腰を据えて勉強をはじめる、あるいは、仕事のビッグプロジェクトを始動させる前に、ジムやウォーキングで一汗流そうかと考える人もいるでしょう。
こうした運動の習慣は、健康に良いという一般的なメリットだけでなく、認知機能の向上に効果があることが研究で判明しています。
期末試験が間近に迫っていたり、仕事の締め切りが控えていたりする時には、脳を活性化してくれることなら何でも大歓迎という気持ちにもなるものです。
新たな研究でわかったこと
運動が認知能力に与える影響については、査読された確実な研究結果が数多くあります。古いものでは約20年前にまでさかのぼるほどです。
運動がなぜ思考を活性化するのか、その正確な理由はまだ完全には解明されていません。
しかし、2018年に学術誌「Frontiers in Psychology」に掲載されたレビュー論文では、運動が脳の血流を促進し、一部の神経伝達物質の体内レベルが上昇し、自分をコントロールできているという確信や自己肯定感が増すのではないかとするエビデンスについて論じているのです。
また、2013年に発表された別のレビュー論文では、「活動的な傾向が強い」人は、周囲の状況に注意を払う能力が高く、情報をより速く処理できるとも指摘されています。
さらに長期的に見ると、運動をすることで、脳そのものが変わる可能性さえありそうです。前述の2018年のレビュー論文では、「習慣的な有酸素運動は、認知機能の向上に加えて、構造ならびに機能に関わる神経形成の大きな変化と関連づけられている」と述べています。
もっとも「脳に効く」運動は?
この論文では、あらゆる運動の効果を認めていますが、特に効果が高いものとして、激しい有酸素運動、つまり運動量が多く、心拍数が上昇するような運動を挙げています。
「たった1回の短いセッション」でも、激しく体を動かせば、認知機能の向上につながるというのが、「Frontiers」に掲載された論文を執筆した研究チームの主張です。
というわけで、腰を据えて勉強する、1週間の予定を立てる、あるいは上司と大事な話をするなら、その前に水泳やサイクリング、ジョギング、ランニング、エリプティカルマシンを使ったトレーニングや、近所をまわる早足でのウォーキングなどを検討してみてください。
そしてこの時、たとえ自転車通勤や、ランチタイムにジムに通うといったシンプルな運動でも、しっかりとした有酸素運動になるよう心がけましょう(一般的に、1週間にどれほどの運動が必要かについては、こちらの米Lifehackerの記事を参照してください)。
研究結果はさておき、筆者は個人的にも、勉強前の運動には効果があることを実感しています。
2023年に入って、筆者は再び学校で学びはじめたのですが、30代になった今では、19歳の時ほど、授業や勉強に集中できなくなってきたのです。そんな中でも、木曜夕方の授業では、ほかの時間よりも集中でき、内容がよく頭に入ってくることに気づきました。
実は、毎週木曜に、レクリエーションセンターでスピニング(フィットネスバイクを使った強度の高いエクササイズ)レッスンの講師をしていて、授業はそのあとに受けていたのです。
ほかの時間帯の授業では、仕事から学校に直行しているので、その前に運動をすることはありません。そして、フィットネスバイクに乗って45分間汗を流したあとで授業を受ける時と比べると、普段の授業では頭があまり冴えておらず、その差ははっきりと感じられます。
これが、ここまで紹介してきた論文で言う「エピジェネティックな(後成的、遺伝子の変化によらない)メカニズム」によるものなのか、それとも、健康を意識して音楽を背景に汗をかくことでエンドルフィンが大量に分泌されているから、という単純な話なのか、私としてはどちらでもかまいません。
確実に言えるのは、「自分には効果がある」ということ。今では、授業のない日も、家で課題に取り組む前にジムに通うことをはじめたほどです。
Source: ResearchGate, National Library of Medecine (1, 2)