ビジネスパーソンであれば、誰もが日常的に行っている「メモ」。ここ数年で「バレットジャーナル」というノート術が世界的にブームになるなど、国内外で「メモの力」に注目が集まっています。
この「深化するメモ術」特集では、「考える力」や「思考力」がビジネスパーソンの必須スキルとされる中、その大きな助けとなる「メモ」の効力やその活用法について紹介していきます。
第4回は『図解作成の基本』(すばる舎)の著者で、ITコンサルタントの吉澤準特さんに図解を教えていただきます。
情報整理に図解を用いるメリットや、図解作成に必要なロジカルシンキングの鍛え方を紹介した前編『すぐできる「図解」活用術』に続いて、後編では図解を活用した伝わる資料(プレゼン)を作るための実践方法を3ステップでご紹介します。
吉澤準特
外資系コンサルティングファーム勤務。専門領域における日本支社の実務責任者を務め、IT部門に対するコンサルティングを手がける。コンサルタントならではの「議論の整流術」を「情報整理」にも応用することで、モノ・コトを自動で整理する「整理術」にたどり着いた。著書に『仕事力に差がつく超・整理術』(三笠書房)、『図解作成の基本』(すばる舎)、『資料作成の基本』『フレームワーク使いこなしブック』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数ある。@juntoku_y/Twitter
▼前編はこちら
最初に:1スライド1メッセージの法則とキラースライド
文章と図解を自由にデザインできるパワーポイント。それゆえに「伝えたいことを全部盛り込んだのになぜかわかりづらい」という状態になってしまったこと、ありませんか?
もしかしたらそれは、1つのスライドにたくさんの要素を詰めこみすぎているからかもしれません。
コンサルタントの世界では、1スライド1メッセージが基本。
そのためにまず、このパワーポイントを通して伝えたい結論(メッセージ)を箇条書きにして、どういう論理構造でこの結論にいたるべきなのか第1階層、第2階層、第3階層と掘り下げていくんです。
そして、それを1メッセージになるような単位に整理してスライドを作っていきます。
さらに、全体に強弱をつけることで、力を入れて見るべきポイントがわかりやすくなるといいます。
パワーポイントのなかでかならず1枚は“キラースライド”を作るのがコンサルタントの鉄則。いわゆる“推しスライド”です。
これさえ見れば相手が知りたい内容が全部詰まっているというスライドで、プレゼン後にそれを映せば議論が成り立つ。
こういうものを1〜2枚作っておき、それを相手に褒めてもらうことを意識してつくると、よりわかりやすい資料になります。
伝わる「図解」資料作成3つのステップ
ステップ1:スケルトン
1スライド1メッセージとキラースライドを理解したら、3段階のステップで実際にパワーポイントを作っていきます。
まずは、「スケルトン」と呼ばれる骨組み。
スライドに入れたい内容を箇条書きレベルで書いていきます。この段階で、どんなパターンの図解を入れたいかもざっくり決めておきましょう。
このときに役立つのが、吉澤さんによる下記のチャート。
8種類16パターンの図解がチャート形式で選べるので、自分が表現したい図解がどれに当てはまるかわかりやすくなっています。(画像をクリックすると大きい画像が見られます)

ステップ2:ドラフト
続いて、ドラフトと呼ばれる作業。
作成したスケルトンに肉付けしていくイメージです。ここである程度、完成形に近い状態を目指します。スケルトンであたりをつけた図解についても、このスライドで伝えたいメッセージをより強く訴えるためには、説明ポイントがどこになるのかを考え、図解を加工修正していきます。

たとえば、「過去1年間の問い合わせ件数」を示すため、スケルトンで仮に「折れ線グラフ」を選んだとします。
それが、ドラフトの段階で「特定の問い合わせ件数が多かったこと」を強調して説明したいとポイントを付け加えるとしたら、図解もボリュームの大きさを視覚的に示す「棒グラフ」に変更するといった具合です。
ステップ3:フィックス
最後に、クライアントに見せるクオリティに仕上げていきます。
フィックスで一番大事なのは、見た目の“形”を整えること。次に、相手に伝わりやすい“色の使い方”でブラッシュアップしていきます。
この形や色を整える作業は、一見するとデザイナーのような右脳型アプローチに思えます。しかし、じつは見た目の心地よさは整理によってもたらすことができる、左脳的なアプローチなんだそう。
下記のコンサルタントの図解術や色の相関図を理解していれば、センスがなくても誰でもできるので、非常に有益。
並べた図解の位置がずれていたり、見た目の色に統一感がなかったりすると、読み手に違和感を与えて余計な考えを持たせてしまいます。
すると大事な中身を理解されなくなってしまう場合もあるので、とても大事なスキルです。

ちなみに、パワーポイントにデフォルトで入っているカラーパレットは必ずしも見やすさを重視したものではないため、吉澤さんはご自身で作成したカラーパレットを使うようにしているそう。
<使う色>
・ベースカラー:淡色・標準色・濃色の3色
・アクセントカラー:1〜2色
<マイ・カラーパレットの使い方>
最初にパワーポイントのスライドマスターで、マイ・カラーパレットを作り、常にスライドのフッター下に表示させるようにします。こうするとスポイト機能でいつでもマイカラーパレットで色選択ができて効率的です。
もっと伝わる図解作りのポイント
ポイント1:段階ごとにかならずレビューをおこなう
こうして完成した図解入りのパワーポイント。より相手に伝わりやすいものにするためにはどうしたらいいのでしょうか。
スケルトン、ドラフト、フィックスの各段階でかならず第三者のレビューを入れましょう。
大事なのは、自己判断や自分のなかの価値観だけで図解作成を進めないこと。
レビューしてもらうのは上司のほか、できればクライアントと似たような価値観の人にお願いできるとベスト。
ポイント2:ユニバーサルフォントで魅せる
わかりやすさを極めるために使いたいテクニックが、“フォント選び”なのだそう。
ここ数年でWindows10の標準フォントにユニバーサルデザインである“UDデジタル”が搭載されました。
これらはユニバーサルデザインと銘打っているだけあって、いままででもっとも見やすく加工されているフォント。企業側のルールなど特別な理由がない限り、本文はこれを使うようにしています。
そしてもう1つ、数字を際立たせたいときはArial Blackがおすすめ。このフォントは英数字の強調に適しているので、“前年比50%UP”など数字を目立たせたいときはこれを使うようにしています。
Arial Blackは半角英数字にしかきかないので、ベースのフォントをUDデジタルにして、その上でArial Blackを指定すると1つひとつを指定して変更する手間も必要ありません。
図解するのは難しい。わかりやすい資料作りには時間がかかるーーそれは、何の指標もないままやみくもに仕上げようとしていたからかも。
まずは情報を整理することから。あとは吉澤さんの「図解の16パターン」や「3つの見せ方と12の手法の図解術」を参考に、3ステップの段階を踏んで作成してみてください。
図解の仕組みを知り、効率的に作れたら、情報整理や資料作りもいつもよりはかどり、きっと結果につながっていくはずです。
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