以前、『鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』(鴻上尚史 著、朝日新聞出版)という書籍をご紹介したことがあります。
今回ご紹介する『鴻上尚史のますますほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』(鴻上尚史 著、朝日新聞出版)はそのシリーズ新作。
月刊誌『一冊の本』およびニュースサイト「AERA dot.」に2019年12月〜20年9月まで掲載された同名連載を一部修正し、新規原稿を加えたものです。
今回も相談者は、10代から50代までの男女と広範。家族関係、いじめ、人間関係など、悩みの種類もさまざまです。
二十代からずっと僕が言い続けてきたことは、「考えること」と「悩むこと」を分けるということでした。
「考えること」を30分でも続ければ、とりあえず、やるべきことが浮かびます。
有効じゃないかもしれないけれど、とりあえずやってみる何かは浮かびます。
でも、「悩むこと」は3時間続けても何も浮かびません。ただ、同じ所を堂々巡りして、時間だけが過ぎていくのです。(「あとがきにかえて」より)
そこで、悩みをなんとか「考えよう」としている人に向け、著者は「なにができるか」と考え続けてきたということ(ただ「悩んで」いるだけで「考えよう」としない場合は、自分にできることはないと感じてしまうそうです。それは当然ですよね)。
きょうは全29種の相談のなかから、仕事に関する悩みを抜き出してみたいと思います。
人間関係の悩みはまず原因を明確にする
「職場で自分にだけ冷たい態度をとる先輩との共同作業に、毎日しんどいです」
これは坦々麺さん(31歳・女性)からの相談。
その人に振り回されないように仕事を覚えようと努力していますが、冷たい態度をとられるとやはり嫌な気持ちになります。
気にしないようにしても先輩が明るい調子で話しているのを聞くと、「人によって態度変えるなよ」と思ってしまい、こんな事を思う自分にも嫌気がさします。
その先輩以外の方は普通に接してくれるので何とかやれていますが、2人で共同作業をすることもあり、毎日しんどいです。
(中略)
どこにいっても人間関係で悩む事はあるだろうし、このまま逃げるにも嫌だし、でも……と毎日思い悩んでいます。私はどう状況を良くしたらいいのでしょうか。(98〜99ページより)
好き嫌いが激しく、大人として振る舞わなければいけない職場においても“子どものまま”のような人は、残念ながら存在するもの。とはいえ、「先輩が悪い」「子どもだ」といっているだけではなにも解決しないのも事実。
したがって、仕事を辞めずに状況をなんとかするためには、かなりしたたかに、周到に作戦を練る必要があると著者は答えています。
ポイントは、「いつから冷淡だったのか」ということ。もし途中からなのであれば、なんらかの原因があったとも考えられるわけです。
途中からなら、その原因を考えましょう。
仕事を失敗したからか、不用意な一言を言ったからか、ぞんざいな態度を取ったからか。 必死になって思い出しましょう。
(中略)
もし、初めから冷淡だったのなら、先輩は「坦々麺さんが生理的に嫌い」ということになります。
「好き嫌いだけで生きている立派な(?)子供」ですね。この場合は、相手は子供ですから、言葉は通じないと考えた方がいいですね。(98〜99ページより)
いずれにしてもするべきことは、まず「冷淡な態度を取られているのは自分だけか」を確認することだと著者はいいます。なぜなら、好き嫌いが激しい人は、何人も嫌っている可能性があるから。
たとえば先輩は他の人とふたりきりでいるとき、その相手が同じような目に遭っているとしたら、その人はともに闘う同志になるわけです。(98ページより)
「仕事がちゃんとできる」状態を目指す
そして、同志がいてもいなくても、次にすべきは「先輩から、どんなふうに冷淡に扱われたか」をメモすること。
同僚や先輩の上司にきちんと話すためには、「先輩がなにをいったか、なにをしたか」を正確に記録しておく必要があるわけです。
ただ「冷淡な態度だ」だけでは、相談をされた方も答えようがないでしょう。
(中略)
「こんなことを言われた」「こんなことをされた」ということを具体的にメモするのです。 そして、坦々麺さんの言う「冷たい態度」を明確にするのです。
それは、パワハラに分類されることなのか、あいさつを返さないだけではなく、坦々麺さんを侮辱するようなことを言うのか。
それとも、仕事に差し支える「冷たい態度」なのか。
「共同作業をする事もあり毎日しんどい」と坦々麺さんは書いていますが、しんどさの正確な内容を周りに説明する必要があるのです。(102〜103ページより)
そして、心許せる同僚がいたら、「こんなふうに仕事上の困難があるんだけど」と具体的に話す事も必要。
ただし伝えることで気持ちは楽になっても、戦術的にどう先輩と対応したらいいかを教えてくれる同僚はなかなかいないかもしれません。
でも、「仕事が進まない」「業務に支障が出ている」という場合は、真剣に相談にのらざるを得なくなります。
共に、先輩から嫌われている同士がいたら、「私もそうです」と参加してもらい、闘いを有利に進めましょう。(104ページより)
大切なのは、「先輩と仲よくなりたい」ではなく、仕事に必要な情報と指示をスムーズに、ストレスなく受け取りたい」ということ。
和解したり仲よくするのではなく、「仕事がちゃんとできる」状態を求めるということです。(98〜99ページより)
振り回されずに仕事を覚える
上司の指示がうまく効き、必要な情報や指示が得られたとしても、ムスッとした先輩とふたりきりならストレスはたまるでしょう。
しかし「先輩と仲よくなる」「楽しく仕事をする」ということをあきらめれば、ストレスは多少減るはず。
そうしながら、働きます。目的は、決まっています。坦々麺さんが自分で書いているように、先輩に「振り回されない」で、「仕事を覚え」るためです。
先輩の補助の立場から、自分で仕事ができるようになれば、先輩の冷淡な態度に接する時間が少なくなるはずです。または、自分で仕事ができますから、先輩の冷淡な態度が以前ほどには、気にならなくなります。(98〜99ページより)
したたかに作戦を練りながら、一刻も早く仕事を覚え、苦しい状態から抜け出すことが大切だということです。(104ページより)
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この連載をいつまでつづけられるかはわからないけれど、わからないからこそ、愉しいと思うことも大切だと著者は思っているそう。「未来がわからないから不安だ」と思うより、「わからないからワクワクする」と感じるほうがすてきだということ。
そんな考え方に基づく本書をぱらぱらとめくってみれば、自分自身の悩みについてのヒントが見つかるかもしれません。
Source: 朝日新聞出版