ライフハッカー[日本版]とBOOK LAB TOKYOがコラボするトークイベント「BOOK LAB TALK」。

第10回目のゲストは、『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』(日経BP)を監訳されたエール取締役の篠田真貴子さんと、株式会社タレンティオ、および人事労務クラウドSmartHRのグループ会社Looper代表の佐野一機さんです。

これからのビジネスパーソンには「聞く力」が必須になる」と話す篠田さん。「聞く力」が生み出す莫大なエネルギー、そして「聞き合える組織」のメリットや作り方について、ライフハッカー[日本版]編集長の遠藤祐子が聞きました。

ジョブレス期間に知った、聞くことの力

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Screenshot: ライフハッカー[日本版]編集部 via Zoom

ほぼ日取締役CFOを退任後、ジョブレス期間を経て、2020年にエール株式会社取締役に就任した篠田さん。同社は社外人材によるオンライン1on1サービスを提供しています。

「聴くこと」を追求するエール株式会社への参画を考えはじめたのと同じタイミングで『LISTEN』が刊行されたのは、まさに運命的な出会い。原書の前書きを一読して「これが私の言いたかったことだ!」と引き込まれ、自ら編集者に提案して監訳、出版へと漕ぎ着けました。

著者のケイト・マーフィーは、『ニューヨーク・タイムズ』を中心に米英の有力紙で活躍するジャーナリスト。本書ではコミュニケーションにおいて注目されやすい「話すこと・伝えること」ではなく、これまであまり関心を持たれなかった「聞くこと・聞かれること」が、人生をいかに豊かにするかが語られています。

多くの人は学校で話し方は学んでも、聞き方は学びません。私も元々は聞くことが苦手な人間。特に外資系企業にいたころは、自分の主張を通すために人の話を遮って持論を展開することが推奨されていましたし、そのことに疑問も持ちませんでした。

聞くことのパワーに気づいたのは40代から。何よりもジョブレス期間中、多くの人とフラットに、ただお喋りする時間を持てたことが大きかった

人に話を聞いてもらうことで自己理解が進んだし、相手も自分のターニングポイントや、しんどかったときの話をしてくれて。すごく良い時間が作れる、関係性が一歩深まるという経験をしたんです。(篠田さん)

「聞く側」は「話す側」より弱い、というのは思い込み

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Screenshot: ライフハッカー[日本版]編集部 via Zoom

篠田さんと佐野さんが知り合ったのは10年ほど前。篠田さんが「ジョブレス」だった期間中も対話を重ねました。

佐野さんはクラウド型採用管理サービス「Talentio」に加えて、2020年に人材マネジメントシステムを開発・提供する「Looper」を設立。変化の時代を生き抜く経営戦略をサポートするHRマネジメントシステムを提供しています。

『LISTEN』で興味深かったのは、listenであってaskではないということ。質問力をいかに高めるかという本ではなく、聞いているときにどういう状態であるかが重要視されています。(佐野さん)

“聞くこと”とは“意思決定”だと思う」と佐野さん。

強いのは発信側(話す側)であり、受信側(聞く側)は弱い立場だと思われがちですが、真に決定権やイニシアチブを持つのは聞く側の人。それなのに、聞く側は「強い立場」にあることを忘れて、意思決定しないまま“流し聞き”をしがちだと指摘します。

どういう立場で聞くのか、何を聞くのか、なぜ聞くのか。それらをしっかり考えながら聞くのは難しいことであり、無駄なく受容するためには体力がいる──そう話す佐野さんに、篠田さんも大きく頷きます。

多くの場合、特に組織の文脈では“聞く側にパワーがある”とは思われていません。聞く=従うことであり、ひいては“聞くだけというのは知的怠慢である”という刷り込みがある。(篠田さん)

「会議でまったく喋らないなんて、聞いているだけなんて何事だ! ということですね。むしろそう教育されている面がありませんか?」(遠藤)

そうなんです。でも本当はそうではないということを、この本は一生懸命伝えているわけです。それと同時に、人にじっくり聞いてもらったときにどんな素晴らしいことが起きるかという実例もたくさん書かれています

人の話を聞いているとワクワクして止まらなくなる元CIAエージェントとか、だいぶ変わっているな、っていう人も出てくるんですけど(笑)。(篠田さん)

聞いてもらうことで問題解決能力が上がるという実験も紹介されています。静かに黙って、相手を受け入れて聞くことが、人を話しやすくさせたり、その人のクリエイティビティを発揮させたり。」(遠藤)

「まず聞こう」。この技を覚えると仕事の幅が広がる

2社で代表取締役をつとめる佐野さんは、普段から「聞く」をとても大切にしているとのこと。

新自由主義的というか、市場原理で行くところまで行くんだという発想と、発信する・従わせるという行動は組み合わせがすごくいい。

だから業績が伸びていれば、セクハラ・パワハラもおきる……といったことが一部のスタートアップなどでまかり通ってしまっていたし、人の話を聞かないこともよしとされてきた。これは大きな問題だと、ここ10年で思うようになりました。

そもそも会社は経済活動のためにあるのだから業績を伸ばすことは重要ですが、人格より大事なものなんてない。

僕は経営者として、ちゃんと言いたいことがある人の話は、どんな反対意見だったとしても絶対に聞き通すと決めています。実践するのはとても難しいのでできていないこともありますが、少なくとも姿勢としてはそうでありたいと。ただしそれは、相手の意見を受け入れるということではない。相手の意見は尊重するけれど、僕はそう思わないからごめんなさい、ということもあります。(佐野さん)

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Screenshot: ライフハッカー[日本版]編集部 via Zoom

いま佐野さんが仰った、“一旦自分の判断を脇に置いて、まず聞こう”。この技を使えるようになると、コミュニケーションの幅がすごく広がるんですよね。

私は脊髄反射ですぐに自分の意見を言ってしまうほうだから難しかったけれど、この技の有益さを知識として知ると、下手でもちょっとずつできるようになりますよ。(篠田さん)

ネガティブなことを言われたときは、すぐに感情と結びつけないのがコツ。もしかすると相手はその先に、あなたにとって有益なことを話そうとしていたかもしれません。そのチャンスを逃してしまうことは、ビジネスパーソンにとって大きな損失です。

「聞く」ときにしてはいけない質問は?

ビジネスでもプライベートでも、「この人が考えていることをちゃんと知りたい」と思ったとき、聞く側としてはどんな態度が必要なのでしょうか。

佐野さんが気をつけているのは、恣意的・誘導的な質問をしないこと。「いや……」という言葉で話を遮ったり、「〇〇じゃないですか」といった言い方はしないように気をつけています。自分の意見を挟んで質問したいときは「僕はこう思うけど、どう思う?」と聞くとのこと。

篠田さんはあくまでもフラットに、「あなたの考えと私の考えを並べてみましょう」という方向に持っていくのがいいとアドバイス。わだかまりなく聞き合える関係性は、いま注目される心理的安全性にもつながります。

もちろん仕事ですから、それだけで回るわけではありません。でも、そういうコミュニケーションが一定程度あるだけで、人は本音が言えるようになる。

青臭いかもしれないけれど、本当はこうしたいよね…というような議論って、やっぱり“ちゃんと聞いてくれる”という安心感がないと怖くてできませんよね。(篠田さん)

ワクワクする組織、みんなでがんばろうと思える組織を作りたいなら、「聞き合える組織」は目指すべき姿のひとつ

人材の価値を最大限に引き出す人的資本経営や、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)の向上も、現場で「聞く」というアクションなしには実現しないでしょう。

現代社会で理想とされる経営のスタイルを実現するためにも、いまや「聞くこと」は欠かせないスキル。

20年程前に「PowerPoint」が登場してビジネスパーソンが飛びついたように、これからは「聞く」ことがもっと注目されるのではないか、と篠田さんは語ります。

3人のトークはこのあとも盛り上がり、「人に『聞くのが大事だ』と押しつけるのは逆効果」「聞くのに疲れたときはどうするか」といった話題や、2人が「この人は聞き上手!」と感動した人のエピソードなど、予定時間を過ぎても話し足りないほど。参加者も交えておおいに聞き合った、充実のセッションでした。

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「聞くとは、知ること」と回を締め括った篠田真貴子さんと、佐野一機さん。
Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

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Source: Talentio, Looper, エール株式会社