特集『「好き」だけ残して、シンプルに生きる』は、ライフハッカー[日本版]の新コンセプト「WORK FAST, LIVE SLOW.」を体現するようなキーパーソンのインタビュー集です。
第5回は、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司さんのインタビュー。今回は前編「ブレることなくずっと幸せ。元ロボット研究者が幸福学を15年研究して気づいたこと」に続いての後編です。
前野隆司(まえの・たかし)
山口県出身。1984年東京工業大学卒業、1986年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て現在慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。博士(工学)。専門は、システムデザイン・マネジメント学、幸福学、幸福経営学など。主な著書として『7日間で「幸せになる」授業』『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』などがある。
人々がより幸せに生きる「well-being」時代の到来
今、人類は定常型社会(経済成長を目標とせずに豊かさが実現される社会)に直面していると思うんです。
1度目は、狩猟採集生活をしていた時代。狩猟採集生活が限界を迎え、定常期へと入りました。この時期は「心のビックバン」と呼ばれ、壁画など人類がさまざまなアートを始めた時代です。
それが成熟してくると、温暖化もあり、農耕革命が起こりました。農耕によって必然的に人は増えましたが、またもや農耕の限界を迎え、定常化へと移行しました。これが紀元前5世紀くらいで「枢軸時代」と呼ばれます。
この時代にはアリストテレスやプラトン、ソクラテス、老子やブッダなどが現れ、豊かな思想の時代となりました。
その後、産業革命による成長時代を迎えましたが、環境問題などもあり、そろそろ定常化に移りつつあると思うんです。つまり、人類は3度目の定常期に差しかかっているところなのです。
過去の2度はアートと思想が盛んになりました。人間性を発揮したwell-beingの時代です。つまり、定常化時代とは「well-being」の時代の到来なのです。人々がより幸せに、美しさや心を磨き、日々を大切に生きるという時代に入っていくのではないでしょうか。
過去の拡大・成長期には、我々は地球上の平らな土地をすべて畑や都市へと変えてしまいました。今はその反省から、もっと自然と共生していく必要があります。
実際、森の中を歩いていると、人間は自然の一部だなと感じます。これからは自然に触れ、家族との時間を大切にし、自分の人生の豊かさを味わいながら生きる時代になると思いますし、多くの人もそれに気づきはじめているのではないでしょうか。
一方で、逆の動きも起こっています。自分のことしか考えていないような利己的な人や組織が存在するのも事実です。
言い換えると、地球環境も含め予断を許さない状態であり、第三次世界大戦が起こる可能性すらあります。明るい未来へ向かうか、逆の世界へと後退するか、その瀬戸際、つまり混沌の時代でもあるのです。
そのような過渡期にいる私たちは、本気でwell-beingな世界を作るため、皆で力を合わせて発信していかなくてはなりません。
ひとりではできないことも「想い」でつながり合えば必ず実現する
江戸末期に活躍した坂本龍馬は、薩摩と長州に同盟を呼びかけて世の中を動かしました。今は、まるで坂本龍馬が現れる前の世界のようだと思うんです。
たったひとりが正論を掲げたとしても辛いですし、変化を起こすことは難しい。けれども、今は世界中の人とつながり合える時代です。同じ想いや志を持つ人たちがつながり合い、情報を共有し、力を合わせることが大切なのではないでしょうか。
南米に「ハチドリのひとしずく」という逸話があります。ハチドリは森の火事を消すためにたった一羽で水を運び続けるという話ですが、私はこの話には続きがあると思うんです。
確かに、たった一羽のハチドリだけが頑張ったとしても、森の火事は消せないかもしれません。けれども、ムーブメントは指数関数的に加速していきますから、やがて大勢の仲間が集まってくる。そうなれば火は消せるのです。
私自身、我々の想いは必ず広がっていく、そう信じて、近い未来に理想とする世界が実現すると考えています。そんな風に考えると元気が出ますよね。
素晴らしい叡智を学び、諦めずに続けていれば、必ず道は拓ける
自分らしくあり続けるには、良い仲間と一緒にいることが大切だと思います。
やりたいことが見つからなかったり、今の自分について悩んでいたりする人にとっては、自分の少し先を行っている人や何かにチャレンジをしている人の言葉が一番響くはず。
当然、社会にはいろんな価値観を持つ人がいて、なかには敵もいるでしょう。くじけそうになることも当たり前、正常なことです。だからこそ無理せず、バーンアウトしないように、ときには休んで自分を守ることも大事だと考えています。
ボーダーレス・ジャパン代表の田口一成さんが「正解の扉は重い」とおっしゃっていました。絶対に間違っていないと思う扉は、なかなか開かない。しかし、諦めずに押し続ければ、いつかは必ず開きます。
ですから、諦めずに理想を語ってほしいですし、理想が見つかっていない人は、そういう話にぜひ耳を傾けてほしいですね。この世界には、さまざまな分野において、素晴らしい人類の叡智がたくさんあります。
連日、不安を煽るようなニュースばかり流れていますが、そういった叡智は日々のニュースに隠れているだけ。自らその叡智を知り、どんどん学んでみてください。諦めずに続けていれば、グッと拓ける時が必ず訪れると思います。
幸せなパートナーシップのための3つのポイント
最後にパートナーシップについてお話しします。私の妻(前野マドカさん:女性のための幸せ学を提案している)が言うには、パートナーシップには3つのポイントがあるそうです。
ひとつは尊敬、2つ目は成長、3つ目はユーモアだと。
お互いを尊敬し、信頼し合い、それぞれが成長し続けることが大切なんですね。成長しなければ飽きてしまうでしょうし、何より人が成長する時は美しい。私も100歳まで成長し続け、命をまっとうしたいと思っています。
そしてもう一つ大切なのがユーモア。大変な状況下においては失われがちですが、実はポジティブなユーモアはとても大事なんです。
さまざまな困難や課題を、ユーモアや笑いとともに解決できたら素晴らしいですね。
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