「時間」 ── それは人生において最も重要な資産ではないでしょうか。自分が望む働き方や人生を実現するためには、限られた時間(1日24時間=1440分)を何に分配、投資していくのか、戦略的な視点が欠かせません。
この「1440分の投資戦略 やめるに勝る時短なし」特集では、単なる時短術にとどまらない「時間投資ストラテジー」を紹介していきます。
時間に追われず、未来の自分に時間を投資するはじめの一歩として、「どんな自分になりたいか」を考えるヒントを紹介した前編(「どんな自分になりたいか」から始める時間投資戦略3つのステップ)に続き、今回はすべきことを“見える化”する「時間割」の立て方を経営コンサルタントの藤井孝一さんに聞きました。
藤井孝一(ふじい・こういち)

1966年生まれ。慶応義塾大学文学部を卒業後、大手金融会社でマーケティングを担当。5年の米国在住を経て、経営コンサルタントとなり独立。現在は株式会社アンテレクト代表取締役会長。ベストセラー『週末起業』(ちくま新書)、近著『すぐ動けない人のための時間割仕事術』(朝日新聞出版)ほか著書多数。
理想の働き方を実現し、より自分らしいキャリアプランを描く――これは誰もが願うことでしょう。特に30~40代は、仕事ではプレイングマネージャーとしてさまざまな結果を求められ、結婚・出産や子育てなどプライベートも忙殺される世代。
だからこそ、「時間」を自分でマネジメントして、より有効に活用していくことが求められます。そのために、まずは「どんな自分になりたいか」を考えること。そうして明確にした目標を「時間割」に沿って実現していくのが藤井さん流の時間投資術です。
「ざっくり時間割」から始めよう
なりたい自分のビジョンが見えたら、次は具体的に「時間割」を作っていきます。といっても、何から始めたらいいかわからない人も多いでしょう。そこで藤井さんはまず「ざっくり時間割」を作ってみることを勧めています。
まずは「やるべきこと」をすべて書き出してください。箇条書きでいいのでとりあえずすべて書きます。
その上で、「今やらなくてもいいこと」や「人に頼めそうなこと」、「そもそもやらなくてもいいこと」を削除していきます。そうすると、「今やらなければいけないこと」だけが残ります。
あとはそれを「どれくらいの時間をかけてやるのか」「いつやるのか」を考えて、一日の予定に落とし込んでいきます。これだけで「ざっくり時間割」の完成です。
最初は就業時間、例えば9時から17時の間だけでもいいそうです。これが時間割づくりの第一歩となります。
まずはこの時間割に沿って行動できるようにやってみて、できなかったら何が原因だったのか定期的に振り返り、時間割を見直していく。これが基本の時間割術です。

プライベートや週末の予定も含めた1週間の時間割を作る
次のステップでは、1週間単位の時間割を作っていきます。私たちの日常生活は1週間単位でルーティンが決められていることが多いからです。
紙に手書きしてもいいし、Googleカレンダーなどを活用してもOK。藤井さんはいつでも時間割を意識できるように、1週間分を出力して壁に貼っているそうですが、クラウドに入れてPCとスマホを同期すれば、時間や場所を選ばずにチェックできるので便利です。
Googleカレンダーであれば、まず定例の会議など固定のスケジュールをはめていってください。
できれば起床、食事、仕事、入浴、家族の団らんといったプライベートのタスクも入れていってもらいたいですね。そのほうが全体が見えるからです。
なので平日だけでなく、週末も含めた1週間の時間割を作ることが理想です。
会社のチーム内でカレンダーを共有している人もいると思いますが、プライベートのことは内容を見えないようにするなど、設定を上手に使ってもらいたいですね。
そして、先ほどのざっくり時間割同様、「やりたいこと」「やるべきこと」をどんどん列挙していき、それぞれに所要時間を割り振ります。それを1週間の時間割の中にブロックのようにあてはめていくイメージです。

理想と現実のギャップを補正。実現可能なスケジュールの立て方
藤井さんの場合、起床して日課のウォーキングと朝食を済ませたら、頭が冴えてクリエイティブになれる午前中を執筆などの「アウトプット」の時間にあて、パフォーマンスが下がりがちな午後に会議や打ち合わせを入れるようにし、就寝前は読書など「インプット」をする時間としています。
生活習慣や就業時間、パフォーマンスを発揮できるバイオリズムは人それぞれ違うので、自分に合う1日をデザインしてみてください。
理想の1日のスケジュールを作ったら、必ずやってほしいのが、現状と比較すること。
かなり乖離があるはずですし、やりたいことがたくさん出てきますから時間が足りなくなるはずなんです。
そこで必要となるのが「時間のリストラ」。テレビやSNSをダラダラと観ている時間があるなら、真っ先にリストラしたいですね。
何も、テレビやSNSを眺める時間をすべてなくせ、という意味ではありません。「そうした息抜き、リラックスの時間も時間割に組み込んでほしい」と藤井さんは続けます。
やらないといけないことがあるのについダラダラしてしまう…。だから罪悪感も生まれるし、だんだん色々なことが面倒くさい気持ちにもなってしてしまいます。
だったら、最初から一日の中で脱力する時間を決めて、その枠内は思う存分のんびりすればいいのです。
そうすれば妙な罪悪感も生まれませんし、自分自身で時間をコントロールもできているので、しっかりリフレッシュしてまた次のタスクにとりかかれます。
最初からそういった余白を持たせることが重要です。
こうすることで、のんびりする時間でさえ、主体的で意義のある時間になっていくのです。
また時間割は予定をギッチリ詰め込むのではなく、息抜き以外にも「バッファ」を設けておくことが大事です。一日過ごす中で予定になかった出来事や緊急事態はよく起こりますが、最初からバッファを持たせておけば、慌てずに対処することができます。
それでも時間割通りにいかないときにどうするか
そこまでやっても「なかなか時間割どおり行かない」ということがあります。そういう人も、最初の一日だけでいいので「今日だけは絶対に時間割どおり行動するぞ」と心に強く決めて実践してみてほしい、と藤井さん。
はじめは高い理想を掲げすぎてしまい、「0時に寝て、朝5時に起きて、出勤前に2時間勉強する」などといった計画を立てしまいがちです。
なので、まず「今日は絶対にやる」と決めて取り組んでみて、それでも実現できなかったら、それはそもそも無理な計画だったということ。
自己実現は長期戦です。一度作った時間割も定期的に見直して、柔軟に運用してください。
一度できなかったらあきらめるのではなく、何度でも見直して、無理なくできる時間割を作ってほしいと思います。
見直しのタイミングとしては、3日、3週目、3カ月といった「3」のつく周期がいいのだとか。最初はちょっと厳しいなと感じても「3週間続けば習慣化されて、だんだんそれが当たり前になっていきます。まずは3日、それができたら次は3週間目指して頑張ってみてほしい」と藤井さん。
藤井さん自身の経験を踏まえると、3カ月続けばもう完全に習慣として定着するそうです。
仕事のアポは、時間割のなかで折り合いをつけていく
会社員である以上、社内の会議や取引先への訪問など、突然予定が入ることもあるでしょう。自分の計画ばかりを優先してはいられません。
しかし、そんなときも「自分の時間の手綱は自分が握ることを意識して」と藤井さん。
スケジュールは最初ブランクで、会議や打ち合わせの予定を人から言われるままに追加していく人がいますが、私に言わせると、それは人に時間管理を任せている状態。
あらかじめ会議や打ち合わせの時間、さらには企画書や報告書づくりなど自分一人で取り組む仕事まで「いつやるか」を決めて「時間割」にしておき、会議の日時調整の打診があったら、そのために確保してある時間を「空き時間」として提示する。
それが難しい時だけ他の予定を動かすようにすれば、自分で自分の時間を管理できると思います。
お金、健康、人間関係のバランスを保ち、より豊かな人生を
時間割を活用し、自身の夢を実現させてきた藤井さん。時間割を立てるときに大切にしたいのは「バランス」だと語ります。
1日24時間、1440分という限られたなかで、何に重きを置くかは人それぞれ。
もちろん30代なら多少の無理をして仕事に時間を割かなければいけないこともあるでしょう。しかし、自分らしいキャリアプランやライフプランの実現のために考えてほしいのは「お金(=仕事)、健康、人間関係」のバランスです。
仕事のために睡眠時間を削って、体をこわしては本末転倒。時間のリストラのために「飲み会には一切参加しない」と決めたがために、仕事や人生の相談をする友人と疎遠になってしまっては元も子もありません。
時間割に沿って日々を送ることは、子どもの頃からやってきたこと。私たちにとってなじみ深いものでもあります。
時間の使い方を考えることで、やめること、やることを取捨選択できれば、長い歳月を経たときに大きな差がつきます。
1日、1週間、1カ月を自分の思うように過ごせれば、人生は自分の思うようにまわっていきます。
今、身につけた習慣がのちに大きなリターンとなる、そんな時間投資はひとつの大きなビジネススキルと言えるのではないでしょうか。
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