ランスタッドジャパンのリーダー、猿谷哲さんはこれまで決してポジティブなイベントとは捉えられない留年や、新卒で入社した会社の早期離職を経験してきました。
その後転職した会社における支店長時代の挫折など、さまざまな苦難を糧にマネジメント力を磨き上げ、39歳で代表取締役社長に抜擢。
そんな猿谷さんが歩んできたキャリアは、一体どのようなものだったのでしょうか。これまでの道のりと、猿谷さんが考えるリーダーの使命について伺いました。
卒業旅行中の留年通知!人生が大きく転換していく

群馬県出身の猿谷さん。地元で就職するために群馬県内の大学に進学し、晴れて地方銀行への就職が決まっていました。ところが…。
卒業旅行中に母親から電話がかかってきて、出ると「あなた、卒業できないみたいよ」と言われました。単位はすべて取り、それなりの成績で卒業する予定だったのに、必要な単位を1つ履修していなかったんです。
履修不足により内定は白紙に。もう1年間、1単位のためだけに大学に行くことになり、5年目の大学生として2回目の就職活動がはじまります。
2回目の就職活動では、視野を広げて地方銀行以外にもチャレンジしてみました。
留年の時期に、金融について学ぶ時間が増えたことで、よりダイナミックな業務ができると感じ、証券会社への就職を決めました。
大学を卒業した猿谷さんは、東京の証券会社でファイナンシャルプランナーとして働きはじめます。
資産を運用するお客様に寄り添い、カスタマイズされたサービスで資産形成をサポートする仕事は、とてもやりがいのあるものでした。
いろいろな経営者や個人投資家とお話しするなかで、コンサルテーションの仕事はおもしろいと思うようになりました。
誰かのために貢献し、役に立てることで自分の存在価値を感じられるのはすごく大事だと思いますし、それができてはじめて対価をもらえるのがプロフェッショナルということ。そこに誇りを持てるかが、私の働く上での大きなテーマです。
貢献に対して感謝され、対等な対価を得ること。その価値観を大切にしているがゆえに、猿谷さんは社会人2年目で証券会社を辞める決断をすることになります。
当時の業務の進め方でお客様に本当に感謝されているのか、ベストな商品を提供できているのかと疑問が生じ、自分の存在価値を自分自身で感じられなくなってしまったんです。
東京から地元に戻って転職することにしました。
北関東のローカル企業に転職したはずが…

「人生の転機や失敗に直面したとき、ずっと引きずり続けるのか、気持ちを切り替えてその中での最善策を探していくのか。それがその後の人生を大きく左右する」と猿谷さんは言います。
そのときの自分は、ポジティブに新しいステップを踏み出せました。
大学で単位を落としたときも、「履修漏れがあると先に教えてくれよ」と思ったけれど、今振り返れば「教えてくれなくても良かったな」と。
あのまま卒業して銀行に勤めていたら、まったく違う人生だったでしょうね。間違いなくこの会社にはいません。
起きた出来事は変えられない。猿谷さんは、留年も社会人2年目での転職もポジティブに捉えていました。
そして「感謝が形に見える仕事をしたい」という想いから、人材会社への転職をめざすことに。自分が介在することで付加価値を生み出せる仕事がしたいと考えていたのです。
人材ビジネスは、直接的に人の人生の大きなターニングポイントに関われる仕事です。
一方でBtoBの視点では、企業の人事トップや経営者に直接お会いして、戦略・戦術や人事施策をサポートすることで経営に参画できる。
求職者と企業という2つの顧客をつなぎ、双方から感謝される機会を創出していけるところに、非常におもしろさを感じました。
もう東京に戻るつもりのなかった猿谷さんにとって、北関東を地盤にしていたローカルな人材会社であるフジスタッフグループは魅力的な会社でした。
地元の企業に入社して、まさかグローバルカンパニーになるとは思っていませんでしたが、合併後にサポートが可能な領域が飛躍的に広がりました。
グローバルの取引先が増え、当時は人材派遣のみだったビジネスラインナップも、人材紹介やエンジニア事業、アウトソーシングなど、今では多岐にわたります。
39歳で社長に就任した猿谷さんが考える「リーダーの仕事」

ポジション自体には興味がないと話す猿谷さん。しかし本人の想いをよそに、27歳で支店長に抜擢されたことを皮切りに、営業企画部長、経営企画部長とキャリアの階段を駆け上がっていくことになります。
初めて支店長を任せてもらったとき、私のマネジメントの至らなさで支店の半分の社員が辞めてしまいました。そのときの学びがすごく大きかった。
全員の希望をかなえたくてすべてのリクエストに応えようとしたら、モラルの低い組織になってしまったんです。
(人の)いいマネージャーになりたかったんですね。でも、マネージャーの仕事はそうじゃないと痛感しました。
この経験から、猿谷さんは「規律の高い、全員が同じ方向を向いている組織をつくる」ことを重視するように。
そして、合併によりランスタッドとなってからは、首都圏本部長などを経て、2015年に39歳の若さで代表取締役社長兼COOに就任します。
組織をどうつくっていくかは、上長によるものが非常に大きい。
最高の採用と最高の組織をつくることがリーダーとして社長がやるべきことで、リーダーの仕事は人の成長をサポートすること。そして、成長を自ら体現することです。
現状維持は退化だと考えている猿谷さん。メンバーの成長を支えるだけではなく、自分が成長を体感し続けることも大事にしています。
責任の領域を広げたり新しいチャレンジをしたりしていくことによって、自分の市場価値を高めていく。昨年よりも成長している自分を常に保ちたいと考えています。
社長というポジションをめざしたのではなく、社長になり「何ができるか」に興味があったと猿谷さんは話します。
責任の領域が広がることで携われる領域が広がり、それに賛同してくれる仲間の数が圧倒的に増えていく。それは猿谷さんにとって大きな魅力でした。
会社やまわりのメンバーが自然とあと押ししてくれて、その流れに乗って気がついたら今、この仕事をさせてもらっているという感覚です。
自分が会社に求められていると感じられるかどうかが大事だと思っていますが、ランスタッドでは、それをすごく感じることができます。
メンバーを信じ、チームでゴールをめざす

ポジションはあくまでもポジションであり、たまたま役割を任せてもらっているだけ。自分を偉いと思ったことはないと猿谷さんは言います。
リーダーにとって一番大事なのは権限委譲し、信じること。自分1人でできる範囲は限られているということを認めたうえでの組織づくりがものすごく重要だと思っています。やりたいことがあれば、メンバーとコミュニケーションして伝え、信じて任せること。
任せたあと、メンバーが何かハードルを感じていることがあれば、乗り越えられるようにしっかりとサポートする。それが信頼関係につながっていくと思います。
メンバーを頼ってみんなで走ったほうが早いので、チームとしてどう動けるかを常に考えています。
ランスタッドには「グレートカンバーセーション」という制度があります。
これは、日々の業務や業績から離れ、どうキャリアをつくっていくのかや、自分は何を実現していきたいのかを、メンバーが直属の上司と対話する機会を定期的に持つというもの。
>>ランスタッドのグレートカンバーセーションについて詳しくはこちら
メンバーが持つ一人ひとりのパーパスをどう実現させていくかも常に意識しています。
上長がメンバーの希望を理解することで、それをしっかりとサポートできる。
メンバーも、アウトプットすることでわかってもらえている安心感が得られるうえ、宣言することで目標になるという良い効果があります。
こういったコミュニケーションの積み重ねで信頼関係が構築され、柔軟で自由度の高い働き方や、さまざまな意見を生み出せる環境が整備されてきています。
何を成し遂げたらハッピーかという自分の価値観を大事にしてほしいんです。われわれはさまざまな働き方を生み出し、雇用を通して人の人生を豊かにすることができる。
それを通じて成長を感じられるのが私のやりがいです。
日々現場で頑張っているメンバーの皆さんにも、同じような気持ちで働ける環境をどうつくっていけるのか、パーパスをどう実現していくのかを常に意識していますし、皆さんにも考えてほしいと思っています。
Image/Source: talentbook, ランスタッド (1, 2)