敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。
今回お話を伺ったのは、未来を実装する越境クリエイター集団、Konelの代表出村光世さんです。
出村 光世
アクセンチュアにてビジネスコンサルティングに従事しながら、2011年にKonelを創業。同年、東急エージェンシーでのパラレルワークを始め、2017年まで広告プロデューサーとして活動。2017年よりKonelの経営を本格化させ、現在では日本橋、金沢、下北沢、ベトナムを拠点とし、30職種を超えるクリエイターとデザイン・研究開発・アートを越境させるプロジェクトを推進。2020年、新規事業のための知財データベース「知財図鑑」を創業。50人を超える知財ハンターと共にテクノロジーと未来の洞察を続け、オープンイノベーションを促進させるためのメソッド「DUAL-CAST」を発表。代表的なプロジェクトに、「脳波買取センター BWTC」「ミカン下北」「#しかたなくない」「ゆらぎかべ-TOU」など。
SNS: Twiitter
約1000名から1秒10円で脳波を買い取り絵画に変換して販売する「脳波買取センターBWTC」、部屋の機嫌で育つ観情植物「Log Flower」。
テクノロジーとクリエイティブにビジネスを掛け合わせ、新しい仕掛けを世の中に解き放すKonelの出村さん。プロジェクトデザイナーとしてさまざまなクリエイターを巻き込む方法や、仕事哲学などの仕事術を伺いました。
出村光世さんの一問一答
氏名:出村光世
職業:経営者
居住地:神奈川県逗子市
現在のコンピュータ:MacBookPro
現在のモバイル:iPhone 14
現在のノートとペン:息子がくれた手作りのアイデアノート(ペンはこだわりなし)
仕事スタイルを一言でいうと:複数のプロジェクトを並列させて、エッセンスを混ぜ合わせる。
仕事の領域をはみ出すことを良しとする

――現在のお仕事内容を教えてください。
今、Konelと知財図鑑の2社を経営していますが、自分の得意分野のお話をさせてもらうと、ひとつはプロジェクトデザイナーという肩書きを持っています。
近年オープンイノベーションと言われている中で、言語の違う方々、複数の会社の方々が集まって、プロジェクトをすることが増えています。全員が同じ方向を向けるようにまとめてプロジェクトを推進するのが、一番得意にしているところです。
もう一つが知財ハンター。知財ハンターは世界を進化させるようなテクノロジーを、収集したり体験したりこんな未来に使えるんじゃないかと妄想したり、実際にそれを使って新しい体験作りを提案したりしています。
ビジネス、クリエイティブ、テクノロジー、この3つの橋渡しをしながら、プロジェクトを作っていくのが得意ですね。
――バックグラウンドとしては、プログラマーやエンジニアですか?
コンサルティングですね、アクセンチュアでビジネスコンサルティングをやっていたときに、大規模で左脳的なプロジェクトがたくさんありました。
そのときにちょっと反動もありまして、クリエイティブカンパニーを作りたいと。エンジニアとクリエイティブディレクターにそれぞれ声をかけて、3人で創業したのがKonelのはじまりです。
――越境型クリエイター集団という肩書き、これはどういう意味ですか?
今、Konelには25名のメンバーがいます。
クリエイティブの会社は、得意領域に特化することで、利益を上げやすい体質を作ると思うんですけど、うちは人の数より肩書きの数が多いのが特徴です。1人2〜3個の肩書きを掛け持ちするような、職種をまたぐような越境文化があります。
たとえば、エンジニアが企画を考えることもあれば、デザイナーがコードを書くこともある。領域をはみ出すことをよしとしています。
あと国籍もさまざまな人が混ざっていますし、フルタイムのメンバー以外にも兼業していてプロジェクトベースで関わっている人たちがいるので、そういう意味でも、越境が起こりやすい会社かなと思っています。
巻き込み力を高めるコツ
――クリエイターやおもしろい人たちを巻き込んでいく、「巻き込み力」はどう高めればいいですか?
まさにプロジェクトデザイナーという仕事は、一番巻き込んだり、やる気になってもらって、質の良いアウトプットを出したりするのが妙かなと思っていますね。『妄想と具現』という本にそこがまとまっています。
「この指止まれ」の「この指」が魅力的であることが大事で、北極星のような明確な座標があるとみんな迷わないですよね。
まず僕らの場合、企画書も大事ですが、絵で見せたり、リアルに展開されたときに、あたかも実際の広告のコピーのように書いてしまったり。こんなのがあったらいいよねっていうのを、先取りしてビジュアライズしてしまう。それが、「俺も一緒にやりたい」みたいな巻き込みの渦の中心になるかなと感じています。
妄想を可視化したり、プロトタイプによって疑似体験を作っていくことで、仲間が増えていくと思っています。
――何かはじめたいとき、企画書を作りがちです。
企画書も必要ですが、目に見える状態にすると、まず自分自身にマジックがかかると思うんですよね。あとは、相手からしてみても「こいつ、ここまで本気で考えているんだ」と伝わりやすい。
企画書は皆さん書くんですよ。必要だけど予定調和を脱しない。自分にも相手にもマジックをかけていくという意味では、妄想の可視化はすごく重要かなと思っています。
イシューとテクノロジーの両輪でアイデアを生み出す
――妄想が出てくる前の状態、アイデアの源泉は?
イシューとテクノロジーがキーワードです。
社会課題や世界が向き合うべき問題がイシューであり、それらの問題に対する解決策としてのテクノロジー。この両面でインプットすることが大事。
テクノロジーに関して言うと、現在約50人の知財ハンターが在籍しています。
DiscordやSlackのチャンネルを通じて、知財ハンターがハントした情報に触れられる。特に気になる情報は、研究施設を訪問して自分たちで体験をして、咀嚼を繰り返しています。

イシューに関しても専門家の話を聞くのはおもしろくて、研究をしている人は何かの問題に向き合っていることがすごく多いんですよ。
たとえば、最近では、宇宙で地球と同じぐらいの重力を発生させることを目指している鹿島建設の研究員にお会いしました。テラフォーミングしたときに重要になってくるのって、第2世代だと言われているんです。
地球で生まれた人が移住するのではなく、宇宙で生まれた人が今後出てくるわけですよ。
そのときに、妊娠中の細胞分裂に影響を与えるのが重力だと言われていて、重力が少ないと、元気な子どもが生まれない可能性があるんですよね。
「だから私は遠心力で重力を発生させる装置を作っています」と言われると、技術に興味を持って行ったのに、「宇宙第2世代の健康」というイシューにもたどり着くわけですよね。
このように、イシューとテクノロジーの両軸で物事を捉え、発想していくことが重要だと思います。

終わりのある体験の価値を見直す
――仕事をする上で、欠かせないアプリは?
仕事をする上で欠かせないアプリはPeakzoneです。
手前味噌になってしまいますが、GG(仮)さんと一緒に考えた企画です。Slackと連携して「/peak」のコマンドを打ち込むと、アイコンの横にピークゾーンマークが表示されます。そうすると、「私、今集中しています」という表現ができます。

リモートワークが定着してからチャットコミュニケーションによって、いつでも話しかけていい状態になっていませんか?
昔のようにオフィスにいれば、「切羽詰まって資料作っているな」とか「話しかけられたくなさそうにヘッドホンしているな」とか、わかりましたよね。
それがないときに、自分が今ピークに入っていることを緩やかに表現するために作りました。現在の状態表示をしておくことで、知的生産性を大きく発揮するピークタイムを大切にでき、いいコミュニケーションが生まれるかなと思っています。
誰でも使える無料Slack機能として開放しているので、ぜひチェックしてみてください。
――お気に入りツール(またはアプリ)を3つ教えて。
DiscordとTwitterと料理本です。
――使い方を教えてください。
Discordはコミュニケーションツールなので日頃から使って情報収集をしています。知財ハンター協会というコミュニティを運営していますが、そこにはいろんなバックグラウンドの参加者がいて、お題を投稿すると勝手にディスカッションがはじまります。
Twitterでは、ランダムにフォローしている人の日常に触れることを意識的に行なっています。知り合いや興味のある人物ではなく、たとえば5人の子どもを持つ人や地方の高校生、または自分とは全く繋がりのない人たちをフォローしています。オープンなフォローの仕組みを利用して、多様な人々の日常に触れることができます。
このアナログの料理本は、限られた情報源を使用することで、終わりのある体験を求めています。TikTokを24時間見続けても全コンテンツ見たことにはならない。終わりある体験が不足しているなと思っていて。クックパッドに載っているおいしいレシピを死ぬまでに全部作れませんよね。
アナログの料理本は、ある料理家さんの、胸の中に飛び込んで憑依して作る。限定された情報の中で、何か物を作ることは、最近では珍しい体験だと思うんですよね。
いい企画書とプレゼンに必要な考え方

――仕事の中で編み出したライフハックは?
企画と気分は、とても深くリンクしている。だからこそ、複数のプロジェクトを並走させて、いまの気分に合うプロジェクトを企画するようにしています。
たとえば、お腹空いているから、食関係の企画今やろうとか、空いているスロットに今の自分のポジティブな気持ちに合いやすいテーマを当てながら、スケジュールを組んだりしていますね。
ファッションに関する企画書を書く前日の夜には、「プラダを着た悪魔」を見てテンション上げて、そのモードになることがすごく大事。結局、映画を観ている間にいろいろ思いついて、企画書を書きはじめるんですけど(笑)。テーマに近いことに触れていくのはいいと思います。
――これまでもらったアドバイスで印象的なものは?
「プレゼンは予定不調和に設計すべし」です。
これはある大切な先輩にもらった言葉です。当時、大きなコンペのプレゼンを任されて、僕が担当することになったんですけど。当時の僕はコンサル時代の名残もあって、無駄なく最短距離で正確に伝えることが、得意だったんですね。
それをリハーサルで、「めちゃくちゃつまらない」「正論だが眠い。正しいことを無駄なく伝えられてもワクワクしない」とグサリと指導されました。プレゼンテーションって演劇みたいなものだと。
たとえば、「ウサギとカメがレースしました、どっちが勝ったでしょうか?」と聞かれた場合、結果はうさぎだったとしても、「実は亀が勝ちそうになったけど、ギリギリのところでうさぎが勝ちました」と伝えると、受け取り方が違いますよね。
結論よりプロセスを楽しんでもらえたほうが信頼関係を早く築けたり、印象に残ったりできるという意味で、予定不調和な要素を取り入れることが重要だと教えてもらいました。以来、劇場型のプレゼンテーションを心がけるようになりました。
とにかく人の脳は常に情報で疲れ切っているので、肩の力を抜いてNetflixのコンテンツでもみてるかのような感覚でプレゼンを聞いてもらう様にしています。
徹夜をして作った企画書は信用できない
――自分の仕事哲学について一言
「どれだけ忙しくても、ご飯をぬかない」
クリエイターは集中力が強い生き物なので、朝から何も食べてない人もいます。個人の自由かもしれませんが、僕自身は食べます。どんなに忙しくても食べるようにしていて、脳みそに栄養をおくらず企画するのはクライアントに対しても、企画そのものに対しても不義理だなと思っていて。
たとえるなら、徹夜しているシェフが作ったソース、信用置けないじゃないですか。だって、舌がおかしくなっている可能性ありますよね。
でも、三徹した人のプレゼンを聞くのは同じぐらいリスキーです。だから、寝たほうがいいし、飯を食べたほうがいい。これは企画という行為におけるマナーだと思っています。
――最後に、『妄想と具現』の紹介をお願いします。

この書籍は、自前主義から脱却し、オープンイノベーションを通じて未来的なビジネスをダイナミックに形作るための方法論をまとめたものです。
私たちは、コラボレーションやオープンイノベーションを意識しているため、自社ができないことに対して不安を抱く必要はなく、仲間を集めて達成することができると考えています。それが、自前主義からの脱却という言葉に込めた思いです。
そこで、未来的なビジネスを描くために必要な、妄想の膨らませ方やそれをシャープに絞り込む方法論などを紹介しています。また、妄想の例も多数掲載しており、難しい話にとらわれずにパラパラとめくっても楽しめる内容となっています。ぜひお手に取ってみてください。