リモートワークによる運動不足に悩む人が増えていますが、重い腰がなかなか上がらないというのが人情というもの。それなら、文字通りまずは「腰だけ」上げてみませんか?

この「『立つこと』から始める運動習慣」特集では、座りっぱなしがもたらす深刻な健康被害をお伝えするとともに、まずは「立つ」という最小単位の行動から運動習慣を始めることを提案します。もちろんそれ以降のステップアップとなる運動も含め、ぜひお試しください。

第1回は、「座りっぱなし」の弊害について広く訴えかけている、早稲田大学スポーツ科学学術院教授の岡浩一朗さんにお話を聞きました。座りっぱなしをやめて「立って少し動く」ことを習慣化することが大切と語ります。今回は後編です。

▼前編はこちら

座りっぱなしは死亡リスクが40%高まる? 正しい姿勢でも長時間はNG

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岡浩一朗(おか・こういちろう)

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早稲田大学スポーツ科学学術院教授。博士(人間科学)。1970年生まれ。1999年、早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程を修了。早稲田大学人間科学部助手、東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター研究所)介護予防緊急対策室主任を経て、2006年より早稲田大学スポーツ科学学術院に准教授として着任、2012年より現職。オーストラリアの座位行動研究の世界的権威であるネヴィル・オーウェン教授に師事し、座りすぎの健康リスクと対策に関する共同研究を進めている。

30分に1度立ち上がり、ちょこちょこ動く

座りすぎを防ぐには、まずは30分に1回、最低でも1時間に1回のペースで立ち上がること。これを実践することで座りすぎのリスクを減らせると岡さんは強調します。

30分以上座り続けると血流が低下したり、代謝が悪くなることが分かっているので、できれば30分に一度立ち上がるようにしてほしいと思います。

糖尿病や心臓病のリスクを下げるには、立ち上がるだけでは不十分なので、さらに用事を足すために2〜3分歩いたり、かかと上げなど下肢の筋肉を使うことを習慣化できるといいですね。

仕事中に「立つ」→「ちょこっと動く」ような用事を作ることがポイントなのだとか。例えば、以下のようなことです。

例1 トイレに行く

オフィスに出社していたら、あえて違う階のトイレに行って歩く距離を増やしましょう。階段を使えば活動量や活動強度は飛躍的にアップします。自宅のトイレであれば距離を歩くことはないので、洗面所で手を洗いながらかかと上げを行うなど、軽い運動をプラスすると〇。

例2 コーヒーを淹れてブレイク

仕事中にコーヒーを淹れに行くのも立ち上がるきっかけに。

例3 仕事中に使う資料や文具、スマホなどを離れた場所に置く

仕事で使うアイテムをデスクの上ではなく少し離れた場所に置けば、強制的に立ち上がることになります。

例4 郵便物をチェックしに行く

午前10時と午後3時に郵便物をチェックしに行くなど、立ち上がる時間をあらかじめ決めておくのも習慣化につながります。

座りすぎを強制的に防ぐアイテムとして、立ってデスクワークができる「スタンディングデスク」を取り入れるのも方法の一つ。

一部企業では導入されていますが、立つだけでも下肢の筋活動につながるうえ、次の「動く」というステップにスムーズに移行しやすくなります。

また、立って作業すると、昼食後の眠気を引き起こしにくいというメリットもあります。

リモートワークをしている人なら、棚やキッチンカウンターなどを活用してもいいのではないでしょうか。

ちなみに岡さんは、「自宅では棚に置いた炊飯器の上にPCを置いて作業するのが高さ的にちょうどいい(笑)」とのことでした。

ポモドーロ・テクニックは座りすぎ防止にも有効

集中力を持続するためのテクニックとして、ライフハッカーでも何度もご紹介しているポモドーロ・テクニック

集中力を持続させるために「25分作業して、5分休憩するサイクルを繰り返す」ものですが、5分休憩時に立ち上がって動くようにすれば、座りっぱなし対策としてもかなり有効です。「集中力の持続」と「姿勢の硬直化の防止」を両立させることができるのです。

リモートワーク中なら、5分の休憩中に、キッチンの食器を洗う、部屋の片付けをする、洗濯物をたたむなどといったちょっとした家事をこなすのもいいでしょう。

つまり、25分間仕事をして、立ち上がって家事や軽い運動をこなし、5分たったらまた仕事に戻る。これによって仕事で高い集中力を保ちながら、座りっぱなしを防ぎ、家事も片づけることができるのです。

リモートワークにおける働き方の最適解の一つではないでしょうか。

座りすぎをやめると、うれしい行動変容が起こる

座りすぎをやめて立ち上がり、ちょっと動くことを習慣化できれば、日常のシーンでも変化があらわれるといいます。

例えば、

●エレベーターやエスカレーターよりも階段を使うようになる

●電車やバスの席が空いていても短時間なら座らない

●遠回りをして歩く距離を確保しようとする

●歩くスピードが早くなる

立てば歩きたくなり、歩けばもっと動きたくなり、やがて走り出したくなるように、人の行動は連鎖して、新しい行動変容が起こるもの

まったく運動習慣のない人でも、日常のどこかで必ず体を動かしているはず。それなら、そのときに「もう少し動く」ことを心がけるだけで、一日の総合的な活動量を増やすことができます。

家の中の家事でも、雑巾がけは屈伸運動になり、洗濯カゴの上げ下げでも筋肉を動かしています。そのことに気づけば、一つひとつの用事を、しっかり体を使って行えるようになります。

新たに運動を始めるなら、「ウォーキングと筋トレ」「ウォーキングとスクワット」など、ミックスして行うと、全身の筋肉をまんべんんなく使えるのでおすすめ、と岡さんは続けます。

座りすぎをやめることは、病気を遠ざけるばかりでなく、仕事の効率ややる気を高め、アクティブな生活へと行動を変えるきっかけになります。

まずは日常生活での「座りすぎ」に気づき、「立ち上がること」から始めてみませんか?

▼前編はこちら

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