道なき道を拓き、未だ見ぬ新しい価値を世に送り出す人「起業家」。未来に向かって挑むその原動力は? 仕事における哲学は…? 時代をリードする起業家へのインタビュー『仕事論。』シリーズ。
今回お話しいただいたのは、「質感の情報化、ビジュアライゼーション、そしてアーカイブ化」を可能にした株式会社Eukarya(読み:ユーカリヤ)代表取締役CEO/地理学者の田村賢哉さんにお話を聞きました。
「質感」のあるデータベースを構築する
──まずは、ユーカリヤの事業についてお聞かせいただけますか。
簡単に言うと、「未来に必要な次世代のデータベースの研究開発をするスタートアップ」です。といっても、どういうことなのか、想像しにくいですよね。
代表的な製品に「Re:Earth(リアース)」があります。地理情報システム(Geographic Information System:GIS)で地理空間をデジタル情報化し、都市や地域レベルでの分析及び視覚化を行なうことができるデジタルツインを実現するプラットフォームです。
たとえばデジタル上の地球に、データをマッピングできる。テキスト、写真、動画、3Dモデルなどを埋め込むことができ、没入感のある体験を作成することもできます。これを私たちは「質感をデータに残す」という言い方もしています。
Re:Earthはブラウザ上で動作するウェブアプリケーションのため、環境構築が不要なのが特徴で、現在、教育や観光の分野、あるいは博物館、行政などでも活用されています。
具体的に言うと、起業のきっかけにも関連しているのですが、2017年にプロジェクトに参加した「ヒロシマ・アーカイブ」というものがあります。
こちらは東京大学大学院渡邉英徳研究室のプロジェクトですが、原爆の被爆者の記憶をいかに後世に継承していけるのか、ということに取り組んだものです。
情報の内容は被爆者の方へのインタビューなどですが、それが広島市の地図上の、被爆した場所に顔写真のアイコンでマッピングされます。
これまで、インタビュー記事などは上から下に読むものがほとんどでした。下のほうにある人の話は読まれないこともあります。しかし、体験に上下はありません。どの方の証言も、優先順位なく読まれるべきだと思うのです。
ではメディアとして、それをどのように表現するか? そこで地図にマッピングすることによって、被爆者の方がいつどこで被災したか、そのときの気持ちなどの“質感”も記録できるのでは?と考えたのです。

──情報をビジュアライズするのに地図は相性が良かったということですね。
はい、その通りです。情報の8割には位置情報がついていると言われます。
情報を記録・活用していくにあたり「過去の出来事も未来の予測も、地球上で起きている出来事である」という感覚が必要だと思います。
そして、情報のビジュアライズはできたとしても「そのデータ構造はどうあるべきか?」それを考えはじめたことが、今の会社の原型となったのです。