生成AIが身近な存在となった今、私たちはどう生きるべきなのでしょうか。
明るい未来を想像できる人がいる一方で、40代の私は、これまで正しいと言われて努力してきたことの多くがAIの出現によって否定されてしまったようで途方にくれています。
そんなとき、反抗期真っ只中の子どもに「勉強したくない」と言われて言葉煮詰まってしまいました。
だって、これから先、学校で教えられることのほとんどをAIに取って代わられる可能性が高い子どもに対して「それでも勉強したほうがいい」と言うのが正しいかわからなかったからです。
そのように悩んでいたときに出会ったのが、孫泰蔵著の『冒険の書 AI時代のアンラーニング』でした。AI時代に能力や才能が意味を持たなくなるという本書には、学びの再定義が書いてありました。
「学校にいこう」は思考停止

著者である孫泰蔵氏は、久留米大学附属中学校・高等学校から東京大学経済学部へと進み、在学中に起業。
以来、インターネット関連のテック系スタートアップを連続して立ち上げてきた起業家です(ソフトバンクの創業者である孫正義氏の実弟としても有名です)。日本の教育にどっぷりと浸かりながら受験戦争を勝ち抜いてきた人と言えるでしょう。
そんな同氏は、日頃からAIに触れる中で、今の学校教育に疑問を持つようになったそうです。
「今の学校で教えている読み書き計算などは、AIが得意とすることで人間では太刀打ちできなくなる。だとすると、教育の在り方や勉強の定義を根本的に見直す必要がある」と気づいたみたい。
そこで、学校教育の在り方や学校に行く意味、学校ができたきっかけ、学校がどのような人材育成を目指すようになったのかを、古今東西の哲学者や思想家の文献を参考にしながら解きほぐすことにしました。
そして、AI時代に「学校にいこう」というのは思考停止であり、勉強ではなく遊びこそが重要であるという新たな気づきを得た上で学ばなければならないと確信していくのです。
当たり前を見直して新たな考えを手に入れる

本書は5章から構成されており、繰り返し問いかけをしてきます。
そのいくつかを紹介します。(P359〜361より抜粋)
・これからの時代を生き抜くためになにを身につけるべきか?
・なぜ基礎から学ばないとダメなのか?
・これからの子どもたちは学校でなにを勉強するべきか?
・なんのために努力をする必要があるのだろうか?
・そもそも「役に立つ」ってどういうことか?
・考えがちがう人たちが溝を埋めるにはどうすればいいか?
AI時代とAIがなかった時代では、これらの問いに対する答えも変わります。前述のように、本書では、AI時代を生きる上で知っておいたほうがいい答えを、先人の知恵や思想を参照しながら導き出していきます。
それは、これまでの概念をスクラップ・アンド・ビルドする作業でした。これまでの考えや、現在進行形で良しとされている学校教育のスタンダードを根本的に否定する考えも出てきます。
本書が教育者の中で「禁断の書」と揶揄されるのも納得です。最後まで読んで著者の意図を理解しない限り、「AI時代では学校の勉強は無意味」と学びを完全に放棄する人も出てくる可能性があるからです。
学びの再定義とアンラーニング

『冒険の書 AI時代のアンラーニング』は、学びに関する様々な視点を得た上で、学校教育と勉強を解析/再定義し、アンラーニングの重要性を説いています。
アンラーニングとは、「常識を捨て去り、根本から問い直し、その上で新たな学びに取り組む」ことで、「通常のラーニング以上に大事な学びの態度」(P321)だそうです。そして、これからの時代を生きる大人は、子ども以上にアンラーニングする必要がある、と書かれています。
アンラーニングは、アンラーンした人と対話することで初めてできること。そして、子どもたちはアンラーンする必要もない状態なので、大人と子どもが共にラーニングしたりアンラーニングしたりを繰り返すのが良い、とも記されています。
だから、AI時代の学校は、年齢問わず人が集まり、ラーニングとアンラーニングをする場所になっていくだろうと伝えています。
本書は、かなり高度な内容をできる限り簡単な言葉で綴っています。子どもに語り、問いかけるようにも書いてあるので、小学校高学年でも読めるはず。
新たな気づきをたくさん与えてくれますし、原書ではなかなか読みこなせない哲学書などの内容を簡単に理解させてくれます。
それに、今の学校教育に疑問を呈している著者が、これまでの学校教育の経験がなければ考え付かなかった思想を展開している皮肉もおもしろいです。
私は本書を読んで、改めて学び続ける大切さとおもしろさに気付かされました。AI時代の学びをどうするかの自分なりの考えや、子どもの教育方針はまだ出ていませんが、アンラーニングの仲間として子どもとの関係を今一度見直してみたいと思っています。
Photo: 中川真知子