行動科学者のKaty Milkman氏は、最近の自著『How to Change: The Science of Getting from Where You Are to Where You Want to Be』から5つの洞察をシェアしています。
Milkman氏自身が読み上げたオーディオバージョンをNext Big Ideaアプリで聴くこともできますよ。
1. 習慣化の方法は自分の思考回路に合わせる
まず、悪いニュースからお伝えします。それは変化を起こそうとしても、ほとんどの場合は失敗するということです。
変化するのは難しいというのもありますが、それ以上に、変化について戦略的に考えずに「大きく大胆な目標」を設定したり、「成功を視覚化する」など画一的な解決策を展開しようとすることが原因です。
私は、自分の行く手を阻んでいるものを見極め、その障害に合わせて解決策を講じることで、変化を実現しやすくなることに気づきました。
たとえば、「定期的にジムに通う」という変化を実現したいとしましょう。これはとても身近な例なので、この後何度か触れることになります。
運動が苦手でジムに行けない人と、運動は好きなのにジムに行く時間を予定に入れることを忘れてしまう人とでは、習慣を変えて運動のルーティンを身につける最善の方法は大きく異なります。
私はエンジニアとして訓練を受けてきたため、エンジニアの思考回路で変化について考えることが役立つことに気づきました。
どのような力が変化の実現を邪魔しているのかを把握し、その障害を克服するためにどのようなことをすべきか考える上で、科学は多くの知見を提供してくれます。
2. 誕生日などの節目は理想的なタイミング
10年ほど前、私がGoogleで、徐々に行動を変えていくことについて講演した際に、良い質問を受けました。
会場にいたあるエグゼクティブから、「前向きな変化を促す理想的なタイミング、つまり、人間が自然に飛躍するきっかけとなる瞬間は存在しますか」ときかれたのです。その答えは「はい」です。
新年の抱負には馴染みがあると思いますが、元日は、私と共同研究者が「新たなスタート効果」と呼んでいることを経験するために良く知られた瞬間の1つにすぎません。
元日には、前の年が終わって新しいことが始まるような気がします。
去年は、「禁煙しよう」とか「家族のためにもっと料理をしよう」などと思っても実現できなかったのに、今年のお正月には、「あれは昔の私、今の私は新しい私、新しい私ならできる」と言います。
それは、すべてが白紙に戻ったような感覚になるからです。また、自分の人生の節目になる瞬間には、一歩下がって人生の全体像を考えるようになります。
こうした節目となる瞬間は、新しい週や月の始まり、誕生日や祝日、春の始まりなど、他の新しいサイクルの始まりにも存在します。
人間は、新たにスタートする際に環境の変化を求めます。
研究調査によると、新しい家や地域に引っ越すと変化を実現しやすくなります。これは、古い居場所や有害な誘因がなくなり、悪い習慣を断ち切りやすくなるからです。
しかし、本当に興味深いのは、見過ごされがちなそうした節目を指摘すると、相手に変化を促すことができることです。
ある研究で、共同研究者と私は、退職後の生活のために十分な貯蓄をしていない約2,000人に、今すぐ貯蓄プランに登録するか、将来の日付に登録するか尋ねました。
この場合の将来の日付は、誕生日か春の始まりのどちらかでしたが、新たなスタートについて言及するかどうかは無作為に決めました。
つまり、誕生日が3カ月後だった場合、「3カ月後に貯金を始めてください」と勧誘するか、「誕生日が来たら貯金を始めてください」と勧誘するかは、コインを投げてその裏表で決めました。
こうした勧誘をする際に節目について言及するだけで、勧誘された人たちが退職口座を開設することに「はい」と答える確率が高まることがわかり、最終的には、誕生日や春の訪れをメールに記載することで、その後の8カ月間で退職金の貯蓄額が20~30%増加しました。
節目によって生じたモチベーションを活用できれば、変化できる可能性が高くなります。
もちろん問題は、そのモチベーションをどのように使用して一時的な変化以上のものを生み出すかということです。
3. 効果的な方法よりも楽しめる方法を選択する
シカゴ大学のAyelet Fischbach氏と彼女の元学生であるCornell大学のKaitlin Woolley氏の調査によると、変化し始めたいときに必要な活動が少し面倒だと、ほとんどの人がうまくいかないことがわかりました。ジムに行く習慣を身につける例を見てみましょう。
一般的に、身体を鍛えたいと思った場合、最も効果的なトレーニング、たとえば最も効率的なステアマスター(階段昇降マシン)を探します。
多くの人はこれを最初からやろうとします。
しかし、違うアプローチを取る人も少数いて、消費カロリーが最大にならなくても、たとえば、友人とズンバのクラスを受講するなど、楽しみながら運動に参加する方法を探します。
後者のグループはうまく取り組めていることがわかりました。
Fishbach氏とWoolley氏は、効果的な方法ではなく、楽しい方法で変化を追求するようにすると、長続きすることを実証したのです。
変化に対する一般的な障害は、経済学で「現在バイアス」と呼ばれるものです。「現在バイアス」とは、先々得られる報酬よりも、すぐに得られる満足感を重視する傾向のことです。
その結果、遠大な目標を達成するために辛いことを毎日継続するのは非常に困難であり、なかなかできません。辛いとすぐに投げ出してしまいます。
これは、学校の勉強でも食事でも運動でも同じです。
楽しいやり方で目標を追求している人は、苦しい闘いをしていないので、長く続けることができます。そういう人には「現在バイアス」は不利に働いていません。
私は数年前に、楽しみながら変化を遂げる助けになる、ある手法について調査しました。私はこの手法を、「テンプテーション・バンドリング」と呼んでいます。
運動のように普通はちょっと辛いと感じる長期的な目標を追求しながら、くだらないテレビ番組を一気見するという誘惑を楽しむというものです。
私は「テンプテーション・バンドリング」を使用することで、自宅でつまらない娯楽に時間を浪費するのをやめて、運動を欲しくてたまらないご褒美にすることができました。
人によっては、好きなスナックを勉強しながら食べたり、好きなポッドキャストを面倒な家事をしながら視聴したり、赤ワインを飲みながら新鮮な肉を料理したりしています。
「現在バイアス」を克服すべき課題から財産に変えることができる方法ですね。
4. アドバイスしあうコミュニティをつくる
このアイデアは、ノースウェスタン大学のLauren Eskreis-Winkler氏という優秀な心理学者の研究から生まれました。
彼女の研究によると、何らかの目標を達成しようと奮闘しているとき、多くの人は「知恵を提供することが一番の助けになる」と考えています。
しかし、Eskreis-Winkler氏は、この公式の逆を考えました。彼女は、学生や社会人にインタビューして、うまくいかない人の中には、より良い結果につながる素晴らしい洞察をたくさん生み出している人が多いことに気づきました。
そういう人たちに欠けているのは、自信やモチベーション、自分を見つめ直すきっかけだけだったのです。
Eskreis-Winkler氏は、従来のやり方を変えて、逆に、目標に向かって努力している人たちにアドバイスを提供してもらうという素晴らしいアイデアを思いつきました。
アドバイスする立場になると、どんなことが起こるでしょうか。
まず、おそらく最も重要なことですが、知恵を貸してほしいと頼まれると自信につながります。本物のノウハウと能力があると思われていることが伝わるからです。
第二に、仲間にアドバイスすることで、普段とは違って内省的になり、同じような立場の人にはどのようなことが有効なのかということについて、アドバイザーの立場でなければ気にも留めなかった洞察が得られるかもしれません。
最後に、誰かに変化を促すとき、自分が実践していることをアドバイスしないと偽善者になった気がします。また、心理学で「言行一致効果」と呼ばれるように、自分が他人にしたアドバイスは価値あるアドバイスだと信じられるようになります。
Eskreis-Winkler氏は、他者にアドバイスすることで、その人自身の成果が実際に向上することを実証する研究を数多く行なっています。私は彼女と一緒に、この方法の利点を示すプロジェクトに参加しました。
約2,000人の高校生を、対照群となるグループと後輩のために勉強のコツを10分間で書き出すグループのどちらかに無作為に分けました。
その結果、アドバイスした生徒たちは、10分間アドバイスしただけで、数学とその学期に最も向上したいと話していた科目の成績が上がったことがわかりました。
その効果は小さいものでしたが、確実なものでした。
よく知られているものとして、アルコール依存症を治すためのシステムに、新入会員にスポンサーをつけるというのがありますが、このシステムは新入会員だけでなく、スポンサーになった人にも役立つことでもわかります。
ですから、より良い成果を出す方法を探しているなら、アドバイス・クラブをつくってみてはどうでしょう。
アドバイス・クラブとは、同じ目標を持った人たちが集まり、誰かが壁にぶつかったときやアドバイスが必要なときに、お互いに連絡しあうという仕組みです。
落ち込んでいるときに仲間にサポートしてもらうことはきっと心強いですが、他人にアドバイスすることも自分のためになるはずです。
5. 習慣化は柔軟さが鍵
長い間私は、習慣を身につける最善の方法はルーティン化することだと思っていました。
瞑想の習慣を定着させる方法を聞かれたら、「いつも同じ時間に瞑想するようにして、できるだけ長く着実に行ない、成功するたびに自分にご褒美をあげてください」と言ったでしょう。
私と共同研究者はこのことを確信していたので、これを証明する研究を行ないました。
Googleの約2,500人の社員に、定期的な運動を目的とした1カ月間のプログラムに参加してもらい、長続きする習慣を身につけるために2つの方法を検証しました。
プログラムの参加者を、2つの主要なグループに無作為に割り振りました。
1つは、ジムに通う時間をすべて同じ時間帯にするようにしたグループです。このグループのトレーニングの約85%は、同じ時間(被験者本人が理想的な時間帯として選択した時間)に行なわれました。
もう1つのグループは、ジムに通う時間帯を変えることが奨励されましたが、このグループの1ヶ月間のトレーニングは、半分ぐらいしか同じ時間帯に行なわれませんでした。
トレーニングをルーティン化したグループとトレーニングの時間を柔軟に変化させたグループは、1ヶ月のプログラムの期間中、ほぼ同じ頻度でジムに通い、トレーニングをすることで少額の現金報酬をもらっていました。
しかし、プログラムが終了し報酬も終了した後、どちらのグループがより継続してジムに通い、より長続きする習慣を身につけたのか調べてみると、驚く結果となりました。
トレーニングをより習慣化できていたのは、時間を固定していたグループではなく、スケジュールを自由に変えられるグループだったのです。
そして、データを詳しく調べてみると、その原因が明らかになりました。
一貫性が習慣を生むという考えは、あながち間違いではありませんでした。
実際、ルーティン化したグループはフレキシブルなグループに比べて、「いつもの」時間にジムに通う頻度はわずかに高かったのですが、問題はその「いつもの」時間に行けなかったときです。
たとえば朝7時のトレーニングに行けなかった場合、そのグループの被験者は予定を変更しませんでした。
フレキシブルなグループは、理想的なワークアウトの時間に間に合わなくても、ジムに行くことができました。朝7時にジムに行けないときは、午後3時に行なったからです。
その結果、総合的に、ジムに通う頻度が高くなり、ジムに通う習慣がしっかり定着しました。
私たちの研究で、あまりにもがんじがらめにすると習慣が身につかないことがわかりました。
「この時間はジムに行くことしかできない。瞑想することしかできない。スペイン語を勉強することしかできない」というような、融通の利かない習慣は、人生の転機が訪れると、すべて崩壊してしまいます。
しかし、「何があってもジムに行く、瞑想する、スペイン語を勉強する」という柔軟な姿勢で習慣をとらえていると、途中で避けがたい障害に出会っても乗り越えることができ、習慣を維持することができます。
言い換えれば、習慣に柔軟性を持たせると長続きしやすくなるのです。
Source: Bookshop.org, Next Big Idea Club
Originally published by Fast Company[原文]
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