語学学習アプリの定番として世界中で利用される「Duolingo」。42言語、100種類以上のコースが提供され、3月にはGPT-4を導入した新プラン「Duolingo MAX」も米国でローンチされました。

創業者兼CEOのルイス・フォン・アーン氏は、コンピューターと人間を識別するセキュリティシステム「CAPTCHA」の開発者としても知られます。

そんなルイス氏が来日し、「教育分野でのAI活用」をテーマに東京大学で講演会を開催。ルイス氏が考える、AI時代に求められる学び方やスキルとは?

ゲームのように学べば、モチベーションは保てる

右:東京大学 産学協創推進本部特任教授 長谷川克也さん
右:東京大学 産学協創推進本部特任教授 長谷川克也さん
Photo:Duolingo提供

ルイス氏が、共同設立者のセヴェリン氏とDuolingoをはじめたのは約12年前。

セヴェリン氏はカーネギーメロン大学の教授で、ルイス氏は博士課程の学生でした。教育に関する仕事をしたいと考えていたものの、何を教えたいのかは分からなかったというルイス氏。英語を選んだ理由を次のように語ります。

英語の素晴らしいところは、直接的にお金を稼げる点にあります。数学の場合、ただ数学を知っているだけでは稼ぐことはできず、物理学を学び、さらにエンジニアになる必要があるでしょう。

でも、ウェイターだった人が英語を学べば、ホテルのウェイターになってより多くのお金を稼げるようになります。そこで私たちは、語学を教えるサービスを作ろうと決めました。

まず、ルイス氏の母国語であるスペイン語をセヴェリン氏が学び、セヴェリン氏の母国語のドイツ語をルイス氏が学ぶためにスペイン語とドイツ語のコースを作りました。ところが、さっそく問題にぶつかります。

それは、学びが「つまらない」ということ。独学で語学を学ぶ上で最も難しいのはモチベーションを維持することだと気づき、ゲームのように学べるようにしてリリースされたものがDuolingoです。

退屈しない、新機能AIを使ったロールプレイも

Duolingoは、早い段階からAIを活用してきたといいます。そのひとつが、ユーザーに学習の継続をうながす通知のタイミングです。ルイス氏は当時のエピソードを振り返ります。

私たちはAIを使って通知を送るベストなタイミングを探りました。そして、その答えは「Duolingoを使ってから24時間後」だと判明しました。考えればわかることですが、私たちはそれに何百万ドルもかけてAIを使ったのです。

2023年3月には、GPT-4を使った新プラン「Duolingo MAX」を米国などでリリース。なぜ間違えたのかの解説をAIによって生成する「スマート解説」と、チャットボットを通してシナリオに沿って会話の練習ができる「ロールプレイ」の機能を備えています。

ロールプレイは、「フランスでサンドイッチを注文する」といったシチュエーションでの会話を体験できるもの。ここでも、「サンドイッチを売っている人が怒り出す」といった奇妙なことが起こるシナリオにすることで、退屈せずに学べる工夫がなされているそうです。

人間の教育者の役割はなくならない!

Photo:Duolingo提供
Photo:Duolingo提供

「この先、AIやコンピューターが人間より優れた教師としてほとんどのことを教えられるようになると確信している」と話すルイス氏。ただし、それには少し時間がかかるといいます。

GPT-4にアクセスできるようになってまだ1年足らずです。ある技術をベースに本当に優れた機能を生み出すには時間がかります。

たとえば、最初の優れたiPhoneアプリはiPhoneの発売から約3年後に登場しました。ジェネレーティブAIの技術に基づく本当に良いものが出てくるまでにはあと数年かかると思います。

さらにルイス氏は、「学校や教師がすぐに役割を失うことはないものの、個別指導が必要なものはコンピュータが行なうようになり、教育がより効果的になる」と予測。一方で、共感や尊敬、優しさといったことを学ぶために人間の教育者は必要だといいます。

もしかしたら100年後には、私たちと同じようなロボットが誕生しているかもしれません。でも、今後10年で教育者の役割がなくなるとは思えません。

自動翻訳があっても学ぶ必要はあるのか?

すでに多くの言語がリアルタイムで翻訳できるようになっており、今後は生成AIがさらに言語の障壁を低くしていくことが予測されます。それでも人は語学を学ぶ必要があるのでしょうか?

Duolingoで学習している人たちは大きく2つにわかれるといいます。そのひとつが、趣味で学んでいる人たちです。

たとえば、ドイツの文化が好きだからドイツ語を学んでいるような人たちは、自動翻訳があろうがなかろうが、そのモチベーションは下がりません。

一方で、自動翻訳では本当にやりたいことができず、英語を学ぶことを必要としている人たちもいます。そこには、翻訳時に生じる「遅延」の問題があります。

AIを使ったリアルタイム翻訳の場合、文が完成するまで翻訳を開始することはできません。これは言語ごとに語順の違いがあることに起因するもので、仮にAIの翻訳精度が完璧だったとしても必ず発生するものです。

たとえばロンドンに移住して英語を使った仕事に就きたいと思ったときに、通訳を雇うことはできないと思います。だから英語を学ぶ必要があるのです。今後もその需要が減ることはないと考えています。

「今後10年で多くの仕事が入れ替わることはないと私は考えているが、本当のところはわからない」と話すルイス氏。AI時代に必要となるスキルについて次のように語りました。

創造性にはAIが得意とする種類のものと苦手とする種類のものがありますが、創造性を学ぶのはよいことだと思います。

それに加えて、私たちは「明確にロジカルに考える方法」を学ぶ必要があります。ロジカルに考えることができなければ仕事はうまくいかないでしょう。これは、どのような職業であっても必ず必要になるスキルです。

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Source: Duolingo