「自分は息をしているだろうか?」「この呼吸法で大丈夫だろうか?」――人生の中で、このような疑問を抱く機会はそう多くはないはずです。
とはいえ、ジムという環境になると話は別です。誰かに「こういう風に呼吸するべきだ」というアドバイスを受けると、うっかりワナにはまってしまいがちです。
「いつ息を吐き、いつ息を吸うべきなのだろう? おっと、今息を止めてしまった……これって良くないことなのだろうか?」と考えてしまうわけです。
呼吸法に限らず、エクササイズの世界ではたいていそうなのですが、正しい方法は、運動をしている人や運動の種類によって違ってきます。相反するアドバイスを耳にしてしまった人も、悩むことはありません。
この記事では、ケース別に整理して、時と場合に合った適切な方法をお教えしましょう。
ウエイトを持ち上げる時は息を止めるべき?
さて、呼吸法について最初に大きく意見が分かれるのは、「リフティング中も呼吸をすべきか、それとも息を止めるべきか」という問題です。
私の場合、リフティングをしている最中はたいてい息を止めています。
私はジムで過ごす時間の大半を、コンパウンド種目という複数の関節を大きく動かすタイプのリフティングに費やしています。
具体的には、バーベルスクワットやデッドリフト、スナッチ、クリーンなどです。こうした運動をする時、私はたいていベルトを装着しています。
また、ウエイトを持ち上げている最中は「お腹のコア」を引き締めるためにブレーシング(腹筋を縮めて腹壁全体を堅くする)ことを心がけています。
こうしたリフティングを行なう際に大いに力を発揮するのが、バルサルバ法というメカニズムです。これは「いきむ」動作によって体の筋肉に力が入る生理現象を指す医学用語です。
あなたもおそらく、トイレでこの方法を実践したことがあるでしょう。
腰にベルトを巻き、お腹のコアを引き締めるとともに肺にため込んだ空気の圧力がかかることで、私の胴体は安定し、脊椎のケガを防ぐことができます。
また、コアを引き締めず息を止めない場合と比べて、重いウエイトを持ち上げることができます。
ウエイトを背負ってしゃがみこんだ重量挙げの選手の顔がトマトのように真っ赤になるのを見れば、こうした選手もバルサルバ法を用いていることがわかるでしょう。
「いきむ」のがNGな場合とは?
リフティング中に息を止めても、大半の人では体に悪い影響が出ることはほとんどありません。とはいえ、一部の人では、安全上の理由から息を止めるべきではない場合があります。
バルサルバ法を使うと、一時的に血圧が上昇することがあり、めまいを起こしたり、さらには気を失ったりするケースもあります。特に息を止めている時間が数秒を超えると、こうした現象が起きやすくなります。
アメリカ心臓協会の勧告では、初心者や心臓血管に関する疾患がある人の場合は、リフティング中に息を止めないようにと注意を促しています。
また、バルサルバ法は妊婦には適さないとされています。腹圧が高まることで、胎盤に悪影響を及ぼすリスクがあるからです(あなた自身の個別の問題として、リフティング中に息を止めるべきでないケースに該当するかどうかを知りたい場合には、かかりつけの医師に相談してください)。
さて、実際にバルサルバ法を使った場合、ウエイトを持ち上げる動作をしている間は息を止め、ウエイトを下ろしてからまた持ち上げるまでの間に、動作を止めて息を吸ったり吐いたりすることになります(たとえば、バーベルスクワット動作を繰り返す途中で、立ち姿勢をとっている間などです)。
ウエイトを持ち上げている時に息を止めない場合、適した呼吸法は?
まず言っておきたいのは、現実問題として「間違った」呼吸法など存在しない、ということです。それでも、たいていの場合に役立つ経験則があるのも事実です。
エクササイズの最中、人は一番きつい運動をしている時は息を吐き、運動の強度が落ちたところで息を吸いたくなるものです。
つまり、筋肉をぎゅっと収縮させる(ウエイトを持ち上げる)時は息を吐き、筋肉を緩める(ウエイトを下ろす)時は息を吸う、というが基本的なセオリーです。
わからなくなった時は、あなたが取り組んでいるエクササイズの中で、どこが一番きついのかを考えてみましょう。
たとえば、バーベルスクワットをしているとしましょう。この場合は、しゃがみこんだ時に息を吸い、ウエイトを持ち上げている時は息を吐きます。
バーベルスクワットで一番負荷がかかる部分(「スティッキング・ポイント」と呼ばれます)は、立ち上がろうとした直後の瞬間のはずです。
では、デッドリフトの場合はどうでしょう?
この動きで一番きついのは、ウエイトのバーを持ち上げている最中です。ですからここで息を吐きましょう。そして、バーを下ろしている時に息を吸えば良いのです。
Source: American Heart Association, The Children’s Hospital of Philadelphia