『できる社長の対人関係』(服部真和 著、秀和システム)の著者が指摘しているように、「社長は孤独である」といわれることは少なくありません。なぜ孤独なのかといえば、ビジネスの規模にかかわらず、社長はつねに最終決断をしなければならない立場にあるから。
だからこそ「この人と一緒に仕事がしたい」と思える仲間を見つける。あるいは、誰かにそう思われたいと考えることこそが、社長にとっては重要なテーマとなります。
同じ境遇に立ち、同じ悩みを抱えているからこそ、助けあい、化学反応を起こしあえる……。じつは社長こそ、1人でも多くの仲間を増やさなくてはならないのです。(「はじめに〜経営者こそ仲間を増やさなくてはならない」より)
こうした考えを「できる社長の対人関係」と位置づけた著者は本書において、自らが大切にする価値観を主軸にしつつ、同時に信頼関係を築き、お互いを高め合えるメソッドである「価値観を重視して他者と関わる対人関係構築法」を明らかにしているのです。
その根底にあるのは、「他人の価値観を理解し、自分の価値観を知れば、対人関係は良好になる」という考え方。
本書では、この他人や自分の価値観への向きあい方を容易にするために、対人する相手を「マスター(研鑽者)」「アレンジャー(改良者)」「クリエイター(創造者)」「アンバサダー(伝道者)」「マネージャー(管理者)」「イノベーター(革新者)」という6タイプに分類し、それぞれの対応方法を解説していきます。(「はじめに〜経営者こそ仲間を増やさなくてはならない」より)
この分類は、基本的に老若男女、世代職業などを問わず、誰にでも当てはめて対応することができるそう。
きょうはその前段階、相手の価値観を見抜くためのコツに言及した第2章「相手の価値観を活かして調和をはかろう」内の5「対人関係を『秒』で攻略するコツ」に焦点を当ててみたいと思います。
人の観点は「客観型」と「主観型」に分かれる
物事を見たりなにかを話したりする際、客観的な側面が強く出るタイプと、主観的な側面が強く出るタイプとに分かれるのだとか。第三者的に表現するなら、「状況に応じて変わる人」と「いつでも同じように見える人」ということになるようです。
前者は、つねに「人からどう見られているか」を気にし、状況に合わせて振る舞いをコントロールできる人。このような性質を「セルフモニタリングの高い人」といい、社会的に良好な性質といわれているのだそうです。端的にいえば、「空気の読める人」ということになるのでしょう。
対する後者は、「人からどう見られているか」は気にせず、自分の価値観に従うタイプ。そのため相手や周辺の状況に振り回されず、いつでも一貫しているわけです。対人関係の場面で自らの価値観原則に従うことを大切にしているわけですから、「空気の読めない人」にあたるのです。
たとえば自社が新しい商品やサービスを開発しようとする際、顧客のアンケート結果やニーズ調査、あるいは世の中のトレンドから新しい商品、サービスを考えようとする人は「客観型の人」。
「自分がつくりたいと思えるもの、自社の資源でつくれるものはなにか」を基準に考えようとする人は「主観型の人」。
客観型 | 主観型 |
全体主義 個人的な事情よりも | 社会適応 家庭や職場を重視し、 |
外発的動機 「報酬」「地位」「名誉」「評価」 | 外発的動機 「好奇心」「探求心」「やりがい」「自己実現」 |
社会適応 家庭や職場を重視し、 | 内面適応 自分の心や気持ちを重視し、 |
(87ページ 表1より抜粋)
なお、ここでいう「客観型」「主観型」は価値観のよしあしを判断するものではないと著者は強調しています。あくまで、ビジネスや人生における「価値」のよりどころに、自分の外側、内側いずれかのベクトルが働いているかを示すものだということです。(84ページより)
人の行動原理は「伝統的」と「革新的」に分かれる
経営者がビジネスを進めるとき、アーティストが作品をつくるとき、または誰かが料理をするときなどにおいて、その行動には「伝統的」と「革新的」な原理を見出せるといいます。
音楽でたとえるなら、「伝統的」とはクラシック音楽にあたります。他方で「革新的」は、ジャズやロックなどを指すことになるわけです。
世界的に有名なキース・ジャレットというピアニストがいます。彼は「ジャズとクラシックを両方演奏することは、脳の回路が異なるから不可能だ」といいました。(86ページより)
クラシックにおいては、先人が残した楽曲と表現を、楽譜を通して再現することが重要。とくに「どのように演奏するか」がポイントとなるため、表現力を高めた技術を駆使して完璧な演奏を目指すのです。
ドイツ・マックスプランク研究所の認知脳神経研究によれば、クラシックピアニストの演奏中に脳波を測定すると、前頭部のθ(シータ)波(瞑想、記憶、学習に関連)が強く観察されたそうです。(86〜87ページより)
対するジャズは、一定の主題(テーマ)を除き、即興演奏や予期しない和音(コード)と旋律(メロディ)の創作に集中して演奏します(アドリブ)。また、他の奏者の演奏を受け、新たなコードやメロディを即興で返すこともあります(インタープレイ)。
こちらも、先の認知脳神経研究によれば、ジャズピアニストの演奏中には、β(ベータ)波(複雑思考に関連)の著しい低下が見られ、演奏精度を犠牲にしても素早く状況や変化に対応することを重視する脳波だったそうです。(87ページより)
料理にたとえるなら、レシピどおり忠実に再現しようとする人と、レシピを犠牲にしても、目の前の料理の味や盛りつけの状況に合わせ、その場でアレンジしようとする人の違い。
当然のことながらビジネスにおいても、このような行動原理の違いがいくつも見られるわけです。(86ページより)
以後の章では、前述した各6タイプの相手の特徴・活かし方・注意点などが具体的に解説されていきます。それは社長のみならず、さまざまな立場にあるビジネスパーソンにも役立つはず。対人関係をよりよくするために、参考にしてみてはいかがでしょうか?
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