飛行機による空の旅は、人間の最良の部分と最悪の部分の両方をまざまざと思い知らされる、たぐいまれな場と言えます。

飛行機を空に飛ばす方法を発見した偉大な人たちがいる一方で、飛行機での旅の最中に、人としての基本的な品位を保つ方法が見つかっていないと思えるためです。

機内でのふるまいに関しては、シートベルト着用サインのように一般化された規則に加えて、エチケットとして守るべき暗黙のルールが数多く存在します。

そして後者については、いまだに全員が納得できる状態には至っていません(フライト中にシートを倒す際のマナーも、その一例です)。しかも、こうした暗黙のルールの中には、守らないと、客室業務員に迷惑をかけてしまうものも。

私は最近、とあるRedditのスレッドで(Reddit自体はサービス改悪でもはや残念な状態ですが)、「客室業務員の勤務時間は、飛行機のドアが閉まった時点からしかカウントされない」場合がある、という話を目にしました。

つまり、乗客たちが飛行機に搭乗中の間は、報酬をまったく得られません。さらに、この間に万が一客室業務員がケガをした場合も、保険でカバーされず、労災補償も受けられないということです。

そこで私は、ジェットブルー航空(米国の格安航空会社)で働く客室乗務員のアレックス(※注:プライバシーに配慮して仮名)に、空の旅にまつわる暗黙のルールについて、本当のところを聞きました。

客室業務員が「手荷物の持ち上げ」を手伝わない理由

機内に持ち込んだスーツケースを持ち上げ、頭上の収納棚に入れるのに苦労したことはありますか? もしあるなら、客室業務員がすぐに駆け寄ってきて助けてくれないことに気付いたはずです。

それはなぜかといえば、多くの客室乗務員にとって、乗客の手伝いをすると、深刻なケガのリスクにさらされるうえに、保険による保障や報酬はまったく得られないか、得られたとしてもごく少額だからです。

飛行機のドアが開いている搭乗時の段階では、客室乗務員の勤務時間カウントはまだはじまっていません。

アレックスによると、航空会社の公式研修では客室乗務員の役割は次のように教えられているそう。

A地点からB地点まで、乗客を安全に届けるために機内にいるのです。そのため、手荷物を持ち上げるのは、そうした任務に含まれていません。

ジェットブルー航空の客室乗務員にとって、荷物格納のお手伝いは「主な任務」ではないため、乗客の手荷物を持ち上げている最中にケガをし、結果的に休職を余儀なくされたとしても、保険による保障は受けられません。

そうなれば乗務員は、補償金を得られる望みがまったくないままに、何カ月も苦しむことになる可能性があるのです。

もちろんほとんどの乗客は、客室乗務員たちに先述した事情があることなど知りません。そのため、乗務員たちは「気まずい立場」に置かれていると、アレックスは教えてくれました。

できる限り乗客をおもてなししたい気持ちはあるものの、重い荷物を持った200人の乗客の手助けをして、ケガをするリスクを負うことはできないわけです。

「目立たない」ように手伝う場合も…

アレックスは個人的に、乗客を手助けする時は目立たないように気をつけていると言います。荷物を持ち上げてもらっているのを見た乗客が、「私も」と言い出し、荷物を延々と持ち上げさせられるワナに陥るのを避けるためです。

さらにアレックスによれば、大半の客室乗務員は、「自分が荷物に触れたら、タグをつける」という姿勢でいるそうです。

乗務員がアシストした荷物は、(乗客1人では上にあげられないほど重いことを意味するので)、機内預けの手荷物扱いにする手続きをおこなうということです。

つまり乗客にとっては、最終目的地で、ベルトコンベアに乗って出てきた荷物をピックアップする手間が生じる、ということです。

私のように、機内に持ち込むスーツケースの大きさや重さが規定ギリギリという人は、この点をぜひ肝に銘じておいてください。

ほかにもある、客室乗務員が乗客に守ってほしいマナー

では、客室乗務員の仕事を少しでもラクにするために、乗客はほかにどんなことができるでしょうか? アレックスは、以下のお願いを話してくれました。

頭上の収納棚にすべての手荷物を入れない

アレックスによると、小ぶりのバッグ類は、前の座席下のスペースに置いてほしいそうです。「持ち込み手荷物3つを頭上に収納するのはおやめください」と客室乗務員が伝えると、お客様は大抵気分を悪くされるとのこと。指摘される前にあらかじめ置く場所を気を付ければ、お互い気分を害さずに済みますね。

通路をふさがない

もし通路をふさいでしまうと、自分の席に向かう乗客たちがずらりと行列をつくることになります。自分が収納棚にしまいこんだバッグから本を取り出すことのほうが、ほかの乗客が座席にたどりつくよりも大事だなんて、そんなことがあるでしょうか?

搭乗後すぐは、トイレに行くのを控える

飛行機に乗り込む前に、搭乗ゲートで5分間の時間をとってトイレに行くか、あるいは、飛行機が離陸するまで待ちましょう。さもないと、客室乗務員の作業スペースに邪魔な人が入り込むことになり、乗務員が目指す「スムーズな搭乗プロセス」の妨げになってしまいます。

客室乗務員は執事ではない

アレックスが説明してきたように、客室業務員の第一の任務は乗客の安全確保です。ファーストクラスの乗客なら丁重なおもてなしを受けられますが、それ以外の座席に座っている、私たちのような普通の乗客は違います。

担当の乗務員が安全に関する説明を行ない、乗客たちを座席に案内し、搭乗プロセスに関するさまざまな質問に答える、などの業務を終えるまで、ウェルカムドリンクなどのお願いは控えましょう。

全員が「快適に過ごす権利がある」ことを忘れない

アレックスは、すべての乗客に理解してもらいたいことが1つあると言います。それは、「この飛行機に乗っているのはあなた1人ではない」ということです。さらに、アレックスが次のような指摘も。

空港では、奇妙な現象が起きます。誰もが、自分のことしか考えない「自分勝手」モードに入ってしまうのです。

旅では、ストレスが溜まることもありますが、それでも、ある程度の周囲への配慮はあってしかるべきです。

経験則として言えるのは、特に身体に障害があるわけでもないのに、乗務員の手助けなしには持ち上げられないほど荷物が重いなどの場合は、その荷物は機内持ち込み手荷物のガイドラインに違反している可能性が高いです。

その場合、搭乗前に荷物を預けることを検討すべきでしょう。

そこまで重くはなく、ちょっとだけ誰かの手助けが必要な場合は、客室乗務員に、本来の業務以外のことを頼んで気まずい思いをさせる前に、まずは、親切な周囲の乗客に助けを求めることを考えてみてください。

Source: reddit, The Washington Post