敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。

今回お話を伺ったのは、元コクヨ広報で現在はフリーランス ライター/イラストレーターのヨシムラマリさんです。

ヨシムラマリ

ライター/イラストレーター。神奈川県横浜市出身。文房具マニア。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。 著書「文房具の解剖図鑑」。

X(旧Twitter) / HP

ヨシムラさんは、「やりたいことを追求するため、また新しいキャリアを築くための過程」として副業をはじめ、在職中に本の出版も経験。そして、今年6月にフリーランスのライター兼イラストレーターとして独立。Webメディアのイラストコラム、書籍の執筆、イラストなど幅広く活躍の場を広げています。

今回は、そんなヨシムラさんに、新卒から勤めた会社を退社し、40歳でキャリアチェンジした理由から仕事術や愛用している文房具についてお話を伺いました。

ヨシムラマリさんの一問一答

氏名:ヨシムラマリ

職業:フリーランス ライター兼イラストレーター

居住地:東京都

現在のコンピュータ:13インチ MacBook Air (M2)

現在のモバイル:iPhone 13 mini

現在のノートとペン:目的によっていろいろなものを使い分ける

仕事スタイルを一言でいうと:ゴールを大事にする、無理をしない

キャリアチェンジのタイミング

――会社員時代からブログやTwitterを中心に情報発信をされていましたが、きっかけを教えてください。

30歳のときがひとつの転機でした。その頃は文房具関連の仕事がしたいと入社したコクヨで、クラウドサービスのマーケティングというまったく文房具と関係ない仕事をやっていて…。希望は出していたものの、異動もなかなかできず、会社の仕事と自分が本当にやりたいこととの間に大きなギャップを感じていました。

そこで、まずお金にならなくていいから、とにかく自分の考えややりたいことを表現しようと、ブログを書きはじめたり、SNSで文房具に関する情報を発信したりするようになりました。結果的にこれがきっかけとなり、副業へと繋がっていきます。特にブログは、意図的に毎日更新を心がけて、実際に3年間も続けました。このときブログを継続できたのが、いまの仕事のきっかけになっています。

――どのようにしてお仕事の依頼が来るのですか?

大部分はSNSやブログからです。実は、自分から営業をしたことは一度もありません。SNSでの投稿やブログの「お問い合わせ」から連絡が入ることが多いですね。また、文房具業界の知名度のある方々に知っていただいて、そこから繋がることも。その点は、少し運が良かったと思っています。

――3年間毎日ブログの更新を続けた後、それをやめるという決断を下した背景は?

3年間毎日更新するのは、正直、大変でした。ブログを更新する時間が長くなると、本を読む時間や他の活動に必要なインプットの時間が取れなくなりました。

さらに副業の仕事も入ってくると、それに費やす時間すらなくなることがあったんです。私の中では「ある程度やるべきことはやった」という実感があり、ブログの毎日更新を止めることにしました。

――副業と会社員、両立で大変だったことは?

一番大変だったのは、フルタイムの正社員として働きながら、同時に本を執筆した時期。生活のほとんどの時間をその仕事に捧げ、半年以上はまともな休みも取れませんでした。

当時は、食べることが唯一の息抜きで、かなり体重が増えてしまいました。人生で最も太ってしまった時期です。

独立した今は、同じことにならないように健康管理と無理をしないことに気をつけています。

――なぜ独立をしたか?

2年前ほど前から、コクヨの企業理念や経営方針が変わってきたことが理由です。文具やオフィス事業の業界は、子どもも減って、コロナで出社しなくなり、ターニングポイントを迎えています。業界的には逆風という中で、変革が求められていることは頭では理解しています。でも、どんどん変化していくところに寂しさも感じていました。また、フリーランスになって文章や絵を描いていきたいという思いも昔からありました。

もちろん、副業を通してフリーランスとしての見込みが立ったことも大きいですね。年齢的にも今年40歳なので、最悪ダメでも40代前半ならもう一回就職できるチャンスもあるのでは?というのもあって。やるなら今だ!と。

「超シングルタスク人間」の無理しない仕事術

――仕事環境の作り方について教えてください。

「超シングルタスク人間」なんですよ。複数のタスクを同時にこなすのが苦手です。マリオカートのキャラクターに例えると、マルチタスクが得意な人はキノピオのようにすぐ方向を変えられますが、私はクッパのように方向転換が遅い。でも、一度直線に入ると速い、みたいな。

そのため、タスクの切り替えを最小限にし、一つのことに集中できる環境を作ることを意識しています

たとえばメール対応は、朝と昼と夕方の3回だけスマートフォンの通知は、緊急性の高い電話とDM以外はすべてオフ似たタスクはジャンル分けして、なるべく固めてやるという風ですね。

あと何かやることがいっぱいある状況がすごく苦手なんですよ。圧迫感があるじゃないですか。インボックスにメールが溜まっていると、そのプレッシャーに負けてしまうんですね。

メールは読んだらアーカイブに移動し、インボックスには「今すぐ対応が必要なもの」だけを残す。終わったら、消えるようにして、視界に入らないようにしています。

メールボックス、ダウンロードフォルダ、PCのデスクトップは、必要なものだけを残し、それ以外は常に整理し、できるだけゼロに近づけるようにしています。

自分の苦手を得意に変換する方法

――シングルタスクでもマルチタスクが求められることがあると思います。どう対処してきましたか?

八木仁平さんの『世界一やさしいやりたいことの見つけ方』という本ご存知ですか?

私が感銘を受けた本で、「苦手なことを無理してやらなくていいんだ」と思える内容です。苦手なことを得意なほうに変換すればいいんだと。

私もコクヨで広報をしていたとき、展示会のスタッフをやる必要がありました。展示会の準備から運営は、本当にマルチタスクの権化で、段取りとマルチタスクの連続です。

会社員である以上、やらざるを得ないんですけど、その日やることだけに集中できるようにしたりとか、タスクをちゃんと分けて、とにかく今日のことだけ考えて対処してきました。

仕事に欠かせないアプリ・文房具

――仕事をする上で欠かせないアプリは?

タスク管理は、Todoist。イラストはiPadのClipStudioです。下書きまでは紙で、A5サイズのコピー用紙や、スキャンして取り込むのにScanSnapiX100を使います。

テキストエディターはMacの「stone」です。ミニマルなデザインで、余計なものが目に入らないので集中して仕事ができます。

――仕事をする上で欠かせない文房具は?

文房具は、ラフを描くための水色の芯のシャーペンやドクターグリップ。小学生からずっとドクターグリップファンで、軸が太い方が疲れにくい気がするんですよね。

ApplePencil 2も細すぎるから、鉛筆用のグリップをつけてカスタマイズしています。ただ、タップ機能が使えなくなるのが難点です(笑)

アイデア出しをするときは、A4のノートパッドを使います。切り取ったら、A4のコピー用紙をノートみたいに束ねられる「クリップノート」で整理しています。

――仕事をする上で欠かせない道具は?

リアルフォースのキー荷重30gです。メカニカルキーボードの中でも、軽いタッチで打鍵できるところが気に入っています。

営業が苦手だから、マーケティング思考を取り入れる

――副業をするにしても、正社員だと、営業する時間って多分あまりないと思うんですよ。そもそも営業が苦手な人は、どうしたらいいでしょうか?

私自身、営業よりマーケティングのほうが向いているのかな。こっちから売り込んでいくのが苦手なので、どうすれば向こうから来てもらえるようになるか、と考えていますね。

マーケティング思考で仕事の問い合わせが来る状態にしておいたほうが、自分にとっては楽なんです。向き不向きもありますが、自分からガンガンアプローチをかけていくほうが得意だっていう人もいますよね。

私は電話すら心の準備が必要なほど営業が苦手なので…。たとえば、絵日記ブログをはじめるときにも、マーケティング思考を取り入れていました。

絵日記は何のノートに書いてもいいのですが、その当時、モレスキンに書いたものをネットでシェアするのが流行っていたので、あえてモレスキンに書いて、#モレスキン とタグをつけてアップしてみたり。

そうすることで、自分に興味を持ってくれそうな人のアンテナに引っかかりやすくなるかな?と工夫していました。

今回、独立するのに当たっても、何もないところからいきなりライターの世界に飛び込むのは厳しいと思い、まずライター塾に通って、同期との横のつながりや編集者さんとの自然なつながりを作ることを心がけました。

無理できないから、ゴールに最短で向かう方法を考える

――仕事の中で編み出したライフハックについて教えてください。

20代の後半に、ストレスで体調崩した時期があり、そこから「無理をしない」「キャパを超えない」ようにすることを意識しています。

ただ、仕事にはゴールがありますよね。だからこそ、「一番大事なことは何だろう」と常に考えて、それ以外のことは究極の話やらなくてもいいのではと思うようにしています。どうしたら目的を楽に達成できるかは常に考えていますね、会社員のときもそうでした。

あと、私は体力やストレス耐性がないので、そこをいい意味で諦めるようにしています。まわりを見ると、昼も夜もすごい馬力で働いている人がいて少し憧れてしまうのですが、私は体力がないからしょうがないといい意味で諦めています。

だから、体力と能力の範囲内でいかに頑張るか。私のライター塾の師匠も夜と土日は仕事しないと言っていましたし、私が尊敬するフリーランスの先輩も「土日は休むよ」みたいな人たちが結構多いので、そのスタンスで行こうと思っています。

お金がなくても、できることはある

――これまでもらったアドバイスで印象的なものは?

コクヨでクラウドサービスのマーケティングをやっていた時代の上司に言われた言葉です。私がその部署に異動したばかりのころ、「予算はいくらあるんですか」って聞いたところ、「予算はありません。知恵を使ってください」と言われました。

最初はそんな無茶な、と思ったけれど、でもよく考えるとすごく大事なことだと気づきました。

結局お金があっても、使い方が間違っていたら意味がない。お金を使うことを考える前に知恵を使わないといけない。だから、最初は「えっ?」って感じだったんですが、自分的にはすごい真理だなと。

仕事哲学「好きより得意を優先する」

――仕事に対する哲学を教えてください。

私は「好きなことを仕事に」という世の中の流れに、少し違和感を感じます。私の考える仕事哲学は、「人から求められ、褒められることを選ぶ」です。

実際、私は昔イラストレーターになりたかったのですが、今はライターをメインにして頑張っています。イラストを描いているときよりも、広報やマーケティングで文章を書いているときのほうが、周りから評価されることが多かったんです。

はじめから文章を書くことが好きで、それでやっていこうと思っていたわけではなかったのですが、好きなことより得意なこと、求められることをやる方が、まわりから評価してもらえるし自分自身も楽しい。

私の師匠も同じように、自分から仕事を選ぶより、「こういうの書けるんじゃない?」って言われた仕事がうまくいっていると話していました。私も同じように感じていて、仕事は選ぶものではなく、選ばれるものと思いながら仕事をしています。

>> HOW I WORKをもっと読む

Photo: 本人提供

Source: コロメガネ, Twitter, stone