「上り坂の儒家(じゅか)、下り坂の老荘(ろうそう)」
儒家とは、文字通り「儒家の思想」、論語のことです。 老荘とは、老子の思想を指します。
人生が上り坂でいろいろなことがうまくいっているときは論語を読み、人生が下り坂で「なかなか、うまくいかないな」と感じるときには老子の思想に触れてみる。そんな言葉です。 (「はじめに」より)
『論語と老子の言葉〜「うまくいかない」を抜け出す2つの思考法』(田口佳史 著、だいわ文庫)の冒頭には、こう書かれています。
つまり論語が説いているのは、人間社会で生きていくための大前提や道理。経営やビジネス、組織論、リーダーシップなどに関して普遍的かつ重要な考え方ばかりだということで、多くの経営者が好んで論語を読んでいることにも納得できます。
しかし、論語にあるような真面目で厳格な教えは、ときに息苦しく、窮屈に感じられるかもしれません。
人生が下り坂のときには、もう少し違った思想やアプローチにすがりたくなるものだということで、そんなときに最適なのが「老子」。その教えの特徴は、自由で、のびやかで、自然であることだそう。
そこで本書は、特徴の異なる「論語」と「老子」を一緒に取り上げることで、ものの捉え方や考え方に膨らみを持たせ、豊かにしていこうと試みているのです。
一つの思想に縛られるのではなく、もっと違う視点で考えてみる。そんな「行き詰まりを躱(かわ)す道」を楽しむ本と言ってもいいでしょう。 (「はじめに」より)
そんな本書のなかから、きょうは3章「競争社会とは」に焦点を当ててみたいと思います。
どうしたら地位が得られるのか
出世競争や権力競争など、ビジネスの世界で生きていくうえで競争を避けることはできません。
とはいえ競争に勝ち、楽しめているときは、それほど競争について敏感にはならないはず。しかし、逆に競争に敗れ、思うような結果や評価が得られないときは、「競争社会ってどうなんだろう?」と疑問を持ち始め、いろいろ考えたくなるものです。
そんなときには、どうしたらいいのでしょうか? この問いに対する答えとなるようなことばが、論語にはあるそうです。
位無きことを患(うれ)へずして、立つ所以を患へよ。 己を知る莫(な)きを患へずして、知らる可(べ)きを為さんことを求めよ。
(75ページより)
地位が得られないことを思い患うのではなく、「どうしたら地位が得られるのか」を考えたほうがいいという考え方。評価や名声が得られていないと思い悩むくらいなら、「どうしたら、それを得られるのか」を考えるべきだということです。
これをさらっと読んでしまうと、「結果、評価」を見るのではなく、「どうしたら到達できるのか」その方法を考えなさいと教えているようにも思えるかもしれません。たとえば、成功するためのアプローチを変えてみるとか、もっと努力の量を増やすなど。
たしかに、それだって大切なことではあるでしょう。しかし、もう少し本質的なところで、「自分が本当に評価されるとは、どういう状況なのか」と考えてみてほしいのだと著者は記しています。(74ページより)
「なにをしないか」を決める
一方、老子にはこんなことばがあるといいます。
是(これ)を根を深くし柢(てい)を固くすと謂ふ。 長生久視(ちょうせいきゅうし)の道なり。
(87ページより)
根を深く張ることが、生きながらえる道であるということ。これは老子のなかでも有名な「深根固柢(しんこんこてい)」「長生久視(ちょうせいきゅうし)」を説いたことばだそう。
このことを説明するにあたり、著者は植木屋さんが庭木の剪定をしているときのことを引き合いに出しています。
あの作業は単に見栄えをよくするだけでなく、葉や枝を落とすことで、十分な栄養を根に回し、しっかりと根を張らせるためのもの。そんなことからもわかるように、結局、大事なのは根っこであるということです。
根っこが広く、しっかりと張られていれば、その気は強く、長く生きることができる。そんな自然の摂理を、老子は語っているわけです。
ここで学べるのは、しっかりと根を張り、なにかを実現させるためには「切り捨てること」も必要だということ。それは、仕事についても当てはまるはずです。
自分の天性や天分を知ることには「なにをするか」を見定めるという側面がある一方、「なにをしないか」を決めるという側面もあるということ。
自分の専門領域とは何か。 そこを見定めることが何より大切ですし、それを決めたら、一歩一歩、焦ることなく根を張っていく。
(89〜90ページより)
なんにせよ、しっかりとした判断が重要だということです。(86ページより)
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他にも「学び」「欲望」「急速」「豊さ」「成功」「女性の活躍」「リーダーシップ」「老い」「人間関係」と、テーマごとにわかりやすい解説がなされています。
そのため、いまの自分に必要な部分から読んでみるのもいいかもしれません。「論語」と「老子」の普遍的な教えを、ぜひとも日常生活に取り入れたいものです。
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Source: だいわ文庫