Microsoftのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は、障害のある人たちがアクセス可能な職場と製品をつくるという決意を掲げていますが、その背景には、自らの息子の存在があると明かしています。
ナデラCEOの息子は、生まれたときから脳性まひを患い、2022年に26歳で亡くなりました。
また、全米に展開するホームセンターチェーン「Lowe's」のマービン・エリソンCEOは、同社が「Livable Home」プロジェクトを立ち上げるきっかけになったのは、高齢の父親の住む家をバリアフリー化するリフォームに苦労した体験だった、と述べています。
同プロジェクトは、段差を解消するスロープや危険防止グッズなど、高齢者に優しい製品を販売するワンストップショップで、こちらも、障害がある人たちのコミュニティをサポートする取り組みです。
「すべての人に開かれた職場と製品」を目指して
何らかの障害がある人は、世界全体で13億人を数えます。
これらの人たちにとってオープンでアクセス可能な経済や環境を作り上げていく取り組みの中で、障害者のインクルージョンを最優先課題とし、自社の進捗状況を具体的に測定することを自らに課している企業トップは、有力な支援者と言えます。
ビジネスの場における障害者インクルージョンのリソースを提供する非営利組織(NPO)「Disability:IN」は、2015年に「Disability Equality Index」(DEI:障害平等指数)を開始しました。
DEIの制定を後押しした諮問委員会のメンバーには、ビジネスリーダーも名を連ねています。
Disability:INはさらに、各社のCEOに対し、自らが率いる組織を障害者コミュニティにとってよりインクルーシブなものにする支援を行なうことを約束するよう求める書簡を起草しました。この書簡に署名したCEOの数は、170人以上に達しています。
Disability:INのJill Houghton会長兼CEOは、こう述べています。
企業がこの方向に踏み出し、責任を持って実行すると公言し、透明性を保ち、自社のプラットフォームを活用して(障害者のインクルージョン推進に向けた)活動を話題にすると、競合他社や同業者も、その様子を見守り、実際に何をどんなことをしているのか知りたいと思うようになります。
企業にもメリットがあるインクルージョン推進
障害者のインクルージョン推進には、ビジネス面から見ても大きなメリットがあります。
アクセンチュアがまとめた2018年のレポートによると、他社に先駆けて障害者インクルージョン推進に取り組んでいる企業は、同業者と比べて良い業績を残しています。
アクセンチュアの調査で、障害者のインクルージョンに関するDEIの指標でトップクラスとの評価を受けた企業45社の平均では、売上で28%、利益で30%、DEIの対象となる他の企業を上回っていたとのことです。
このレポートに関しては、最新版が2023年内に発表される予定です。
しかし、真のインクルージョンの実現は一筋縄ではありません。アクセシビリティに配慮したデザインのリーダーを目指すMicrosoftの取り組みについて、Fast CompanyのMark Wilsonが報じた秀逸な記事を読むと、そのあたりの事情がよくわかります。
Microsoftに関しては、インクルーシブな採用プログラムや、通常のコントローラー操作に制限があるゲーマーを補助する「Xboxアダプティブ コントローラー」など、多くの成功事例が知られています。
それでも、後者のコントローラーについては、その存在を障害者コミュニティに十分に説明していなかったとして、批判にもさらされてきました。また、大型のボタンがついたこのコントローラーは、障害者を子ども扱いするものだと批判する声もあります。
2019年のスーパーボウルで放映された、障害がある子どもたちがビデオゲームのプレイ体験について語る同社のコマーシャルは、高い評価を受けましたが、当事者である障害者コミュニティからは、疑問符を突きつけられています。
「障害がある人たちをスーパーヒーローとして美化し、アクセシビリティをつぶらな瞳の子どもが語る問題のように見せているとの批判があった」と、Wilsonは解説しています。
Wilsonはまた、Microsoftに対して、同社がインクルージョンに配慮したデザインの製品から得た利益の額を開示するよう求めたものの、回答は得られなかったとしています。
利益を出すことは可能なのか?
Microsoftのような株式公開企業が、インクルージョンに配慮した製品を持続可能な形で展開し続けるには、それ自体で利益を出す必要がある、とWilsonは論じています。
また、ナデラCEOは確かに、同社のアクセシビリティに関する取り組みの頼もしい支持者ではありますが、後任のCEOに、障害者インクルージョンについて同CEOほどの熱意を持たない人が就任したら、いったいどうなるのでしょうか?
とはいえ、明るいニュースもあります。それは、インクルーシブに配慮したデザインは、障害者だけでなく、より広い層に人気があり、しっかりと利益も出せる可能性がある、ということです。
「OXO Good Grips」ブランドの創業者がピーラー(野菜の皮むき機)を開発したのは、関節炎を患っていた妻が使いやすい道具を作りたいとの思いからでした。
このピーラーはその後、1994年にニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクション入りを果たし、2018年にはFast Companyも、同メディア初となる「Timeless Design(時を超えたデザイン)」賞を授けています。
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