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『在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』(中村明澄 著、講談社+α新書)の著者は、千葉県八千代市の在宅緩和ケア充実研究所「向日葵クリニック」で訪問診療を行っているキャリア11年の在宅医。これまでに1000人以上の患者さんを看取り、各人の希望が叶えられるように努めてこられたのだそうです。
死は誰にも必ず訪れるものであり、生きている日常のなかにあるもの。だからこそ大切なのは、必要以上に死を恐れることなく、日々を、その瞬間を大切に過ごすこと。そこで、同じ時間を過ごすなら、ましてやその時間が限られているのなら、穏やかに少しでもよい時間を過ごしてほしいと願っておられるわけです。
こうした思いを胸に、日々患者さんやご家族と接する中で、「ああ、こんな風に過ごせたら素敵だな」と思うことがあります。そこに共通しているのは、物事を明るい方向から見ていること。これを私は「幸せ感じ力」と呼んでいますが、幸せ感じ力が強い人は、総じて幸せな人生の最終段階を迎えているように感じます。(「はじめに」より)
たとえば大切な人を見送ったあとに「あれもできた」と思うか、「あれしかできなかった」と思うか。同じ状況であっても、見方や捉え方で心のあり方が大きく変わってくるのです。
そして、もう一つ大切なことが、自分たちにとって納得のいく選択ができていること。療養が必要になった時、どこで過ごすのか、何を大切にして過ごしたいのかーー。これらを自分たちの意思で選択していくことが、ポジティブな心のあり方に大きくつながってくる印象です。(「はじめに」より)
自分たちで選択するためには、正しい知識が必要。つまり、幸せな時間を過ごす第一歩は“知ること”から始まるということ。そうした考え方に基づいて、本書では、おもに暮らし慣れた自宅で、幸せな時間を過ごすために知っておいてほしい知識をまとめているわけです。ここでは3「『受け入れる』ことで納得のいく過ごし方ができる」に焦点を当ててみたいと思います。
現実を受け入れることで幸せに過ごせる
大切な人については誰しもが、「いつまでも元気で長生きしてほしい」と願うはず。しかし家族がそう願うあまり、老いや病気で弱っている現実を受け入れられず、本人も家族もお互いにつらくなってしまっているーー。そんな姿を、著者はしばしば目にするそうです。
たとえば、子がいつまでも元気な親の姿を追いすぎるのは、ある意味では酷なことでもあるでしょう。人はいつか必ず老いるのだから、親の老化を認めたほうが優しくなれる場合もあるわけです。
老いを受け入れ、あたたかく見守る。それができたら良いコミュニケーションが取れると思います。(39ページより)
もちろん、大切な人に死が近づいていることを受け止めるのは、誰にとってもつらく受け入れ難いこと。そのため、「奇跡が起こって改善するかもしれない」と、現実から目を背けて奇跡ばかり追い求めてしまう人もいるかもしれません。しかし、家族が現実を受け入れられないことが、ときに本人を苦しめてしまう場合もあることを心にとめておくべきなのです。
本人への「頑張れ」という言葉も、頑張ってほしい気持ちの“押し付け”になることがあります。「最後まで諦めずに闘い抜いてほしい」という家族の気持ちに、本人が何とか応えようと無理をしてつらい思いをしてしまうことがあるのです。(40ページより)
本当に大切なのは、がんばることを強いるのではなく、現実を受け入れて寄り添うこと。そうすることで、本人と家族が幸せに過ごせるということを、著者も患者さんと家族から学んだのだといいます。重要な視点は、「受け入れる」ことと、「諦める」ことは違うということであるようです。(38ページより)