コロナ禍という特殊な状況で、多くの人々の尽力により実現された「東京2020オリンピック競技大会」。こんな時代だからこそ、改めてスポーツの持つ前向きな力に勇気づけられたという人も多かったのではないでしょうか。

この東京2020大会に合わせる形で、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会の協力を得て開催されたのが、「SPORTS CHANGE MAKERS」。テクノロジーを生かした新しいスポーツの楽しみ方を募る、学生を対象としたコンテストです。

主催は、オリンピックとパラリンピックのワールドワイドパートナーであるパナソニック。同社のスポンサーカテゴリーである映像・音響機器技術を使って、スポーツの可能性をより発展させるアイデアを募集するというものです。

第1回である今回のテーマは、「GOING BEYOND BARRIERS」。健常者と障がい者、性別、身体能力、場所などのあらゆる壁を超え、いかにこれまで以上にスポーツを楽しむことができるか、発想の独自性や実現可能性が求められます。

2019年9月からエントリーの受け付けを開始。今後のオリンピック・パラリンピックの開催都市である4都市(日本・東京、中国・北京、フランス・パリ、アメリカ・ロサンゼルス)の学生を対象に、予選会が開催されてきました。

2020年1月、各地域から1組ずつの代表チームを選出。2021年3月には、各代表からのビデオメッセージが公開されるプレイベントが開催されました(プレイベントの模様はこちら)。

アイデアとテクノロジーで世の中の壁・障害を取り除こうとするパナソニックと学生の挑戦とは?

アイデアとテクノロジーで世の中の壁・障害を取り除こうとするパナソニックと学生の挑戦とは?

そして、ついに迎えた最終プレゼンテーション。熱気あふれる東京・有明「パナソニックセンター東京」の会場、また全世界からバーチャルでアテンドする参加者の様子を含めて、当日の様子をレポートします。

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リアルとバーチャルが融合したイベント

最終プレゼンテーションは2部に分かれて行なわれました。

第1部は、日本時間午前に中国代表アメリカ代表が、そして第2部は、午後からヨーロッパ代表日本代表がプレゼンテーション。

それぞれのパートには、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、パリオリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の関係者、オリンピアン、並びに専門家などの「アドバイザー」が、リアルとオンラインの双方から参加。プレゼンに対して所感や質問を寄せていきます。

今回特筆すべきは、プレイベントに引き続き「Mirror Field(ミラーフィールド)」という仮想空間において、メディア関係者などがアバターでバーチャル参加できるということ。

MirrorField

Mirror Field内には、実際の会場と同じく各チームのプロトタイプも展示されており、参加者はアバターで会場内を歩き回り、「いいね」などのリアクションをすることも可能です。

そんなMirror Field内でのアバターの動きは、有明の会場からもブラウザ越しに見ることができ、まさにリアルとバーチャルが融合した新しいスタイルのイベント開催となりました。

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リアルの場でもデバイスを通してアバターの動きを見ることができる
(パナソニック提供)

いよいよ第1部が開幕。アドバイザーの紹介に続き、中国代表がプレゼンのトップバッターを飾ります。

【中国】自動翻訳機付き、二人乗り電動アシスト自転車

中国代表

中国代表は、林雪児(リン・セツジ)さん、相丹蕊(ソウ・タンズイ)さん、胡玥(コ・ゲツ)さん、北京工商大学の在校生と卒業生からなる3名のチームです。

「オリンピック、パラリンピック競技大会開催時は、世界中から人々が集まります。訪問者は開催国の文化を知りたい、一方開催地の人々は自国の良さを伝えたいと思っているのに、言語が障壁になってこの機会が奪われるのは非常に残念だと感じました」(林さん)

そこで彼女たちが提案したのは、自動翻訳機付きの二人乗り電動アシスト自転車「LINK」。ヘッドセットを装着することで、前後に乗っている二人が言語の壁を超えてコミュニケーションを取れるというものです。

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使い方は、まず行きたい場所をアプリに入力。するとAIが、同じ目的地に向かおうとしている近隣の「LINK」ライダーを探し出します。

そのライダーが到着したら、呼び出したユーザーは後ろの席に乗車。自動翻訳機で言語の壁を超えた会話を楽しみながら、会場へ向かえるというものです。

「事前に好きなスポーツ、趣味などの情報を入力しておくことで、相性のいい相手をマッチングします」と林さん。アプリに搭載したナビゲーションシステムを利用するので、慣れない土地でもコミュニケーションを楽しみながらスムーズに目的地に到着できると話します。

中国代表2
環境負荷の少ない自転車なら、周囲の景色も楽しみながら目的地に向かえる。アドバイザーとのディスカッションでは、自動運転システム導入の可能性についても議論が盛り上がった

「いますぐに使ってみたい」という意見が多かった一方、車いす利用者であるアドバイザーからは、自転車以外の仕組みもあるとうれしい、という意見も。

実際、最初は椅子をベースにしたデザインでした。でも、ハードの装備があまりにも過剰になってしまうと考え、「今回はコミュニケーションにスポットを当てた」と林さん。

いずれは自転車ではなく車いす版も考えてみたいと意欲を見せました。

【アメリカ】観客の感情を視覚化。聴覚障がい者にもスポーツの興奮を

アメリカ代表

続くアメリカ代表は、ジョシュア・サンチアゴさん、ティモシー・グエンさん、ジャスティン・アンダーソンさんの3人。テーマに選んだのは、彼らの友人にもいるという聴覚障がい者が、いかにスポーツ観戦の興奮をほかの観客と一体となって楽しめるかということです。

「耳が不自由だと、観客の歓声なども聞こえないために状況がつかめず、観戦をしていてもおもしろくないと思ってしまいがちなんです」(ジョシュアさん)

提案したのは、「Immersi-Vision Visor」。直訳すると、「視覚による没入型ヘッドセット」といったところでしょうか。

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このサングラス型ヘッドセットの最大の特徴は、装着してスポーツ観戦をすることで、会場にいる観客の感情が色や絵文字で表示されるということ。

AIが感じ取った観客の感情を色で表すとともに、ライブ配信にリアクションするような形で観客が投稿した絵文字が映し出されることによって、ユーザーはほかの観客と一体となって観戦に没入することができるというシステムです。

「選手に関する情報など、テキストによるインフォメーションも表示したいと考えています」と、ティモシーさん。ヘッドセット装用時に特定の選手に焦点を合わせると、その選手のプロフィールやこれまでの得点情報などが見られるという仕組みです。

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サッカーの試合を例に説明。点を取りそうなチーム、攻め込まれているチーム、それぞれの感情を絵文字で表示。スタジアムの観客の感情も絵文字で視覚的に読み取ることができる

多言語対応により、世界中の人々にストレスなく使ってもらえる機能を考えているといいます。

東京2020大会に実際に出場した空手アメリカ代表の國米櫻さんからは、「私は形の選手なので、パフォーマンスによって観客がどう感じているのか知れるなら、すごくうれしい」と、実際の競技者ならではの意見が聞かれました。

【ヨーロッパ】審判の動きの意味を知り、スポーツにより理解と敬意を

欧州代表

続くヨーロッパ代表は、多国籍によるチーム編成。スペインのゼラ・ダファウス・ブソさん、オランダのシモン・ヴァン・デ・フラートさん、ボブ・ヴァン・デル・ホーストさんは、イギリスのハル大学で留学生として出会いました。

コンピューター科学、スポーツ科学、人文学と専攻もまったくことなる彼らのアイデアは、「REFEREE TRASLATOR」。審判の動きを感知してその意味を伝えるという、動作の翻訳システムです。

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発想のきっかけとなったのは、あるスポーツの観戦体験でした。

「ある夜、みんなで柔道の試合を見ていたんですが、僕とシモンはルールがさっぱりわからなかったんです。そうしたら柔道の黒帯を持っているゼラが、丁寧に教えてくれて、そのおかげで柔道がぐっとおもしろくなった。観戦する機会も増えたんです」(ボブさん)

アイデアの詳しい内容については、こう説明します。

「具体的には、審判にモーションセンサーを身に着けてもらい、動作を行なうたびにその情報を電子プログラムが認識します。ユーザーはアプリを使って試合を観戦することで、柔道でいうところの『技あり』『一本』など、それぞれの動きの意味を理解することができるというわけです」(ゼラさん)

試合中の解説だけでなく、より詳しいルールに関するデータベース、自分で審判となってジャッジをしたり、ユーザー同士がバトルできるゲーム、さらには審判目線のカメラ映像を見ることができる機能の搭載も考えているといいます。

「スタジアムでは大きなスクリーンが設置されていることが多いから、ユーザーのスマホだけでなく、そういった場所に情報を投影する方法も考えられると思います」とシモンさん。

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試合審判の動きを感知し、その動作が意味する内容を教えてくれる。写真では柔道の試合を例に。より詳しいルールの解説を知りたい場合は、データベースに移行することもできる

アドバイザーからは、「審判だけでなく、アスリート側の動きの解説があってもおもしろい」「実際にユニフォームにモーションセンサーを装着しなくても、カメラのAR機能などで実現可能なのではないか」など、より具体的な実用に向けてのディスカッションにまで発展しました。

【日本】アスリートの動きを体感しながら遊べるプレイパーク

日本代表

最後は、いよいよ日本代表。横瀬健斗さんは4チームの中で唯一、個人での参加です。「ひとりだからこそ、より僕個人の想いというものが色濃く反映された提案になっているかと思います」と話します。

横瀬さんが提案するのは、「Our Play Park」。プロトタイプとしてミニチュアが用意された遊具は、走幅跳選手の動きの軌道をオブジェに落とし込んだというものです。

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「パナソニックは、長年競技の撮影を映像機材でサポートしてきています。その動画の二次元データを三次元に抽出し、動きの軌道を実際のサイズでオブジェ化することで、アスリートのすごさを体感してもらえると思ったんです」(横瀬さん)

そのほか、体操や高飛込の選手の動きをキャプチャした螺旋状の遊具、走幅跳選手の軌道を生かした滑り台、水泳選手のクロールの手の動きを再現した飛び石など、さまざまなアイデアが紹介されました。

一見するとアスリートの動きを表現しているとはわかりづらいですが、スマートデバイスを使った仕組みも併せての提案。スマホなどをかざすことによって、そのオブジェに重なって軌跡を描く、アスリートの動画が表示されるというものです。

「はじめは純粋に遊具として、よじ登ったりして遊んでもらえれば。あとから親御さんにスマホを見せてもらって、人はこんなに高く飛べるんだ! と、驚いてもらえたらうれしいです」(横瀬さん)

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オブジェにスマートデバイスをかざすと、実際にモデルとなったアスリートの動きがアニメーションで再生される。リアルとデジタルの両面から楽しむことのできる提案だ

幼いころ、友達と遊具で遊んだり、サッカーをしたり、公園が自分にとってすごく特別な場所だったという横瀬さん。多くの子どもたちにとって、初めてスポーツに触れる場所でもある公園で、日常的にオリンピック、パラリンピックに触れてほしいと話します。

アドバイザーからは「デジタル技術をアナログに落とし込んだすばらしい提案」「スポーツ、文化、アートの融合でもある、近代オリンピックのコンセプトを体現している」などと、絶賛のコメントが相次ぎました。

実用化に向け、ここからが本当のスタート

4地域の代表による最終プレゼンテーションがすべて終了し、幕を閉じた「SPORTS CHANGE MAKERS」。今回のイベントは、参加チームのなかで順位を決めるというものではありません。今後それぞれのアイデアをブラッシュアップし、実用化することを目指します。

学生たちの柔軟かつ斬新な発想と、それを支えるパナソニックの技術力。スポーツのもつ可能性が今後さらにぐんと広がることを予感させる、興奮と感動にあふれた1日でした。

日本代表・横瀬健斗さん

「ずっと温めてきたアイデア。今後絶対に実用化したい」
横瀬健斗さん

最終プレゼンテーションを終えて、いまはこのアイデアを本当に実現させたい、という思いだけですね。準備を進めていく中で迷いもありましたが、今日アドバイザーの方たちにいろいろなコメントをもらって、絶対実現させたいという気持ちがさらに強くなりました。

このコンテストに応募する前から、公園をもっと楽しい場所にしたい、というアイデアは温めていたんです。最近いろいろと規制が増えて、だんだん公園がつまんなくなってきているなぁ、と。

でもネガティブな感じではなくて、もっともっとおもしろい場所にできるんじゃないか、そのために自分は何ができるだろう、という前向きな発想で。今回イベントに参加することで、その抽象的だったアイデアを、より具体化できたと思います。

スポーツって、それを通して意図せずして人と仲良くなったり、体が健康になったり、新しい何かが生まれるものだと思うんです。楽しいうえに、プラスアルファのいいこともついてくる。それってすごい魅力だと思います。

第2回「SPORTS CHANGE MAKERS」が開催されるとしたら、他人に参加を進めるというよりも、自分がもう1回出たい(笑)。

とにかく考えることが大好きなので、それを表現できる場所があったら、何回でもチャレンジしたいです。

パナソニック ブランド戦略本部 オリンピック・パラリンピック課 福田泰寛さん

「テクノロジー分野を超える、真のダイバーシティ社会実現へのアイデアを」
福田泰寛さん

学生たちの気持ちのこもった、堂々としたプレゼンテーションを聞けてすごくうれしかったです。2019年の9月に募集開始して、昨年8月に最終プレゼンの予定が延期に。結果、SPORTS CHANGE MAKERS2年間におよぶ長期プロジェクトになりました。

このイベントは、スポーツとテクノロジーであらゆる壁を超える、をテーマにやってきました。そこには、スポーツを通じて真のダイバーシティ社会の実現に貢献する、という企業としての想いもあります。

実際、コロナ禍になる前は世界中の学生に会いに行って、世代を超えた議論を重ねてきました。まずは今回最終プレゼンで提案されたアイデアをいかに実用化していくかということ。さらには次のイベントの企画にも取り組んでいきたいと思っています。

私たちパナソニックは映像・音響機器技術のカテゴリーを持つ企業ですが、今回のイベントはアイデアコンテストにしたことで、理系だけでなく非常に幅広いテーマの応募がありました。

まず我々が場を提供して、そこから自由にアイデアが広がっていく、そんなきっかけをつくれれば、と。一社で主催するのではなくて、ほかのオリンピック、パラリンピックパートナー企業さんたちと共同で取り組むというのも、おもしろいと思います。

学生たちにアンケートを取ってみると、彼らはあんまりひとつの企業だけでやっているプロジェクトには興味を持たないみたいで。それよりも、解決すべき共通の課題があって、それに対してチームで取り組む、というスタンスに対して好意的なんです。

それって、すごく素敵な考え方ですよね。私自身、彼らから多くのことを学びながら、さらに新しい試みを仕掛けていきたいと思います。

※これらのプロジェクトのいずれかが将来実現される際に、パナソニックのカテゴリー製品/サービス以外が含まれる場合、それぞれの製品カテゴリーに応じて、他のTOPパートナー/オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会パートナー/NOCパートナーと連携を行います。

Source: SPORTS CHANGE MAKERS - Panasonic