夢を「見るだけの人」と「実現する人」を分けるものとはなんでしょうか?
Amazonの創業者、ジェフ・ベゾスがCEOを退任する数カ月前にリリースされた、Amazonの株主に宛てた最後の文書に書かれたメッセージによれば、それは「独自性(オリジナリティ)」です。
「どうしても伝えずにはいられない」
自分や会社、地球上のあらゆるものを「特別」にするもの、あなたを従わせようとする世界中のあらゆる圧力やプレッシャーに対抗するもの、それが「独自性」だと、ベゾスは繰り返し主張しています。
率直に言うと、それ以上のものがあります。ベゾスは生死に関わる言葉とすら表現しています。
ベゾスの文書の最後の段落は、このような文章から始まります。「最後に、どうしても伝えずにはいられない最も大事なことがある」。
この言い回しは、次に続く言葉への情熱を伝えるという意味では、これまで見たこともないほど効果的でしょう。そして、続く言葉はベゾスが“類まれな”と評した、1986年のリチャード・ドーキンスの著書『The Blind Watchmaker』からの、215ワードの一文です。以下がその一部です。
死を辛うじて食い止めることは、懸命にやらなければなりません。放っておくと(死ぬとはそういうこと)、体は環境と平衡な状態に戻る傾向にあります。例えば、人間の体は通常、周囲の気温よりも高く、寒い気候ではその差を維持するために、一生懸命働かなければなりません。死ぬとその働きが止まり、温度差がなくなりはじめ、最後には周囲の温度と同じ体温になります。
ドーキンスはオックスフォード大学の退官教授で、先ほどの著書の次の本『The God Delusion』により、無神論者の思想家として知られています。
ドーキンスの著作について知らなくても問題ありません。ほとんどの人は、彼の著作を読んだことはないでしょう。
しかし、ベゾスが引用した短い一説に注目し、神学的な議論のようなものをはぎ取ってください。ベゾスはこれを、「Amazonに、すべての企業、すべての団体、そしてすべての人間にとっても、非常に関連のある」素晴らしいメタファーだと言っています。
「独自性」を保つためには「対価」を支払う必要がある
ベゾスのメッセージで重要な点は以下の2点です。
- 文中でベゾスが7回も使っている言葉、「独自性」を維持するために支払われるべきものは「対価」と「懸命に働くこと」です。
- 誘惑に負けて、気を抜いて、自然の摂理に屈することは、特別ではなくなること、もしくはドーキンスの言葉を借りるなら「平衡な状態に戻る」ことです。
さらにベゾスはこう続けます。
誰もが独自性(オリジナリティ)には価値があると知っています。誰もが「自分らしくあれ」と教わっています。私が本当にみなさんに求めているのは、独自性を維持するのにどれほどエネルギーがいるかということについて現実的になり、受け入れることです。世界は、あらゆる方法であなたに普通であるよう求め、引っ張ります。そうならないでください。
この時、私はディラン・トマスの詩を思い出していました。
安らかな夜を迎えてはならない。その日の終わりに老人は燃え、熱く語る。光の死に対して怒れ、怒れ。
まさに、ベゾスの情熱は、「自分らしく」いようとするだけですべての痛みはなくなるという、“おとぎばなしのような”考えは捨てて欲しいということなのです。
そうではなく、ベゾスが書いているようにまったく逆なのです。
自分らしくいることには価値があるけれど、簡単に、ただでできるとは思わないでください。絶え間なくエネルギーを注がなければなりません。
厳しい現実であり、私はベゾスにそのことについて深く考えさせられました。あなたもおそらく腑に落ちるのではないでしょうか。
しかし、それを肝に銘じ続けられる人がどれだけいるでしょうか?
──2021年5月21日の記事を再編集のうえ、再掲しています。
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