「いいたいことがいえなかった」
「どう伝えたらいいのかわからない」
「話しはしたものの、伝わっていない気がする」
日常的なコミュニケーションにおいて、このような課題に直面することは少なくありません。しかしコミュニケーションには本来、“伝える力”と“受けとる力”の両方が求められるもの。
にもかかわらず私たちは、伝え方や話し方ばかりに意識を向けてしまっているのではないでしょうか?
そこで、ともすれば忘れられがちな「聞く」に焦点を当てているのが、きょうご紹介する『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』(ケイト・マーフィ 著、 篠田真貴子 監訳、松丸さとみ 訳、日経BP)。
聞くことが大切な職業には、たとえばカウンセラー、医療職、介護職があります。企業でも「1 on 1」と呼ばれる、上司が部下の話にじっくり耳を傾ける面談スタイルを取り入れることが増えてきました。
本書ではそうした職業に加えて、人質交渉人、即興劇のコメディアン、諜報機関の尋問担当、大型家具店の営業担当者などが登場し、彼らにとって聞くことがどれほど重要かを語っています。(「監訳者はじめに」より)
また、じっくり話を聞いてもらうことや、聞く姿勢とスキルを身につけることの重要性が、最新の科学、実践例、さまざまな専門家の見解とともに明らかにされているところも重要なポイント。
そんな本書のchapter 3「聞くことが人生をおもしろくし、自分自身もおもしろい人物にする」のなかから、2つのトピックスに注目してみましょう。
うなずいたり、おうむ返しは「聞く」ことではない
「いかにして優れた聞き手になるか」についての“手っとり早いアドバイス”は、巷にたくさんあふれているもの。しかし、それらはどれもコンセプトが似通っていると著者は指摘しています。
彼らの方法論は要するに、聞いている姿勢を見せましょう。
それには、アイコンタクトをする、うなずく、ところどころで「そうだね」を入れることが有効ですよ、さらには、話をさえぎってはいけない、相手が話し終わったら言葉を繰り返したり、言い換えたりして合っているか確認し、合っていなければ直してもらえというものです。
そして、聞き手であるあなたはここまで待って、話していいのはやっとここからですよ、ということです。(99ページより)
たしかに、そういう考え方はよく目にします。では、なぜそういった聞き方が「いい」とされるのでしょうか? 著者によればそれは、こういった方法を実践すれば、自分が欲しいものが手に入るという前提があるから。
もちろん、傾聴はこうした目標達成の一助となることでしょう。しかし、それが人の話を聞く唯一の動機なのであれば、それは“聞いているふりをしている”にすぎないことになります。
だとすれば当然のことながら、相手もそのことにすぐ気づくはず。逆説的にいえば、もし本当に相手の話を聞いているのであれば、そんなふりをする必要はないわけです。
聞くという行為には、何よりも好奇心が必要です。(中略)みんな子どものころは、あらゆるものが目新しく、何に対しても誰に対しても好奇心旺盛だったはずです。(100ページより)
このことについて物理学者のエリック・ベツィグは「誰だって、生まれながらにして科学者なんですよ」といったそうです。「それなのに、内なる科学者を追い出してしまう人が多くて残念です」とも。
つまり、その場をしのぐためにうなずいたり、おうむ返しをすることではなく、相手の話に対して純粋な好奇心を持つことが重要だということなのでしょう。(98ページより)
他人に関心を持って過ごすことができる人は、多くの友人ができる
ジャーナリストとしての著者にもっとも役立っている学びは、「適切な質問さえすれば、誰もがおもしろくなる」ということなのだそうです。もし退屈でおもしろくなさそうな人がいたのであれば、それは発信者であるこちらに問題があるということ。
ユタ大学の研究者らが行った調査では、「しっかり聞いてくれない人が相手だと、話そうとしている内容を思い出しにくくなり、伝える情報も不明瞭になる」ことが明らかになりました。
反対に熱心な聞き手は、何も質問をしなくても、話し手からより多くの情報や関連した話、詳細を引き出すことができました。
つまり、もし誰かのことをつまらないとか、聞く時間がもったいないなどと思って話を聞いてしまうと、本当に話をつまらなくしてしまうのです。(103ページより)
ため息をついたり、視線を泳がせたりして、明らかに興味がなさそうな人に対してなにかを伝えようとしているとき、自分がどうなってしまったかを思い出してみてください。
口ごもったり、細かいことをはしょったり、相手の関心を惹こうと思うあまり、関係ない話までしゃべってしまったりしたのではないでしょうか。
あるいは、当たり障りのない笑顔を見せたり、興味がなさそうな相手を前に、話の続きを口にしづらくなってしまったかもしれません。
「自分に関心を持ってもらおうと過ごす2年間よりも、他の人に関心を持って過ごす2か月間の方が、多くの友人をつくることができる」(104ページより)
これは名著『人を動かす』に記された、デール・カーネギーのことば。つまり「聴く」とは関心を持つことであり、その結果として興味深い会話が生まれるということです。
話し相手についてのことや、その人の経験から自分がなにを学べるかは、会話が始まった時点ではまだわからないもの。だからこそ、その会話からなにかを学ぼうという姿勢が大きな意味を持つのです。(103ページより)
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著者は、『ニューヨーク・タイムス』を中心とした米英の有力紙で活躍するジャーナリスト。2年間にわたって大量の文献を読み込み、さまざまな領域の人々にインタビューを行って本書をまとめあげたのだそうです。
「聞く」ことを通じて視野を広げ、人生をよりよいものにするために、ぜひとも読んでおきたい一冊です。
Source: 日経BP