貝原益軒の『養生訓』について、『超訳 養生訓』(貝原益軒 著、奥田昌子 編訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の編訳者は以下のように説明しています。

『養生訓(ようじょうくん)』は、江戸時代前期から中期に差しかかる1713(正徳3)年に出版されて以来、日本で最も広く、最も長く読み継がれてきた健康書の古典である。

著者の貝原益軒は医師であり、現在の薬学にあたる本草学をはじめ多くの分野に通じた大学者であるが、『養生訓』に小難しさはない。

バランスよく食べ、腹八分目にとどめ、体を動かし、過不足なく眠り、楽しみを見つけ、心穏やかに健康で過ごすことの大切さと、そのための方法が説得力を持って書かれている。いわば健康になるためのノウハウ書である。(「編訳者まえがき」より)

益軒の時代には食べる目的が「生きること」から「楽しむこと」に変化し、栄養不足ではなく栄養過多を原因とする病気に注目が集まっていたのだとか。つまり、現代に通じる部分があるわけです。

また、現代人から見るとのんびりしたイメージのある江戸時代ですが、礼節と忠孝に縛られた社会のなかで、人づきあいには細やかな配慮が求められていたといいます。それもまた、現代と共通する部分だといえるのではないでしょうか?

そして益軒の養生哲学は現代の健康思想を先取りするものであった。世界保健機関(WHO)は、1946年にWHO検証で健康をこう定義している。「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」。

はっきりした病気がなければよいわけではなく、ただ長生きすればよいわけでもない。

生活の質の向上や健康寿命の延伸に象徴される、質の高さを伴う健康こそが重要ということだ。『養生訓』は健康書があふれる現代にこそ手に取りたい、本物の健康書だといえる。(「現代にこそ読みたい『養生訓』」より)

そんな『養生訓』を「超訳」によってさらにわかりやすくまとめた本書のなかから、養生の根本にある原則と、心と体の関係を提示した第2章「押さえておきたい養生の大原則」に焦点を当ててみましょう。

体は中と外からむしばまれる

益軒はここで、「病気の原因は、体の中にも外にも存在する」と指摘しています。

体内で生まれる原因には、食事、色事、睡眠などに対する7つの欲求と、喜怒哀楽を含む7つの感情がある。体の外から影響を及ぼすのは、風、寒さ、暑さ、湿気などの生活環境である。

行きすぎた欲求と感情を抑え、悪い環境を避けることだ。そうすれば健康でいられる。(巻第一 総論上)(018より)

強い怒りや悲しみ、恐怖などの感情は、それ自体がストレスとなって自律神経のバランスを乱し、心拍数や血圧の上昇、胃腸症状を招くことがわかっているそうです。(018より)

節度をもって食べ、体を動かせ

まず行うべきは、節度をもって食事をすることだ。胃腸を損なうもの、体の害となるようなものを食べてはならない。

そして、色欲を慎み、睡眠や休息をとりすぎないようにせよ。(巻第一 総論上)(021より)

また、「楽だからと座ってばかりいるのではなく、体をときどき動かして血行をよくする必要がある」とも書かれています。これなどまさに、座りっぱなしが常態化している現代人へのメッセージであるかのようです。(021より)

生命力を育むのに金はかからない

金に余裕がなくても、生命力を育むことはできる。

一人静かに毎日を送り、古典に親しみ、香を焚き、山や川、月や花の美しさを愛で、四季の移り変わりを楽しみ、酒はほろ酔い加減に飲み、庭で作った旬の野菜を食べる。

こうやって暮らすのは何と心楽しく、幸福なことであろうか。(巻第二 総論下)(029より)

しかも、こういう生き方をしている人は長生きするので、結果的に幸せが長く続くことになるのだといいます。(029より)

悩み苦しむと生命力がすり減る

感情に振り回されてはならない。

特に、怒り、悲しみ、憂い、心配を手放して、心を静かに、和やかに、穏やかに保て。

いつも気さくに、楽しい気分で過ごし、悩み苦しむことのないようにせよ。(巻第一 総論上)(018より)

そうすることで、生命力を蓄えることができるわけです。(030より)

自制すれば全身くまなく健康になれる

生命力が体内をスムーズに巡り、体のすみずみまで行き渡っていなければ、健康ではいられない。

強い感情にとらわれていると生命力が滞り、病気が忍び寄ってくる。(巻第一 総論上)(031より)

強い負の感情がストレスとなって自律神経を緊張させると、全身に張り巡らされた血管が収縮することに。そのため新鮮な酸素と栄養を運ぶ血液の流れが滞り、病気が発生しやすくなるということ。(031より)

口数を減らし、心を休ませよ

心はいつも落ち着いて、穏やかであるのがよい。

静かに話し、口数は少なく、余計なことを言わないようにせよ。(巻第二 総論下)(033より)

それが、生命力を間持つ最善の方法であるそうです。(033より)


内科医であり、京都大学博士(医学)である編訳者が、益軒の養生哲学のエッセンスを読みやすくまとめた一冊。

現代医学からみて事実とは異なる内容は採用せず、重要な箇所には注釈として解説も加えられているため、きわめて実用的な内容であるともいえます。

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Source: ディスカヴァー・トゥエンティワン