連載「3人の○○」では、ライフハッカーファミリーで「働き方研究家」の横石崇さんが聞き手となり、時代をリードし、混沌とした世界でも柔軟に適合する3人のキーパーソンにフォーカス。

彼らの仕事観・働き方から読み解く、「人を動かす」法則や知恵とは?

人を動かし「成功」を掴むには、人脈を構築し、業界内外で信頼関係をつくることが必要。そのためには、「人に好きになってもらう」力が鍵となるはず。

そこで今月は、ユニークな発信で企業のSNS公式アカウント界で特に高い人気を集める「タニタ」「森美術館」「イノセント」のSNS担当者にフォーカス。

SNSマーケティングの視点で、3人の「中の人」の働き方から【人に好かれる】法則を読み解きます。

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今回のキーパーソン

タニタ公式Twitter「中の人」

タニタ「中の人」の【人に好かれる】法則は…

  • 人間味は人の心を開く
  • みんなを巻き込んで一緒に楽しむ
  • イメージの振り幅が最強キャラをつくる
  • 好奇心ファーストで行動する
  • ありのままで、がんばらないからこそ続けられる
タニタ「中の人」の人に好かれる法則

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にじみ出る「人間味」が人の心を引き寄せる

公式Twitterアカウントの開設当初は、朝の挨拶など当たり障りのない“普通”のツイートがメインでした。でも、やっぱりそれだけではフォロワーが増えない行き詰まりを感じるようになって。

そこで、少しずつ自分のパーソナルな部分を出すようにしたのです。そもそもアイコンも企業ロゴなので、そこに人間味や人の温かみがないと感じていて。

でも、たとえば私が静岡県出身だとつぶやくと「私もです」とリプライをもらえるなど、コミュニケーションが生まれることが多くなったんです。

リアルでも同じだと思いますが、自分のことを話すと会話が弾む。Twitterでもそのほうが「中に人がいる」ことが伝わりやすいと気づきました。

あえて既存のイメージとは違う側面を

タニタに対しては、世間一般的にある程度既存のイメージがあると思っています。体組成計など健康にまつわる機器を製造・販売していますし、きっと「まじめそうな会社」という印象があるのでは、と。

であれば、あえて違う面をTwitterでは見せていく。ちょっとゆるい話をして、そこにタニタの要素をほんの少し入れる。「そういったアプローチの方が効果的なのでは?」といった考え方でキャラクターの方向性を固めていきました。

たとえ話で言うと、きっとタニタのイメージって学校のクラスの優等生なんです。でも、つまらないやつだとは思われたくない。そうした時、「頭が良くておもしろかったら最強じゃない?」と。

ちょっとした演出を施したり、工夫を加えたりしたらまた違った見方をしてもらえる。それが現在のキャラクターの基盤になっています。

一体感は人を巻き込む力がある

実は、こうした取り組みは社内にはあまり知られていませんでした。Twitterをはじめて3年ほど経ってようやく社外から噂を聞くことが増えたらしく、「うちのTwitterってそんなに変わってるの?」と声をかけられるように(笑)。

そこで、役員たちにツイートする瞬間をリアルタイムで見てもらうことにしたんです。

当日には、事前に「ちょっと取締役に呼び出された」とツイートもして。そうすると、フォロワーの方がザワついたり、心配してくれたりするんですよね。

このライブ感というか、フォロワーとの一体感あるインタラクティブなやり取りを役員も目の当たりにして一緒に盛り上がってくれて。結果として信頼を得ることができ、自由にやらせてもらえています。

Twitterは人を動かす「伏線」

ありがたいことに多くの企業がタニタとコラボレーションしてくださっていますが、中でもスマホ向けゲーム「ドラゴンクエストウォーク」とのコラボは印象に残っています。

当初の仕様では、ゲーム内で歩数が表示されるのですが、消費カロリーまではわかりませんでした。でも、コラボしてタニタのアルゴリズムをライセンス供与することで、消費カロリーを表示できるようになったんです。

個人的に「ドラゴンクエスト」のファンだったこともあって、いちユーザーとしてゲームについて発信していたのが、Twitterをきっかけにこうした結果に発展させることができた。今までにない達成感がありましたね。

実際、今は「Twitterは伏線だ」と思って運用しています。

自分がハマっていることやおもしろかったことをTwitterに残しておくと、「これはコラボするのでは?」とフォロワーの方が盛り上がったり、実際に企業からお話が来たり。

Twitterを通していろいろなマンパワーが働いて、意図していないものもコラボにつながることがあるんです。

働く原動力は「シンプルな好奇心」

数年ほど前から働き方を変え、現在は個人事業主としてタニタと業務委託契約を結んで「中の人」を担当しています。

理由は本当に単純で、そういう働き方ができたらおもしろいなと思ったから。自分で物事を考えたり、仕事と向き合ったりする時間が増えそうというシンプルな動機です。

どうせ何かするならおもしろい方がいい。そうした好奇心が自分の原動力になっていて、これはTwitterの運用でも同じです。

タニタに対する愛情は変わっていませんし、働き方も今のところ問題なく続けられています。フォロワーの方に心配されることもありますが、「大丈夫です、しっかり生きています」とお答えしています。

「がんばらないありのまま」だから続けられる

10年間「中の人」を務めて思うのは、やっぱり「長く続けてきてよかった」ということ。

「おはようございます」というただの挨拶だけでもいい。そういったことを毎日続けていくと、やっぱり見てくれる人は増えるのだと思います。

そしてここまで無理せずやってこられたのは、「がんばらないありのまま」のスタンスを貫いてきたからだとも感じています。

私にとって「がんばらない」というのは、「人に言われてやらない」「強いられない」ということ。自分の意志でいろいろなことに挑戦してきたからこそ、今のタニタ公式Twitterがあるのではないでしょうか。

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【取材を終えて】

横石崇さん

30万人以上のフォロワーに愛されるタニタの公式Twitterアカウント。どうしたらそんなに多くの人に好かれるのか、その秘訣を「中の人」に尋ねてみた。

わかったことは、「何かやるならおもしろいほうがいい」というシンプルな好奇心。そんな想いは企業アカウントにも関わらず、友だちのような心地良さも手伝って、SNSの一大文化を生み出していった。

水道や電気と同じようにSNSがある生活が当たり前の時代になり、デジタルがなくてはならない世の中だからこそ、私たちはますます人間臭さに対して敏感に、貪欲になるのかもしれない。

そんなことを考えながら、いつも何気なく使っているタニタの体重計に乗るのが楽しくなったのは不思議な体験だった。(横石崇)

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