何よりも大切で、投資するべき資産とは何でしょうか? それは、お金でも不動産でもなく、「自分自身」ではないでしょうか。
変化の激しい現代において、常に学び、成長し続けることは必要不可欠です。しかし、一体何を、どうやって学べばいいのか。その「学び方」は学校では教えてくれません。
この「学ぶに勝る投資なし」特集では、自分自身を高める最高の投資としての「学び」について、最新の独学術やノウハウについてご紹介します。
第3回は、年間700冊以上の本を読む「毎日書評」連載でおなじみの作家、書評家の印南敦史さんに、読書から得る学びについて、読書へのハードルを下げる取り組み方や1冊の本から得るエッセンスの見極め方などを伺いました。今回は前編です。
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印南敦史

作家、書評家。1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「文春オンライン」など多くのウェブメディアで連載を持つ。2020年6月、「日本一ネット」より書評執筆本数日本一として認定。書評からエッセイまでを幅広くフォローする。
『遅読家のための読書術─情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた』(星海社新書)『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)など著作多数。
もともと遅読家だったという印南さん。
ライフハッカー[日本版]で書評家としての活動をはじめてからその状況は一変。今では毎朝読書時間を設け、1日1冊以上、年間で700冊の本を読む生活をしているというから驚きます。
日頃、読書にコンプレックスを感じている人が読書習慣を身につけ、たくさんの本の中から必要な情報を読み解く技術を得て、学びにつなげるためにはどうしたらいいのでしょうか。「毎日書評」担当編集のライフハッカー[日本版]編集部 丸山美沙が聞き手となって話を伺いました。
読書に過度な期待をしない

ーー印南さんが考える「学びにつながる読書」とはどんなものですか?
僕は「学ぶために読もう」と思っていません。
学ぶために読もうと思うと、そこでひとつ壁ができてしまうから。いつでも読書ごころを駆り立ててくれるのは、子どもの頃に感じたようなワクワク感や好奇心です。
この本を読むことによってどんな学びを得られるかではなくて、単純にどんなことが書いてあるんだろう? どこが自分に刺さるんだろう? という興味が第一。学ぼうと思って読むと逆に学ぶことはできないんじゃないでしょうか。
本への期待ではなく「この読書は、きっと自分にとって何も与えてくれないだろう」とはなから期待しないで読んでみて、何かを見つけられたり、得られたりしたら、めっけもんじゃないかという気持ちで読めばいいんです。
「この本から100を得よう」と思うから、結局1も得られないんじゃないかな。
何かを得ようと思って読むほど、実は読書が辛くなってしまう。自分で読書のハードルを上げてしまっているんですよ。
本は、単純に面白そうと思ったものや、ジャケ買い(表紙買い)でもいい。別に読書で失敗したっていいじゃないですか。
そもそも人間は失敗する動物なんだから、読書だって同じ。読んでみて、この本は合わなかったなというのも学びなわけです。
だって、同じテーマの本を次に買うとき、一度失敗を経験していれば、次は違うアプローチのものを選ぼうと選ぶ指標ができるから。だから、失敗したと思ってもその読書は失敗じゃないんです。
学びにつながる読書がうまくいかないのも、思うように本が読めないのも、すべては読書や本に期待しすぎているから。その期待をすべて取っ払って純粋に楽しんだらいいんです。
ーー読書へのハードルを下げるにはどうしたらいいのでしょうか?
期待と同時に危険だなと感じているのは、何かを(過剰に)得ようと思うことや、全部を記憶してやろうなどと思うこと。
その根底にあるのは、(お金も時間も)元を取りたいという気持ちかもしれません。でも、そんなのは不可能じゃないですか。人は忘れる生き物だってことを思い出さなくちゃ。
読書に対して、「〜〜すべき」「〜〜ねばならない」が多い人ほど読書のハードルが高くなるし、本への理想も高くなる。だから僕は、「たかが読書である」という表現を意図的に使っているんです。本来、たかが読書に振り回されることなんてないはずだから。
あくまで読書は行為のひとつ、そこから何を得ようが、何も得られなかったとしても自分にとっての結果でしかないから、どんな読書体験も失敗ではないと思っています。
ーーなぜ読書に対して、ストイックになってしまうのでしょうか?
小さい頃から本をたくさん読むのが正であるという教育が根本にあるのが原因のひとつかもしれません。また、小学生の頃から夏休みの読書感想文で要点をまとめたり感想を書いたりすることを求められていたから、読書のあとには何かを残さなくてはと無意識に思ってしまうじゃないでしょうか。
そんな背景もあり、読書はいいことで、逆に本が読めないのは悪いことと思い込んで、読めていない自分を責めている人が多いんです。
僕は、そう感じている人がおそらく世の中の9割で、ストレスを感じることなく本を読めている人なんて、全体の1割に満たないと思っています。
読んでいなかったり、読めていなかったり、読めなかったり…読書をしないのは、劣っているように見えるかもしれないけれど、普通のことなんです。
また、読書で学びを得たいと考える人は、同時にもっと「合理的にしたい」とも思っているはず。それもやめたほうがいい。
だって、早く読めないし、覚えられないし、忘れるんだから、合理的な読書なんてないんです。本質的に合理的じゃないんですよ、人間って(笑)それを認めたら本を読むハードルも下がって、もっと読書が楽になるんじゃないかな。
印南流「1%のエッセンス」をつかむ本の読み方

ーー1冊の本から、重要なものを見極めるテクニックはありますか?
まず大前提として1冊のすべてが自分のためになるとは、考えなくていい。100%を覚えるんじゃなくて、1%でも自分の中に残れば、その読書は大成功。そのくらいの意気込みで読むこと。
人は忘れるし、いつまでも覚えてはおけない。本を読みながら無視しようと思っても頭に残ってしまう部分が出てきたら、それが自分にとっての1%のエッセンスだと思うんです。
1.序文:その本を読むかどうか判断する
どんな本でも、序文に著者が言いたいことが凝縮されているので、まずそこを読み、この本を読むか読まないかの判断をします。
2.目次:自分に必要なところを見極める
次に目次。目次を見れば、自分に必要なところがどこかわかる。その本のすべてが必要なわけではないと見極めることができます。
3.不要な部分は飛ばして読む
たとえば冒頭によくある著者の個人的なエピソードや小話、そこが過剰だったり、共感できなかったりするとつまづいてしまうことも多いんです。
でも、その部分を全部飛ばして先を読んでみたら、知りたかった本題がわかりやすく説明されていたなんてこともありますよね。
ビジネス書や自己啓発書など(ストーリー性のある小説やエッセイなどを除く)は、章単位であれば、どこから読んでも飛ばしても読みやすいようにつくられていることが多いため、「飛ばすこと」や「読まないこと」を恐れなくていいんです。
4.頭に残った「1%のエッセンス」を大切にする
そうやって読むことで、自ずと必要な部分は頭に残ってきます。もちろん全く頭に入ってこない本もたまにはありますが…。
たとえば、カフェで作業をしていたら、ふとBGMが耳に入ってきて、急に気になってしまうことってありますよね? 自分にとって必要だから気に止まったんだと僕は思うんです。
読書のエッセンスも同じ感覚で、なんか気になる、なぜか引っかかる一文やフレーズはあるものです。そういうものを少しずつでいいから意識するようにして、大切にしていければいいんじゃないかな。
後編では、本の「要点」を記憶に残すためのアイデアや、印南流「とっておきの本」との出会い方を教えてもらいます。
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