昨年、本を書きたいと思い立ちました。

それは到底不可能なことに感じられました。それでも、「長いブログが書けるなら、とにかく1章は書けるということだ」と思い直し、1章ずつ取り組むことにしたのです。そうこうするうちに、いつのまにか本が書き上がっていました。

つまり、小さな行動の積み重ねが大きな成果となったわけですが、ファイナンスでもこれと同じことがあてはまります。

たとえば、あちらで5ドル、こちらで5ドルを節約しても、あまり意味がないように思えます。本当に5ドルしか節約できないとしたら、どうにもならないよね? とあなたは言うかもしれません。もちろん、長く続ければ、お金はそれだけ貯まってはいきます。しかし、重要なのはそこではありません。

節約した5ドルが500ドルに、いや、たとえ100ドルにでもなれば、自分でお金をコントロールしているという感覚を覚え始めます。それこそが最も重要なことなのです。あなたのファイナンスが本当に好転するのは、この時点からです。

「ほどほどに良い」選択がコントロールの感覚をもたらす

アイデア
Image: Shutterstock

あなたが5ドルを節約するとき、それは、5ドルを節約する"決断"をしたということ。お金そのものよりも、その決断こそが重要です。

神経科学の研究者Alex Corb氏は、幸福、コントロール、決断の関連性を研究しています。同氏は著書『The Upward Spiral』の中で、「ほどほどに良い」決断が、脳の背外側前頭前野を活性化させると説明しています。

人は決断しようとするとき、各選択肢の相対的な短所に注目する傾向があり、そのせいで、どの決断もあまり良くないものに思えてしまう。

また、このように複雑な世界では、自信を持って決断するほどの情報を手に入れることは難しい。ほどほどに良いではなく、ベストな決断をしようとすると、感情に関わる腹内側前頭前野の活動を過剰に意思決定プロセスに持ち込むことになる。

反対に、ほどほどに良い決断で十分だと認識していると、コントロールの感覚をもたらす背外側前頭前野がより活発に働く。簡単に言えば、正しい決断をしなければと意識し過ぎると、かえってストレスが増え、逆効果になるということです。

一方、ベストな選択であるかを気にしすぎないで選択を行えば、コントロールの感覚を得ることができます。これこそが、小さな行動がパワフルである理由。

どうせたったの5ドル、それが画期的で歴史に残る決断である必要はありません。それはただ、コントロールの感覚を与えてくれる、気軽で小さな選択であればいいのです。自分のお金を自分でコントロールしていると感じられれば、長期的な視野に立った、より良い決断ができるようになります。

選択を意義あるものに結びつける

コントロールの感覚は前進する動機づけを与えてくれます。Charles Duhigg氏は、著書『Smarter Faster Better』で、選択とコントロールが、「動機づけを司る脳領域を活性化する」と述べています。

▶︎Charles Duhigg氏インタビュー

仕事に没頭することで世界を変えたい:『習慣の力』の著者チャールズ・デュヒッグの仕事哲学

仕事に没頭することで世界を変えたい:『習慣の力』の著者チャールズ・デュヒッグの仕事哲学

また、重要なのは選択と意義深いものを結びつけることだと同氏は話します。

「今しようとしている選択と、何か大きなものをリンクさせれば、仕事を成し遂げるのがずっと容易になる」

「目の前の仕事を"意義深い"決断に仕立て上げれば、自己動機づけが生まれる」(Charles Duhigg氏)

5ドルを節約する事例に戻れば、この小さなアクションを意義深いもの。

旅行に行ける回数を増やすだとか、借金を返済して職探しの自由度を高めるなどの目的とリンクさせることで、モチベーションを高めることができます。

たとえば、あなたのゴールが借金を返済することなら、次のようなアクションが考えられます。

  • 利息の割引を得るために、学生ローンを天引き払いに設定する
  • 借金をまとめて減らすために、税の還付金制度を活用する
  • クレジットカード負債をより早く返済するために、利息の交渉をする

貯金や収入をを増やしたいなら、給与天引きで貯金する、貯蓄額を毎年1%ずつ増やす、不用品をネットで販売する、などのアクションが考えられます。手間もそれほどかかりません。確定拠出年金の設定をいじったり、eBayに売りたい物をアップするだけで済んでしまいます。

たとえささいなことでも、こうしたタスクを達成できたら、あなたはファイナンスに真剣に取り組み、自ら変化を起こしたということになるのです。また、こうした選択が自分にとって意義深い何かにつながっているなら、長期的にもモチベーションを維持することができます。

長期的なゴールをしっかりと設定する

ゴールを決める
Image: Shutterstock

同じように、長期的なファイナンスゴールを持っていれば、小さな行動1つ1つがゴールへの確かな一歩となります。

お金を節約できない一番の原因は、未来の自分をまるで他人かのように感じてしまっていることにあります。UCLAのマーケティング教授であるHal Hershfield氏が、このテーマを研究しています。同氏は、被験者が未来の自分をどれだけ身近なものに感じているかを計測する視覚装置を開発しました。VOXが同氏の研究を次のように要約しています

Hershfield氏はさらに、脳機能イメージングを用いて実験結果の検証を行った。被験者たちをfMRIスキャナーに入れ、10年後の自分について話すように指示をしたところ、吻側前帯状皮質脳領域(通常、自分について考えているときに高い活性を示す)が、ほとんど活動していないことがわかった。

つまり、人が未来の自分について考えているときの脳活動は、まったくの他人のことを考えているときの脳活動と驚くほど似ていたのである。

別の研究、たとえばAssociation for Psychological Scienceに掲載された2013年の研究でも、人は、未来よりも現在のことを考えたときに、より多くのお金を貯金することが示されています。これが、合理性には反するスノーボールメソッドが、長期的に見て、借金を減らす最も効果的な方法である理由です。

進歩からモチベーションを得る

コーヒーを持つ
Image: Shutterstock

スノーボールメソッド(Debt-snowball method)では、基本的に、最も小さい債務から先に返済していきます。

普通に考えれば、最も利息の高い債務から先に返済するほうが合理的、理論上はそのとおりです。しかし現実には、お金は「動機づけ」などの行動科学的要素と深く結びついています。

つまりスノーボールメソッドを採用したほうが、債務の返済がうまくいく理由はここにあります。

挫折することがわかっているメソッドよりも、実質的にうまくやれるメソッドを採用したほうが、結果的に払うお金を少なく抑えられるということ。

スノーボールメソッドが継続しやすいのは、進歩が目に見え、それが動機づけになるからです。以前は不可能だと感じていたことが、だんだんと実行可能なことに思えてきます。

The Progress Principle』の中で、研究者のTeresa Amabile氏とSteven Kramer氏が次のように説明しています。

インナー・ワーク・ライフ(個人的職務経験)にプラスの影響を与えるあらゆる要素のなかで最も強力なことは、意義ある仕事で進歩が感じられることだ。

マイナスの影響を与える要素のなかで最も強力なことは、進歩の反対、すなわち、仕事が後退しているように感じることである。

私たちはこれが経営原則の要諦であると考えている。つまり、管理職にとって、進歩を手助けすることが、従業員のインナー・ワーク・ライフにプラスの影響を与える最も効果的なやり方だということだ。

言い換えれば、進歩を感じられることほど、動機づけを与えるものはないということです。小さなアクションは、進歩を促進します。

小さなアクションには、コントロール、進歩、動機づけといった要素がそろっています。ゆえに、ファイナンスに大きな影響を与えることができるのです。

Lifehacker Money Challengeは、大きな進歩のための小さな達成というコンセプトに基いて構成されています。

毎月、新しい課題が与えられます。それだけでも楽しいですが、本来の目的はモチベーションを高め、コントロールの感覚を身につけることです。つまりはゴルディロックス効果です。

人は、挑戦的かつ実行可能な課題が与えられたときにモチベーションが高まるのです。小さな行動も継続すれば、大きな成果につながります。しかし、もっと重要なのは、行動することで、お金に対する態度が変わり、コントロールの感覚が得られるということです。

結局、あなたのファイナンスに変革をもたらすのは、それがたとえ小さな変化であっても、自分には状況を変える力があるのだ、というコントロールの感覚なのです。

ーー2017.02.19公開記事を再編集の上、掲載しています。

あわせて読みたい

今日から始められる貯金習慣「52週チャレンジ」に挑戦しよう

今日から始められる貯金習慣「52週チャレンジ」に挑戦しよう

ゴルディロックスの法則を使ってモチベーションを保ち続ける方法

ゴルディロックスの法則を使ってモチベーションを保ち続ける方法

Source: Alex Corb,The Upward Spiral,VOX,sage pub,The Progress Principle