シャーデンフロイデの感情を、健全で建設的な形で経験することはあり得るのでしょうか? あるとしたら、どのような形で?

今回は、シャーデンフロイデについてどう考えればいいのか、また、どうアプローチすればいいのかを解説します。

シャーデンフロイデが教えてくれること

一番大切なことは、シャーデンフロイデの感情を抱くことはまったく正常だということです。

青年期および成人期の精神科医で、Community Psychiatryで地域医療ディレクターをしているLeela R. Magavi博士は、米Lifehackerに次のように語っています。

シャーデンフロイデを感じたからといって悪人というわけではありません。

多くの人が、不安、生い立ち、気質などさまざまな要因でこの感情を抱きます

Magavi博士は、シャーデンフロイデは正常とみなされるべきごく一般的な感情であることを強調しています。

一方で、「自尊心の低さや自信のなさに苦しむ」人たちが抱きやすい感情で、うらやみや嫉妬から生じている可能性があるとも言っています。

2015年にjournal Psychological Reportsで発表された研究で、中程度のうつの人は、軽いうつの人に比べて、「Freudenfreude(フロイデンフロイデ:他人の成功から得る喜び)」の感情を体験し辛いことが示されています。

ペンシルベニア州カレッジビルにあるアーサイナス大学の心理学および神経科学の学科長であり、この研究の共著者の1人であるCatherine Chambliss博士は、研究結果についてU.S. News and World Reportで次のように説明しています。

落ち込んでいたり欠乏感に苛まれたりすると、他人の成功が受け入れられなくなります。自分と比較してさらに気分が落ち込んでしまうからです。

「不幸は道連れを欲しがる」はある意味で真実です。抑うつ状態の人がシャーデンフロイデの感情を抱くと、交友関係を損なうおそれがあります。

抑うつ状態だった人がこの状態に陥ると、さらに孤立を深めてしまい、結果、抑うつがさらにひどくなる可能性があります。

幸いなことに、シャーデンフロイデの感情を扱うためのアプローチがいくつかあります。

ここでは、そのうちの2つを紹介します。

1. 心理学によるアプローチ

Magavi博士は、シャーデンフロイデを感じたことを気を病んでいる患者たちと応対する際、以下の3つのアドバイスをしています。

感情を「内面を見つめる機会」にする

内省し、自分への気づきを高めることで、感じた感情と向き合い、原因を理解し、思考をリフレームしやすくなります

また、Magavi博士は、こうした作業に慣れていない人は、信頼できる友人や家族、セラピストに相談し、感情の処理を助けてもらうことをすすめています。

自分の感情に関する日記をつける

文字に表すことで、自分の思考や感情についての気づきを高める効果があると思われます。

シャーデンフロイデの感情を引き起こした状況について考えを巡らせることは、「誰もが人生のどこかで失敗を経験して苦しむのであり、完璧というものはただの考えに過ぎないことを思い出す」機会にもなる、とMagavi博士は言っています。

白黒思考に陥らないようにする

私たちは誰もが、白でもなく黒でもないグレー領域に存在しています。私たちは友人が転ぶと笑います。

しかし、それと同時に助けようと駆け寄り、無事かどうかを気にかけます。人間の感情の移ろいやすさを受け入れれば、罪悪感や恥の意識から解放されます

シャーデンフロイデの感情が強すぎて困っている人は、「健康的な食事、運動、ポジティブな言葉がけ、マインドフルネスを実践して、自分への思いやりを高める練習をする」ことを博士はすすめています。

2. 哲学によるアプローチ

シャーデンフロイデに哲学的にアプローチするやり方は無数にありますが、今回は特に、ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェに焦点を当てることにします。

ニーチェは、このシャーデンフロイデに対して、興味深く有意義な見解を持っていました。

フォーダム大学の哲学准教授であるMichael Baur博士は、米Lifehackerに次のように語っています。

シャーデンフロイデは、悪人がついぞ当然の報いを受けたことに対する道徳的に正当な反応なのだと思いたくなります。

多くのアメリカ人が、トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染したと知って喜びを感じたのは、そういうことなのでしょう。

しかし、ニーチェは、シャーデンフロイデは道徳的な正しさや、道徳の高さの証しではないと言っています。

そのまったく逆で、それは人の恨みの感情の証しであり、人の弱さや虚無感の証しなのです。

ニーチェは、欲求不満と恨みを抱いている人だけが、他人をこき下ろしたり、他人の失敗に満足を見出すことで、自分を優位な場所に置こうとするのだと考えていました。

ニーチェにとって、真に優れた人物とは、達成や成功をゼロサムゲームとは見なさず、「ほかの誰かが敗者になることで、自分が勝者になれる(あるいはその逆)」とは考えない人物なのです、とBaur氏は説明しています。

ーー2020年11月19日の記事を再編集のうえ、再掲しています。

Source: Merriam-Webster.com, Community Psychiatry, PubMed, Ursinus Colledge, U. S. News & Report, Fordham University