かつての日本人が、自動車、バイク、家電、ゲーム、アニメなど多くの分野で人の心をワクワクさせるものを生み出し、世界を相手にジャパンブランドを築いたことは有名な話。ところがいまや、私たちは目先の仕事に追われ、数字を上げることに気を取られ、忙しいだけの毎日を送っています。
では、かつての現在とではなにが変わったのでしょうか?
その原因は、顧客が感動する商品や事業を考え抜き、実現させるための「会議」をしなくなったことにあるーー。『メンバーの頭を動かし顧客を創造する 会議の強化書』(高橋輝行 著、あさ出版)の著者は、そう考えているのだそうです。
私は、会議再生屋として100社以上の企業で、新商品や新事業プロジェクトの実行を推進してきました。 そこで見たのは、忖度や根回し、責任の押し付け合いといった顧客を創造するディスカッションとはほど遠い世界でした。
そのような状況を目の当たりにし、「このままでは日本はダメになる」「世界から取り残される」という危機感を抱くようになりました。
「どうすれば、顧客を創造する会議ができるのか?」 これが、本書で解き明かそうとする問いです。(「はじめに」より)
たしかに、会議の席でそういった場面に遭遇することは少なくありません。しかし著者がいうように、それでは世界に立ち向かうことは困難。だからこそ、本書の意義があるわけです。
そんな本書のなかから、第2章「メンバーの頭を強く動かす『ディスカッションの型』に焦点を当ててみたいと思います。
ディスカッションは、新しいイメージを生むツール
ディスカッションとは、お互いのイメージをやりとりしながら新たなイメージを形成するための「コミュニケーションツール」。
ところが多くの人は、ディスカッションの進め方や意見の引き出し方、まとめ方に気を取られ、肝心のアウトプットを見逃しがちだと著者は指摘しています。
「ディスカッションによって新たなイメージをつくる」とは、どういうことなのでしょうか?
その一例として、ここではチョコレート商品を考えるディスカッションが紹介されています。少し長いのですが引用してみましょう。
開発担当:「健康志向の流れから、体にいいチョコレートを作ろうと考えています」
推進役:「それってどんなイメージですか?」
開発担当:「チョコレートを食べることで腸内環境の改善に繋がるような」
推進役:「ヨーグルトやヤクルトみたいな?」
開発担当:「そうそう、チョコ=太るという概念を変えたくて」
製造担当:「チョコに乳酸菌を混ぜ込む技術があります」
開発担当:「そんなことができるんですね! ただ、滑らかな口どけは残したくて」
製造担当:「チョコの粒子を細かくして、均一化すれば大丈夫だと思います」
推進役:「乳酸菌入りチョコ、面白いですね。誰が買いそうでしょうか? 子を持つ親? 高齢者?」
開発担当:「働く女性じゃないかと思っています。健康への意識が高いですから」
マーケティング担当:「女性に興味を持ってもらうには、一瞬で想像できるネーミングとデザインが大事です」
推進役:「ここまでの考えをまとめると、世の中の健康志向を背景に、チョコ好きな働く女性の腸を元気にする、乳酸菌入り商品を検討したい。
チョコの美味しさと乳酸菌を両立することは技術的に可能。
新しいカテゴリであるため、すぐにイメージが湧くネーミングが重要になりそう。
では、1週間後の同じ時間に、商品イメージを具体化するために、開発担当は商品イメージのたたき台を、製造担当は製造方法を、マーケティング担当はネーミング案をそれぞれ持ち寄って解像度を上げるディスカッションをしませんか」
(77〜78ページより)
それぞれの立場から意見を出し合っているわけですが、ここでは推進役が、
① 開発担当から商品イメージを引き出す
② 開発担当の思考から抜けている顧客の要素を指摘する
③ 製造担当のアイデアから新しい商品イメージを作り出す
④ マーケティング担当のアイデアも踏まえイメージを固める
⑤ 次に考えることと会議の日時を提案する
⑥ 各自考えてもらうことを具体的に指示する
(78ページより)
と、メンバーの思考をリードしているわけです。(76ページより)
ディスカッションで「思考の化学反応」を起こす
「ものすごく考えている人」と「あまり考えていない人」とのイメージには、歴然とした差があるもの。また、商品のことを考える人と、営業のことを考える人の間にもイメージの違いは生まれます。
こうした違いが、新たな価値を生み出す際に重要なのだそうです。
イメージの仕方が違えば、見るところや出てくるアイデアも違います。
推進役はその違いをうまく利用し、人に考えさせて、質問で引き出し、アイデアを繋げて新しいアイデアを生み出すといった、いわば「思考の化学反応」を意図的に作り出します。(80ページより)
出てきたアイデアに対して、メンバーに「おかしいと思うところがあったら教えてください」と意見を促してみたり、あるいは違った視点から思考を眺めることなど、新しいイメージを引き出すわけです。
また、担当者に「いまの意見を聞いてどう思います?」などと伝え、新たな気づきやイメージをふくらませる手助けをすることも大事。
みなの頭の中にあるイメージを引き出し、混ぜ合わせながら、みながハッとする新しいイメージを生み出すためのツールがディスカッションです。(80ページより)
それは化学の実験で、教科書を見ながら薬品(A)と薬品(B)を混ぜ合わせ新しい薬品(C)をつくり出す過程によく似ていると著者はいいます。(79ページより)
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本書を通じて、ひとりでも多くの人に“顧客を創造する会議の扱い方”に気づいてほしいと著者は記しています。
なぜなら当然のことながら、それが世界を感動させる商品やサービスを生み出すきっかけになるはずだから。会社を、そして自分自身を変革させるために、手に取ってみてはいかがでしょうか?
Source: あさ出版