「見える化」ということばについては、個人的には「可視化」と表現したいと考えているのですが、“トヨタにおける見える化”ということになると少しばかり話が違ってくるようにも思えます。
なぜならトヨタにおいての「見える化」は、「目に見える管理」を意味するものだから。『トヨタ流 仕事の「見える化」大全』(松井順一、佐久間陽子 著、アスコム)も、そのような観点に立った一冊であるといえます。
テレワークの急速な広がりの中、一人ひとりの仕事が見えないということが大きな問題となり、仕事を見えるようにすることが仕事の管理上の課題となっています。
本書は、そのような状況の中、テレワークなどの働き方に対応した見える化について、2009年の発行の『仕事の「見える化」99のしかけ』(日本能率協会マネジメントセンター)をリニューアルし、近年の仕事スタイルに対応させたツールと事例をご紹介するものです。(「はじめに」より)
日々のオフィス業務を「見える化」しようといっても、その対象は多種多様。また、採用するべきツールやフォームもそれぞれ違ってくることでしょう。
そこで、ならば、その大部分をフォローするツール集をつくったら、仕事をより良くしようと思っておられるビジネスパーソンのみなさまに役立つのではないか、参考資料として活用していただけるのではないか、というのが、本書を上梓しようと思った動機です。(「はじめに」より)
だとすれば、まずは「見える化」の基本を知っておきたいところでもあります。そこで、きょうは「導入編」内の「まずは、正しく『見える化』を理解する」に焦点を当ててみたいと思います。
「見える化」とはなにか?
端的にいえば「見える化」とは、“見えないもの”を“見えるようにする”こと。
当たり前のようにも思えますが、重要なポイントは「すでに見えているものは対象にしない」という点。
つまり「見える化」とは、普段は見えていないものを、“なにか特別なことをして見えるようにする”ことなのだそうです。
事実には、原因と現象があります。目の前に見えているのは現象です。現象も事実ではありますが、問題が発生したときに現象だけを観て対策したのでは、問題を解決することはできません。
その現象を引き起こしている原因をあぶり出して対策することで、はじめて問題を解決することができます。(18ページより)
とはいえ原因は、そう簡単に目の前に表れてはこないもの。そこで、細部まで調べ尽くして見えるようにしなければならないわけです。著者によれば、そのためのポイントは3つあるそう。(18ページより)
ポイント1:「見える化」は“トリガー(引き金)”にすぎない
“仕事の「見える化」”というと、「自分の仕事をカードに書いて貼り出し、誰がなにをやっているかわかるようにすること」と考えたくなるかもしれません。しかし、自分でわかりきっている仕事を書き出し、それをお互いに見せるようにしたところでなにもよくはなりません。
自分たちの仕事のなかで、なにをどのように変えてよくしていきたいのかを明確にし、そのために必要な行動を定義し、その行動を開始するために「なにを見えるようにしなければならないか」を明らかにする。それができてこそ、「見える化」を行う価値があるということ。
「見える化」は、何かをするにあたって、必要な行動を開始させるトリガー(引き金)です。
必要な行動に結びつかない「見える化」は何も価値がない見えた化に過ぎません。(19ページより)
これは、要注意点だと著者は強調しています。(19ページより)
ポイント2:「見える化」は“現在”を対象にする
「見える化」は、徹底して“現在の事実”を見えるようにするもの。
事実は普遍でも不変でもなく、時と場所、環境などによってコロコロと変わります。しかも過去の事実は、未来の事実ではありません。
去年売れたモノが今年も同じ理由で売れるとは限らず、来年は売れないかもしれないわけです。
完了してしまった“結果のデータ”を得るのはたやすいですが、完了前の途中段階での“事実のデータ”を得ることは意外と難しいのです。
ですから、多くの組織は、データの得やすい過去の事実から未来を予測して、計画し、その計画に従って現在の事実を見ないままに行動するというスタイルで仕事をしています。
「見える化」は、いまこの瞬間、現在進行中の事実を見えるようにして、確実に良い結果が得られるように調整を繰り返していくことです。(19ページより)
つまり結果から次の計画を立てることを繰り返すマネジメントではなく、現在の事実からいまの行動を調整することを繰り返し、結果を出すマネジメントを目指すものだということです。(19ページより)
ポイント3:必ず“夢”も一緒に「見える化」する
「見える化」は見えないものを見えるようにすることですが、見えないものは事実だけではないそうです。
未来の事実としたいもの、すなわち“夢”も、見えないもののひとつだということ。したがって、夢を「見える化」し、将来への期待とそれを担う自分たちの役割を認識させることが、組織を成長させるわけです。
「見える化」は、常に見えるようにするモノと行動を“対”として考えていきます。
夢も、単に“ありたい姿”や“状態”を描いただけでは、行動できません。
行動が開始できるまで具体化されなければ、「見える化」された夢とは言えないのです。(20ページより)
各人の内部にある夢は、個人の経験やひらめきに基づく知識=暗黙知としての状態。そのため、そのままでは人には伝わらず、共有もできないでしょう。
そこで、暗黙知の夢をお互いに明示して理解し、なにをしていけばいいのかを全員がわかるように形式化していく作業が必要だということです。(20ページより)
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著者がいうように、テレワークが浸透した状況下においては各人の仕事を見えるようにすることは重要な課題。乗り越えにくくもあるその壁をクリアするために、本書を活用してみてはいかがでしょうか?
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Source: アスコム