子どものころにまず覚えておくマナーとして、「お願いします」と「ありがとう」を教えられた人も多いのではないでしょうか。
けれど、どうやら教え方が良くないようです。誰もが感謝の伝え方を間違えているようですし、その間違え方もさまざまです。
そこでこの記事では、心からの感謝を効果的に伝えるために「やってはいけない」ことを、4つの項目にまとめてみました。
1. 「ありがとう」を繰り返していない?
私は最近、夫から「仕事のメールで“ありがとう”を連発するのはやめよう」というテーマで記事を書くべきだと提案されました。
メールの冒頭で相手がメールを送ってくれたことに感謝し、次にメールの内容について感謝し、最後を「ありがとう」で締めくくる。そんな形式に縛られる必要は1つもないというのです。
「ありがとう」を連発すると、ポジティブに解釈しても誠意がない印象を残しますし、最悪の場合は不愉快なやつだと受け取られかねないからです。
職場の同僚が手伝ってくれた時など、具体的に相手に何かしてもらったのなら当然相手に感謝の気持ちを示すべきです。
けれども、感謝の言葉をコミュニケーションの定番フレーズにしてしまっては、せっかくの「ありがとう」が「またあとで」くらいの意味になってしまい、感謝の意を伝える効果が薄れてしまいます。
2. どれだけ感謝していてもやりすぎに注意
あなたの知り合いの中にも、ちょっとした頼みごとを一度引き受けただけで17回も「ありがとう」を連呼するような人がいませんか?
実は、こうした人のほうがまったく感謝の言葉がない人よりもうっとうしいものです。
いいんですよ、本当に。もう十分に感謝してもらいましたから! 真面目な話、本当にそれほどたいしたことではないんです。
もしあなたが感謝した相手からこんな風に言われることがよくあるとしたら、それは感謝の言葉が多すぎるのかもしれません。
過剰な感謝の言葉は、それを受け取る側にとっては重荷になる恐れもあります。
「この人は、ちゃんと感謝の言葉を聞き気持ちを受け取ってくれたのだろうか?」と念押しされているように感じてしまうからです。
相手からしてみたら、もう感謝の気持ちは伝わったのでこれ以上は勘弁して欲しいというのが本音でしょう。
感謝したいなら、1回だけ(心から)「ありがとう」と言うだけで十分です。
3. 「ありがとう日記」をつけるだけでは十分ではない
自分の1日を振り返り、さまざまな物事に寄せる感謝の気持ちを確かめるのはとても立派な習慣です。
今日1日を健康で過ごせたこと、天気がすばらしかったこと、会社への行き帰りの道がスムーズだったこと、あるいは夜のディナーで同席した友人のことなど、いろいろと感謝できる事柄はあるでしょう。
こうした日々の振り返りを、書き留めたり、毎日の瞑想に取り入れたりもできますし、良かったことを1日数分間だけ思い浮かべるのでもかまいません。感謝の気持ちは充実感につながりますし、誰もが人生の充実感を高めたいと願っているはずです。
けれども感謝は、そうした個人的なものにとどまりません。
社会心理学を研究するハイディ・グラント・ハルバーソン氏は、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)の記事で、人間の生活において、感謝の念が果たす最大の役割は「われわれが頼りにしている人たちとの絆を強化すること」だと述べています。
お世話になった人に感謝の気持ちを示すことで、相手はあなたと長期にわたる関係を続けようという気持ちになり、そのために労力を割いてくれるものです。
感謝されることで、時間や労力、さらには不便な思いをしたことが報われると感じるからです。
もちろん「ありがとう日記」を書くのは良いことですが、せっかくですからその気持ちを相手に伝えるべきなのでは? ということも考えてみてください。
4. 伝えるのは「自分の思い」ではない
上で挙げたHBRの記事で、グラント・ハルバーソン氏は、たとえ心から感謝している時でも伝え方が間違っているケースが多いと指摘しています。
私たちは誰もが、「あなたの良い行ないで、私たちも気分が良くなった。そして私たちの人生の質が上がった」といった話を聞きたがっていると思いがちです。感謝というのはそうした自分の気持ちを伝えることだと思っていませんか?
実はこれは間違いです。
人間というのは自己中心的な生き物です。人気ドラマ『フレンズ』で、主要人物の1人、ジョーイ・トリビアーニが「無私無欲の善行など存在しない」という主張を繰り広げたエピソードを覚えていますか?
実際、ジョーイの主張を裏付ける研究結果もあります。私たちが人に親切にするのは、何も相手のことを思っているわけではなく自己満足のためです。
確かに、あなたを助けてくれる人は、もちろんあなたに良くしてあげたいとは思っています。
ですが、人を助ける動機は多くの場合「自分は価値がある人間だと思いたい」という意識と直接つながっています。
私たちが人助けをするのは、善人になり、自分たちの目標や価値観に基づいた行動を実践するため。そして、認めざるを得ないことですが尊敬されたいからなのです。
ですから誰かに感謝する時は「相手を褒める」フレーズを用い、助けてくれた人の行動を認め、評価することに集中しましょう。
「ありがとう。これで本当に良い1日を過ごせそうです」と自分の気持ちについて語るのではなく、「わざわざ○○してくれてありがとう」と相手を褒めるのです。
あるいは、「それで私も気分が良くなりました」と言うより、「あなたは○○がとても上手なんですね」と言ってみましょう。
要するに、相手の行動で自分がどう感じたかではなく、相手の行動そのものにフォーカスし、それが相手のどんな特質を表しているのかを考えて言葉を選ぶべきということです。
自分が感じた思いを残しておきたいなら、それはあとで「ありがとう日記」に綴れば良いのです。
――2019年6月15日の記事を再編集のうえ、再掲しています。
翻訳: ガリレオ
Source: Harvard Business Review, sagepub.com