内科医・心療内科医・産業医・公認心理師である『心療内科医が教える本当の休み方』(鈴木裕介 著、アスコム)の著者は本書の冒頭で、現代人の多くが疲れやストレスを抱えていることを指摘しています。
本人に自覚がないというケースも少なくないものの、心と身体のバランスを崩してしまう人はあとを絶たず、精神を患う人、睡眠に問題を抱える人、あるいはメンタルヘルスの不調による休職者は増加し続けているというのです。
事実、以下のような方も多いのではないでしょうか?
・休みたいのに、仕事が忙しくて休めない
・育児中で、自分の時間がまったくとれない
・会社から帰ったら、エネルギーを使い果たしていて何もする気力がない
・週末も、家事や家族サービス、翌週からの仕事の準備などに追われ、自分の疲れを癒す間もなく終わってしまう
・年齢を重ね、休む時間はできたけれど、先のことを考えると不安で気が休まらない(「はじめに」より)
著者のクリニックにも、日常生活のなかで処理しきれないほどのストレスを抱え、心身が耐えきれなくなってしまった方がしばしば訪れるのだとか。
しかし多くの場合、その結果として身体がいうことをきかなくなったりするもの。頭では「自分は大丈夫」「働きたい」「人に会いたい」と考えているのに、朝、どうしても起きられなかったり、通勤や帰宅途中に動悸や吐き気をもよおしたり、理由もなく涙が止まらなくなってきたり……というようなことが起きてしまうわけです。
そこで本書ではそんな方のために、たとえ短い時間でも「本当の休み」をとるための方法を伝えているのです。きょうはそのなかから、「生き方」に焦点を当てた最終章「『身体と調和する』生き方を目指そう」に注目してみたいと思います。
怒りたいときは怒ってもいい
しばしば、「日本人は感情を表に表すのが苦手な人が多い」といわれます。著者の知人やクリニックを訪れる患者さんにも、感情を出すことを「恥ずかしい」「みっともない」と思っている方は少なくないようです。
なかでも多くの人が、「怒り」という感情とつきあうことを苦手としているそう。社会には「人前で怒りをあらわにするべきではない」というような暗黙の了解のようなものがあり、ほとんどの人が知らず知らずのうちに怒りの感情を出すことを抑えているのではないか。著者はそう分析しているのです。
怒りという感情に非常にネガティブな印象を持っているため、「怒りを感じたくない」「怒りという感情が怖い」「怒ってしまった自分が許せない」という人はたくさんいます。
しかし、「怒りに任せて相手を攻撃すること」と「怒ること、怒りという感情を抱くこと自体を我慢すること」とはまったく異なります。(253ページより)
社会で生き抜いていくため、適切に攻撃性を発揮することはとても大事。もちろん直接的な暴力ではありませんが、コントロール可能な興奮を伴って発揮される「健全な攻撃性」は、支配的な相手から身を守ることや、交渉において意思を貫くこと、挑戦することなどにつながるわけです。
怒りは、ラインオーバーしてくる相手を「押し返す力」として働き、他人との健全な境界線をつくるうえで欠かせない大切な感情です。
怒りの蓄積を感じたときに、交感神経反応が活発化し、イライラしたり心拍が速くなったりするのは、正常な反応です。
相手に直接ぶつけられないとき、怒るべき相手が目の前にいないときは、一人で怒りの言葉を口にしたり、紙に書いたりしてもいいでしょう。(253〜254ページより)
つまり怒りは、自分を不当な攻撃から守るためのものであり、決して敵ではないということ。したがって、手放すことなく、うまく関係をつくれるようにしていくことが重要であるようです。(252ページより)
「ゆっくり」であることの価値を知る
「仕事が早い」「レスが早い」「足が速い」など、現代社会においてはどうしてもスピードや効率を求められがち。たしかに「はやい」ということは、とても大きな価値を持つでしょう。
しかし、「ゆっくり」であることもまた、素晴らしい価値をもっていることに徐々に気づかされています。
どうやってこの「ゆっくり」を生き方に取り入れていこうか、というのが私の生活の大きなテーマになっています。
「ゆっくり」でなければなし得ないことがあるのです。(261ページより)
たとえば著者の専門領域である心の病においても、「早く治してください」と焦る人ほど、かえってよくなるまでに時間がかかってしまうということがよくあるのだそうです。
「早く治さないと、仕事が、居場所が、積み上げてきた評価がなくなってしまう」という危惧があるのはもっともなこと。しかし、そういった恐怖感に支配され、休むことを望む自らの身体の声を無視し、必要な回復の時間を見誤ってしまうと、より傷を深めることになってしまうわけです。
人間関係における安心感に関しても、「ゆっくり」であることはとても重要な意味を持つといいます。
人間はコミュニケーションの中で、相手の声のトーンやしゃべる速さ、表情などを読み取り、神経学的にとらえています。
せかせかとまくし立てるように話す相手より、落ち着いてゆっくりと話す相手に、たしかな安全の感覚を感じやすいというのは想像しやすいのではないでしょうか。(262ページより)
穏やかに微笑んでいる人や、落ち着き払っている人との交流によって心が落ち着いたり、安心することはよくあるもの。つまり安心とは、ことばだけで達成されるものではないのです。
したがって、他人に安心感を与えたいと思うなら、いつもの2倍くらいの時間をかけ、ゆっくり動くのもいいかもしれない。著者はそう述べています。(261ページより)
休みの日にひたすら眠ったり、ダラダラ過ごしたりすることで、心身の状態が改善するとは限らないもの。なぜなら、各人の個性や、その時々の心身の状態などによって「本当の意味で心や身体を癒すことができる休み方」は異なるから。そこで本書を参考にしながら、ぜひとも自分にとって最適な休み方を見つけたいものです。
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