電話で話しながら資料に目を通したり、テレビをつけっぱなしでスマホでTwitterを開いたり。
仕事でもプライベートでもついついマルチタスクをしてしまいがちですが、厳密にいうと、私たちは同時に2つ以上の作業を行なうことはできません。
一度に同時に複数の作業をしていると思っていても、実は脳は作業ごとにスイッチを瞬時に切り替えているのです。
そもそも、Science Dailyによれば、マルチタスクの定義付け自体も非常に曖昧とのこと。
たとえば会議中に椅子に座っている状態と言えば、1つのことを行なっているような印象を受けますが、実際には「椅子に座りながら何かノートをとっている」とも解釈できます。
マルチタスクという思い込みがもたらすプラスの効果
しかし、ミシガン大学のShalena Srna助教授は、「マルチタスクをしていると思い込む」ことには知られざる力があると話します。
Srna助教授が行なった実験で、「1つの作業をしていると思い込んで作業をしている人と比べて、自分はマルチタスクをしているという認識のもとで2つの作業を同時にしている人は、高いパフォーマンスを発揮する」という結果が確認されました。
私たちは職場でも家庭でも常にいろんなことを同時にこなしています。
しかし実はその考え自体が間違っており、人間は本当の意味ではマルチタスクすることは不可能なのです。
マルチタスクはある意味幻想とでも言えるでしょう。しかしマルチタスクに対する認識を上手く活用すると思わぬ作用がありました。
私たちの研究では、「講義を聞きながら同時にノートをとってください」と伝えた被験者グループと、「ただ講義のノートをとってください」とだけ伝えた被験者グループでは、前者のほうが良いノートをとり、講義の内容にもより集中していたという結果が出たのです。
Srna助教授と研究者チームは、ほかにも数学の問題を解いてもらったり、言葉探しのゲームのようなものを被験者に与えたりと30ほどのさまざまなタスクを通して検証を重ねました。
効果のほどはタスクによっても異なりましたが、マルチタスクをしていると思い込んでいる人たちのグループは、そうでないグループよりも約2倍ほど高い結果を出すことが多かったとのことです。
Srna助教授は、この結果に関しては「どのようなシチュエーションでも当てはまる」と話しています。
思い込みで集中力とパフォーマンスが向上
「自分が今、同時に複数のことをやっている」と認識すること、またそう信じ込むことでパフォーマンスとその作業への集中力は明らかに向上するようです。
実験中に被験者の目の動きを追い、瞳孔の様子を調べたところ、マルチタスクをしていると思い込んでいる被験者は、瞳孔の開きがもう片方の被験者と比較して大きかったとのこと。
つまり被験者はよりその作業に集中し、没頭している様子だということが判明したのです。
マルチタスク自体は、脳に大きな負担をかけることには変わりありません。また、マルチタスクといっても、タスクの認識を3つ、4つと増やしたからといって同じ効果が期待できるかどうかは定かではありません。
ただ、もし2つのことを同時にこなさなければならなくなったら、「自分は今、マルチタスクをしている」と思い込むと良いパフォーマンスが出せる、ということを覚えておくといいかもしれませんね。
また、仮に何か一つの作業でも、あえて細分化して複数の作業として捉えて作業をすることでパフォーマンスが向上するとのこと。
日ごろ忙しい毎日を送っている皆さんも、認識の違いを上手くコントロールしてその効能をフル活用してみましょう。
──2019年9月1日公開記事を再編集して再掲しています。
執筆: saori/Source: Science Daily, MICHIGAN ROSS