連載「3人の○○」では、ライフハッカーファミリーで「働き方研究家」の横石崇さんが聞き手となり、時代をリードし、混沌とした世界でも柔軟に適合する3人のキーパーソンにフォーカス。
彼らの仕事観・働き方から読み解く、「人を動かす」法則や知恵とは?
人を動かし「成功」を掴むには、人脈を構築し、業界内外で信頼関係をつくることが必要。そのためには、「人に好きになってもらう」力が鍵となるはず。
そこで今月は、ユニークな発信で企業のSNS公式アカウント界で特に高い人気を集める「タニタ」「森美術館」「イノセント」のSNS担当者にフォーカス。
SNSマーケティングの視点で、3人の「中の人」の働き方から【人に好かれる】法則を読み解きます。
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今回のキーパーソン

【横石メモ】
日本では広く知られていないかもしれないが、欧州スムージー市場においてNo. 1シェアを誇るUK発のスムージーブランドがイノセント。東京2020オリンピック・パラリンピックの公式スムージーに認定されるほどの人気だ。
イノセントは、消費者を「ドリンカー」と呼び、グローバルで共通してSNSやリアルを通じて非常に距離の近いコミュニケーション戦略を行なっているのが印象的だ。
今回秘訣を探るのは、「デジタル フルーツ ニンジャ」という肩書を持ち、遊び心たっぷりのSNS運用で話題を呼ぶデジタルマーケティング担当の佐藤恭宏さん。
そんな彼に【人に好かれる】秘訣を聞いた。
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「クスッと笑える要素」で心をつかむ
SNS運営で心がけているのは、ただブランドの理想や商品について発信するのではなく、ちょっと違うアングルや視点でプロモートすること。
そのために、見てくれる人が思わず興味を引かれるようなユーモアとクリエイティビティは常に忘れないようにしています。
単に商品情報を羅列するような発信だけでは退屈になりがち。それよりも、「何?」とひっかかりになるような、クスッと笑える要素を入れることで関心をつかむコンテンツづくりを意識しています。
そういった意味では、ゆるく肩肘はらずに、いい意味で野放しにしてくれるのはイノセントの良いところだと感じます。こうした投稿をしても怒られることもなく、逆に社内からは「すごくおもしろかった!」と応援してもらえるので(笑)。
こうした自由さも手伝って、ユーモアやクリエイティビティを存分に発揮できているのかもしれません。
【横石の気づき #1】
クスッと笑える要素で心をつかむ
共感を生むには「自分の主観に頼らない」こと
コンテンツとして積極的に出していきたいのは、「わかるわかる」「あるよね」と皆が共感できる日常。また、「かわいい」「ほっこりする」など、思わず微笑んでしまうというのも軸としているポイントです。
2月22日の「猫の日」には、猫を飼っている人にはわかる「あるある」ネタを投稿しました。
これは父の日、母の日など、日常的なイベントに応用できますし、こうしたアプローチは多くの人にわかってもらいやすい手法だと思います。
ただ「父の日」の投稿を考える際には、僕は子どもがいないので、父親である同僚に意見をもらいました。僕の主観だけになってしまうと、共感を得られないこともあるはず。
だからこそ、周囲の意見を取り入れることはとても大切だと考えています。
【横石の気づき #2】
「半径5m以内」の声から共感を生む
複雑なことほど「シンプル」に
イノセントは、世界各国の支社共通で「tastes good, does good」という理念・バリューを共有しています。
ここで言う「good」とは、シンプルに「消費者や社会に良い影響を与える」こと。ヘルシーで質の高い商品を提供するのはもちろん、独自の基金を立ち上げて慈善団体に売り上げの一部を寄付したり、サステナブルな商品づくりを心がけているのも、この「good」が根底にあります。
そういった意味では、この投稿もイノセントらしさが表れているものの1つ。
たとえばSDGsのような複雑なトピックは、まじめに重要性を述べることはできるけどわかりやすく語るのは意外と難しい。
今の時代は何でも横文字にしがちなので、逆にそこをいかにシンプルに伝えるかが大切だと思っています。
【横石の気づき #3】
複雑な時代だからこそシンプルに「変換」する
見てくれる人に驚きと喜びを届けたい
これまでお話ししてきたSNSを運用するうえでの“軸”は、イノセントが大切にしているテーマ「Surprise&Delight」も関係しています。
見てくれている人に、「何それ?」「その視点でくる?」といった驚きと、「癒される」「おもしろい!」といった喜び・楽しみを届けたい。そんな想いでコンテンツづくりに取り組んでいますし、コミュニケーションを取るうえでも心がけています。
そういった意味でも、要所要所にちょっとしたアクセントを加える遊び心を忘れずに、「イノセントらしさ」を常に発信していきたいですね。
【横石の気づき #4】
遊び心が「驚きと喜びの源泉」である
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【取材を終えて】

謎に包まれた世界的ドリンクブランド「イノセント」。そのユニークな発信により、2019年の日本上陸以来、多くのファン層を獲得してきたイノセントの公式アカウント。なぜそれほどまでに人を魅了できるのか、「中の人」にその秘訣を聞いてみた。
わかったのは、SNSを担当する佐藤さんのキャラクターもさながら、ドリンカーを惹きつける遊び心いっぱいのブランドづくり。その実現のために必要な「ユーモア&クリエイティビティ」を駆使しながら、自分たちが本当に大切にしている信念をシンプルに伝える姿勢に人は心を動かされるのかもしれない。
しかし、こんなにものびのびとしたコミュニケーションをとれるのも、スムージーという自社商品への絶対の自信があるからこそ。はじめてイノセントのスムージー「すべらないバナナ」を飲んだが、実際のバナナよりもおいしかったのはここだけの話だ。
プロダクトへの誇りは語らずとも伝わり、強いファン層の構築につながっているとひしひしと感じた。
(横石崇)
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