先延ばしは携帯電話やWi-Fiの電波障害みたいなもので、誰もが経験しているのに、実際に何が起きているのかをわかっている人はほとんどいません。

先延ばしは、今すべきことにイエスと言えないという問題ではありません。やらなくてもいいことにノーと言えない問題なのです。

先延ばしはさまざまな形で現れますが、共通する点が1つあります。すべきことをするかわりに、気休めになることをしようとする衝動がその根本にあるということです。

今すべきことをするかわりに、風呂の掃除や、皿洗いなど、さほど重要でないToDoタスクばかりをやろうとします。生産的な作業に取り組むかわりに、Facebookで無意味な情報を何時間もチェックし続けます。

また、内なる恐れや準備不足を直視していないことが先延ばしとなって現れるケースもあります。

重要な仕事に集中する、Facebookのタブを閉じる、内なる恐怖と向き合う、先延ばししていることが何であれ、長い目で見ればためになるとわかっていることを、つい避けてしまいます。なぜそうなるかと言うと、脳が衝動性をうまく制御できていないからです。

衝動性とは何か

テレビや映画の影響で、衝動的な人とは、平気で危険をおかす人だというイメージがついています。危険な行動も衝動性の現れではありますが、実態はそんなにドラマチックではありません。

衝動性とは単純に、衝動にかられて即座に行動してしまうことを意味します。何かをやりたくなったら、すぐに行動に移します。長い目で見た結果を顧みずその場の欲求に従って行動してしまうのです。

行動学の研究者、Martial Van der Linden氏とMathieu d'Acremont氏が、The Journal of Nervous and Mental Diseaseに発表した2005年の研究によると、衝動性は大きく4つのタイプに分類できるそうです。

  • 切迫感:何でも今すぐやらないと気がすまない。
  • 計画性の欠如:考えたり計画したりせずに行動する。
  • 忍耐力の欠如:長い時間がかかるタスクをすぐに諦める。
  • 刺激・快感の追求:刺激や快感が得られることばかりをやろうとする。

誰でも少しは身に覚えがあることだと思います。しかし、衝動的な人は、こうした衝動を抑えることができません。その結果、「やるべきだとわかっていることを簡単に放り出しその場の欲求を満たそうとします。

たった今感じたばかりの衝動を、ずっと前からやるべきだとわかっていたことと同じくらい重要だと考えてしまうのです。事前の計画など関係ありません。何よりも大事なのは、「たった今」したいと感じたことをすることなのです。

衝動性は、ADHD(注意欠陥多動性障害)や薬物乱用を含む、多くの神経障害に共通して見られる特徴です。ADHDの人は、すぐに気が散ります。頭に浮かんだことを口に出したり、気になったおもちゃを手に取ったりすることのほうが、今取り組んでいる作業より大事だと感じてしまうのです。

薬物乱用の問題を抱えている人にとっては、薬物を摂取したいという目下の欲望が、長い目で見た結果よりも重要となります。瞬間の衝動が何よりも優先されるのです。

衝動性が生産性に与える影響

衝動的な行動はすべて有害だというわけではありません。問題となるのは、衝動を抑えられず無意味な行動をとってしまう場合です。たとえば、こんなシーンを想像してみてください。

あなたはデスクで仕事の書類を処理している。すると、携帯のバイブが鳴り、Facebookメッセージが届いたことが知らされる。ブラウザで新しいタブを開き、メッセージを確認する。

すると、おもしろいフィードが目に入ったので、チェックし、そのままページをスクロールしていく。すると、興味をひかれる記事があったので、10分ほど読みふける。

すると、コメント欄にでたらめを書いている人がいたので、正しい事実を書き込んでおく...。ふと時計を見上げ、まったく意味のないことに30分も費やしていたことに気づく。

このストーリーでは、実に4回も、外からの刺激に反応して、どうでもいいことに時間を浪費しています。携帯のバイブ、Facebookの面白い写真、興味をひかれる記事、でたらめなコメント、こうしたものすべてが、今取り組んでいる仕事よりも大事だと感じてしまったのです。

衝動に対してブレーキを踏み、「こんなどうでもいいことに今すぐ対応する必要はない」と自分に言い聞かせられなければ、衝動性に生産性を食い尽くされることになります。

1つの衝動に負けると、次々と連鎖反応が起こります。携帯のバイブを無視できなかったばっかりに、そもそも存在しなかった3つの誘惑に惑わされる結果になったのです。

気がそがれかけた時にブレーキを踏める能力が衝動性の制御には不可欠となります。たいていの人は、集中する能力自体は持ちあわせています。

身につけるべきスキルは、より集中力を高めることではなく重要でないのに重要そうに見える衝動を無視したり先延ばししたりできるようになることです。

そのためにできること

衝動性は人格にもさまざまな影響を与えます。衝動性の問題は怒りの問題とよく似ています。時には怒ることも必要ですが、制御できないほどの怒りは深刻な問題を引き起こします。

同じように、衝動性も、治療すべきものというよりは、制御すべき性格の1側面なのだと考えるほうがよいでしょう。

マインドフルネスの訓練をする

マインドフルネスとは、簡単に言えば今この瞬間に完全に集中することです。自分が今何をしているのか、何を考えているのか、何をしようとしているのかを意識し続けるということです。

また、マインドフルネスには、思考を監視し衝動的な行動を制御するという側面もあります。当然ながら、衝動性の問題を抱えている人は、マインドフルの状態を保つことが苦手です。頭に浮かぶ雑念にいちいちとらわれ、行動に移してしまいます。

幸いなことに、マインドフルネスは訓練で上達します。

深刻な衝動性の問題を抱えている人にとって、マインドフルネスの訓練はまるで拷問のように感じられるかもしれません。しかし、効果はあります。

マインドフルネスはただの儀式的行為ではなく脳に集中の仕方を教えるものです。1つのタスクに長時間集中できない人は、マインドフルネスを実践することで、集中するとはどういう状態なのかを脳に教えることができます。

マインドフルネスは、アプリを利用したり、家事をしたりしながらでも訓練できます。また、感情と自己を同一視しないのもマインドフルネスの訓練になります。

すぐにできなくても心配はいりません。それが普通だし、そこが重要な点でもあります。脳を繰り返し訓練すれば衝動性を制御できるようになるということです。

リスクファクターを理解する

私は、蚊の交尾の動画に気を取られて、仕事を中断したりはしません。一方、マーベル映画の予告編が公開されたら、絶対に見てしまうことでしょう。人それぞれ、どうしてもあらがえない弱点があるものです。何がトリガーになるのかを理解しておけば衝動が起きる前にそれを回避することができます

たとえば、上で出てきた事例で言えば、携帯電話のバイブが鳴るとどうしてもチェックせずにいられないと言うなら、携帯を機内モードにしておくか仕事中は通知しないように設定しておきます。

先延ばしをうまく利用する

今すぐそれをやらないと、一生やれないと感じさせるのが衝動性の特徴です。少しくらい先延ばしをしてもいいんだと自分に言い聞かせることで、こうした焦りを和らげることができます。

何かがどうしても気になり始めたら、「やらないではなく、「今はやらないと言ってみましょう。先延ばし戦略をうまく利用している人たちは、やるのを少し延期するほうが、まったくやらないでおこうとするよりもずっと簡単であることを理解しています。

1日のどこかで気になったことをまとめてやる時間を確保しておけば、今すぐやらなければと思いつめる必要もなくなります。そうすることで、目の前のタスクに集中できるようになります。

セラピストに相談する

仕事が深刻なほど手につかない、わずか数分も集中できないと言うのなら、セラピストに相談することをお勧めします。

気が散りやすいという理由でセラピストにかかるのは気が引けるかもしれませんが、それほど珍しいことではありません。大人のADHDというケースもあります。

助けを求めるのは決して恥ずかしいことではありません。深刻な場合は薬が処方されますが、エクササイズの課題を与えられるだけといったケースもあります。

デスクに座って「集中!」と叫ぶだけで集中できるなら簡単ですが、それだけでは頭の中に浮かんでくるとりとめのない思考を取り除くことはできません。1つの思考を強引に押し通そうとするよりもほかの雑念を抑える訓練をしたほうがずっとうまくいくのです。

――2016年3月25日の記事を再編集のうえ、再掲しています。