起業家であれ創業者であれ、投資家や社員、顧客の心をひきつけるスキルの基本といえばストーリーテリングです。
人は誰でも、頭の切れる人とパートナーになりたいと思っています。
しかしそれと同時に「ワクワクする刺激的な道のり」を一緒に体験したい、とも思っているのです。
どのようなストーリーを、どのように語るのかは、勝てるチームづくりに欠かせません。
私は、新著『The Bezos Blueprint』を執筆する際に行なった取材で、Amazonの元幹部たちから話を聞き、あることに気づきました。
それは、ジェフ・ベゾス氏が人の心をつかむのが抜群にうまいストーリーテラーであることです。
彼がこのスキルを身につけたのは、SF小説をむさぼるように読んでいた子どものころでした。そしてその後も、成長するなかで、さらに磨きをかけていきました。
Amazonの起業秘話を語るときのベゾス氏は、高度なストーリーテリングのテクニックを使います。ハリウッドの脚本家のあいだでおなじみの「ビート」というテクニックです。
ビートは、話の展開を途切れさせないようにして、オーディエンスの関心を引きつけるシーンを指します。
2時間の映画なら、大きなビートが15以上あることも珍しくありません。売り込みやプレゼンに織り込むべき、特に重要なビートは、以下の3つです。
- カタリスト
- オール・イズ・ロスト
- ファン&ゲーム
1. カタリスト
「カタリスト」(契機、触媒)は、主人公を駆り立てるきっかけとなる出来事で、ここから物語がはじまります。
有名なラブコメ映画『ノッティング・ヒルの恋人』でいえば、ヒュー・グラントが街角を曲がったときにジュリア・ロバーツとぶつかり、手に持っていたオレンジジュースを彼女のブラウスにかけてしまうシーンです。
カタリストのない映画はありません。
ベゾス氏にとってのカタリストは、ニューヨーク市のとあるヘッジファンドで働いていたときに起こりました。
そこで彼は、インターネットが年に2300%のペースで成長していることを知りました。もしもこのデータに出くわしていなかったら、モノをオンラインで売るという夢を追いかけることはなかったかもしれません。
「何が自分のアイデアのきっかけになったのか?」と、自分に問いかけてみましょう。1冊の本かもしれませんし、ある出来事かもしれません。解決すべき問題だった可能性もあります。
あなたの冒険のきっかけになったカタリストを、オーディエンスに話して聞かせましょう。
2. オール・イズ・ロスト
いい映画のなかに必ずある、私がいちばん好きなシーンの1つが「オール・イズ・ロスト」(すべてを失う)です。コツがわかれば、見つけるのはとても簡単です。
「オール・イズ・ロスト」とは、主人公はもはや目標を達成することが絶対に不可能だ、と観客に思わせる場面です。
大学でストーリーテリングを学んだジョージ・ルーカスは、『スター・ウォーズ』シリーズ第1作目の『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』で、まさにオール・イズ・ロストといえる場面を生み出しました。
それは、主人公たちがゴミ圧縮機の中に落ち、迫りくる壁に押しつぶされそうになるシーンです。この体験が彼らを変え、その決意はいっそう強まりました。
オール・イズ・ロストは、ストーリーの鍵を握っています。
神話学者ジョーゼフ・キャンベル氏は、オール・イズ・ロストは、歴史に残っている最古の物語の一部にも見られると述べています。
そして、すべてが失われて何もかもが闇に見えるときにこそ、新しい命や、必要な何かが訪れるのだと説き、それを「魂の闇夜」と呼びました。
ベゾス氏に「闇夜」が訪れたのは、ドットコムバブルが弾けて、Amazonの株価が90%下落したときです。
某有名ビジネス誌はこの株価暴落を、「Amazonドットボム(爆弾)」という見出しをつけて報じました。
それ以来ベゾス氏は、Amazonのたどってきた歴史を語るときには必ずと言っていいほど、この見出しを引き合いに出しています。
その危機をAmazonが乗り越えたという物語には、気概や決意、卓越への飽くなき挑戦が持つ不変の価値が反映されているからです。
あなたも、こんな問いを自分に投げかけてみましょう。
- 私の計画が危うく頓挫しそうになったのは、どんな壁にぶち当たったときだったか
- 私のチームは、どんなハードルを乗り越えてきただろうか。その結果、どんな価値観が形作られただろうか
- 会社を立ち上げる過程で、私はどんな問題に直面し、そこからどんな教訓を学んだか
どん底からどのように這い上がり、その経験から何を学んだのか——。それを語ることで、オーディエンスに感銘を与えることができます。
3. ファン&ゲーム
「ファン&ゲーム」は、観客の緊張をほぐすために挿入される、笑える楽しい場面のことです。
『ハリー・ポッター』の大ファンなら、すぐにピンときますよね? そう、魔法界のスポーツであるクィディッチのシーンです。登場人物たちは文字どおり、楽しくゲームに参加しています。
ベゾス氏も、Amazonの起業秘話を語るときに、「ファン&ゲーム」を所々に差しはさみます。たとえば、今ではすっかり有名になった、彼がシアトルを目指して西へ車を走らせていたときの珍道中がそうです。
ベゾス氏は道中、会社設立の書類を提出するために、弁護士に電話をかけました。そして、事前に決めていた会社名「Cadabra(カダブラ)」を電話越しに伝えたのですが、弁護士がうまく聞き取れず、「え、何? Cadaver(カダヴァー)?」と聞き返してきたのだそうです(Cadaverは「解剖用の死体」という意味の単語です)。
これはよくないと考えたベゾス氏は結局、Amazonに変更しました。
Cadabraという名前がボツになったいきさつは、Amazonのストーリーを語るうえでは不要かもしれません。けれども、優れたストーリーとは、活き活きとしていて人を楽しませるものだということを、ベゾス氏はわかっているのです。
退屈する隙をオーディエンスに与えてはいけません。ビートをうまく使って、話の展開が途切れないようにしましょう。そうすればオーディエンスは、その一言一句に釘づけになるはずです。
Source: Amazon
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