コロナ禍によるリモートワークの普及に伴い、「課長」を取り巻く環境が大きく変わろうとしているーー。
『課長2.0 リモートワーク時代の新しいマネージャーの思考法』(前田鎌利 著、ダイヤモンド社)の著者は、そう指摘しています。出社しなくても仕事ができる状況が整い、コロナ収束後もリモートワークが定着していくことはほぼ確実。そんな状況下、「課長」をはじめとする管理職のあり方も大きく変わりつつあるということ。
メンバー全員が出社するのが当たり前だったときには、各人の仕事ぶりや進捗状況を直接確認することが可能で、気軽にコミュニケーションをとることもできました。ところがリモートワークではそうもいかず、目隠しをされた状態でマネジメントをしなければならなくなったようなものだというのです。
とはいえ著者は、そんな状況を前向きに捉えているそうです。なぜなら、リモート・マネジメントという難問に対応できるようになったとき、管理職は大きな可能性を手にすることができるから。
これまで管理職は、チームの活動を管理するために、就業時間の多くを職場で過ごすことを余儀なくされてきましたが、リモート・マネジメントができるようになれば、その制約から「自由」になることができます。
そして、自由にフットワーク軽く動き回ることによって、社外人脈を開拓することができれば、情報感度を格段に高めることができるでしょう。
そこで手にした「資産」を会社やチームに還元することによって、自分自身の「人材価値」を格段に高めることができるのです。(「はじめに」より)
それこそまさに、「課長2.0」と呼ぶにふさわしい進化だということ。そこで本書では、これからの時代のリモート・マネジメントのあり方を論じているわけです。
きょうは新たなワークスタイルに焦点を当てた第5章「『課長2.0』とセレンディピティ」に焦点を当ててみましょう。
身軽な管理職になるためにやっておくべきこと
「課長2.0」を実現するうえで重要なポイントとして、著者は“部下をいかにプロモーションするか”を挙げています。
メンバーとの信頼関係というインフラをベースに、ていねいなコミュニケーションをとりながら彼らの自走力を引き出し、適時的確な意思決定によってチームを活性化させる。
それができれば、徐々に現場での介入から手を引くことができるようになるということです。
ここで大切なのは、自分の「後任候補」として育成してきたメンバーに、どんどん仕事を手渡していくことです。
職制上の責任は管理職である自分にあるのは当然のことですが、実質的にいくつかのプロジェクトの管理を「後任候補」に任せて、自分は後方支援に回るわけです。(317ページより)
そうすれば後任候補に管理職としてのウォーミングアップをしてもらうことができ、自分自身も身軽になれるわけです。したがって職場やチームに縛りつけられることなく、より自由に行動する「課長2.0」の状態へと移行していけるということ。
ただし、それを実践するためには必要なことがあるようです。そのメンバーが後任候補であるということが、本人はもちろん周囲にも認知されていなければならないというのです。
業務上の責任が増えることを本人が受け入れられるのは、その認識あってこそ。また上司や上層部にその認識がなければ、ただ部下に対して無責任に仕事を放り投げているようにも見えかねません。それでは、適切なチーム運営をすることが困難になったとしても当然です。
そこで、部下のプロモーションが重要になるわけです。必要なのは、後任候補のみならず、全メンバーの実力や能力、可能性、努力などを社内に知らしめ、本人のブランディングをすること。それがチームのブランディングにもつながり、各メンバーのモチベーション・アップにもつながるという考え方なのです。(316ページより)
部下プロモーションは「反復連打」が効果的
だとすれば、ぜひともその方法を知りたいところ。しかし著者によれば、それは簡単なことのようです。
チームとしてポジティブな評価が得られる局面で、それに貢献した担当者の名前をコツコツと伝え続けるのです。
例えば、上司にあるプロジェクトの実績が上がったことを報告するときには、必ず、担当者の名前を伝える。
あるいは、上層部も同席する重要な会議で事業提案プレゼンをして「GOサイン」を得られたときには、「これは◯◯さんの企画です。最近、めきめき力をつけているんです」などとさりげなく付け加えるのです。(318ページより)
あまりわざとらしくなると白々しく聞こえるので、「さりげなく」が重要なポイント。むしろ、聞き流されるくらいでいいのだそうです。それより重要なのは、ことあるごとに繰り返すこと。
そんな機会が積み重なることによって、上司などの心のなかに、自然とメンバーたちに対する高評価が刷り込まれていくということ。したがって、「反復連打」が有効だというのです。
なかでも、後任候補のプロモーションには時間と手間をかけるべき。著者が最も効果的だと感じたのは、自身が参加する社内会議に同席させたり、代理出席させることだったそうです。
そうすれば、後任候補として上層部や他部署のキーパーソンにプロモーションすることが可能になるわけです。そして当然ながら、それがそのメンバーのさらなる育成にもつながるということ。
上層部の会議に出席させるためには、そのメンバーが中心となってまとめた提案をプレゼンするときに連れていくのがいちばん自然。その提案について最も詳しいのはその人物なのですから、上層部としても拒否する理由がないわけです。
たしかにそうした配慮やテクニックが、結果的には部下を成長させることになるのでしょう。(318ページより)
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重要なのは、「課長2.0」によって自由を手にし、社外のリソースと広く深くつながっていくこと。
そこには自己の能力を高め、人生を豊かにしてくれる「出会い」があると著者はいいます。それが、私たちを大きく成長させてくれるのだと。本書を参考にして、マネジメントのあり方を考えなおす時期なのかもしれません。
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Source: ダイヤモンド社