2月上旬に渋谷ストリームホールで開催された、一般社団法人Metaverse Japan主催の大規模カンファレンス「Japan Empowerment Summit 2023」。

メタバース×地方創生」をメインテーマに、テクノロジーや教育、医療など各界の有識者や、メタバース活用に取り組む省庁や自治体、企業の担当者などが登壇し、計29のセッションが開催されました。

地方創生においても重要な要素のひとつとなる「教育」に関する話題では、今注目されているChatGPTなどのジェネレーティブAI(生成系AI)とメタバースとの関係についても重要なトピックとなりました。

AIとメタバースで、教育が変わる

「教育」をテーマにしたセッション「メタバースでテクノロジー教育をアップデートせよ」には、東京大学教授の松尾豊さん、H2L CEO・琉球大学工学部教授の玉城絵美さん、クラスター株式会社 代表取締役CEOの加藤直人さんが登壇。

Photo:Metaverse Japan
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AI研究の第一人者で、東大が「すべての人々が最新の情報や工学の実践的スキルを獲得して夢を実現できる社会の実現」を目指して設置した「メタバース工学部」でも社会人の学び直しの講座を担当する松尾さんは、ChatGPTなどのジェネレーティブAIが教育にもたらす可能性についてこう話しました。

AIを使うことで、わからない部分をふまえて説明したり、わかっている部分まで戻って教えたりといった、より生徒に合わせた教え方が可能になるはずです。そこにメタバースを組み合わされば、すごく面白いことになると思います。

東京大学教授の松尾豊さん
東京大学教授の松尾豊さん
Photo:Metaverse Japan

ただし、AIが普及してインプットが効率化できるようになっても、「倫理観などは人が教える必要がある」と松尾さんはいいます。

玉城さんは、ジェスチャーや重さといった身体感覚によって能動的で臨場感のある体験共有を可能にする「固有感覚」の研究を行なう立場から、倫理観の学習について次のように指摘しました。

倫理観は、物事をどう考えるか、体験したものをどう能力として身につけていくかというところで構築されていきますが、それには環境や人とのインタラクション(相互作用)性が重要になります。

AIがよりインタラクションを行なえるようになり、メタバース上で生徒や学生と倫理観まで話し合えるくらいの状態に進化すれば、人間もAIも成長できるよい循環が生まれると思います。

H2L CEO・琉球大学工学部教授の玉城絵美さん
H2L CEO・琉球大学工学部教授の玉城絵美さん
Photo:Metaverse Japan

バーチャルプラットフォーム「cluster」の開発・運営を手がけ、教育の大規模施設とコラボレーションした取り組みなども行なう加藤さんは、「AIとメタバース、教育で一番期待しているのはクリエイティビティが変わっていくこと」だと話しました。

まだそこまで精度は高くないものの、3DモデルもAIで生成できるようになってきました。今後、よりクオリティの高いものを作れるようになれば、「こんな世界があったらいいのに」「こんな体験ができたらいいのに」という空間を、コラボレーションしながら作っていけるようになると期待しています。

クラスター株式会社 代表取締役CEOの加藤直人さん
クラスター株式会社 代表取締役CEOの加藤直人さん
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セッションでの話題は、AIが教育に関わるようになった場合の教育機関のあり方にも広がりました。松尾さんは「褒め方」、玉城さんは「クリエイティビティ」をそれぞれキーワードに挙げます。

成績のいい子どもの場合、褒められたことがうれしくて勉強を頑張り、さらに成績が上がるという好循環が起きていると感じます。よいタイミングで適度に褒めることが、潜在的な能力を引き出すためにとても重要ではないかと思っています。(松尾さん)


文章や画像、3DモデルなどのジェネレーティブAIが進化することで、ユーザーは自分がほしいものを自分で作れるようになり、「ユーザー自身が提供者」という状態になります。

それは教育も同じで、教育を受ける側が「どんな先生に教わりたいか」「どんなふうに教わりたいか」を自分でクリエイトしていくようになるかもしれません。(玉城さん)

アメリカではすでに「ChatGPTを使った授業」を取り入れている

また、イベントの最初に行われた「メタバースが拓く新しい日本のあり方」でも、ChatGPTが使われる時代の教育のあり方が話題に挙がりました。

Photo:Metaverse Japan
Photo:Metaverse Japan

慶応義塾大学医学部教授の宮田裕章さんは、今起きている変化と日本の教育の問題について、次のように指摘します。

ChatGPTの登場によって、自分だけで言葉を編む力ではなく、コンピューターを操って文章を作る能力が求められるようになりました。弁護士も同じで、六法全書を記憶している人が弁護士というわけではないと思います。

そういった変化が起きているにもかかわらず、教育の場では相変わらず、自分の頭で考えて与えられた正解を導く力を問う入試を行なっています。

慶応義塾大学医学部教授の宮田裕章さん
慶応義塾大学医学部教授の宮田裕章さん
Photo:Metaverse Japan

デジタルガレージ 取締役 共同創業者 チーフアーキテクトの伊藤穣一さんも、日本の教育が変化する必要性を強調します。

日本の教育は何十年も変わらないままの状態を維持してしまいました。ChatGPTの普及で、いかに今までのやり方がよくなかったのか、身に染みてわかるようになってくると思います。

アメリカでは、すでにChatGPTを授業に取り入れている教師もいます。「AIを使うな」ではなく、AIを使ったうえで何ができるかを教える方向にすでにシフトしつつあるのです。これからさらに教育改革が進むことを期待しています。

デジタルガレージ 取締役 共同創業者 チーフアーキテクトの伊藤穣一さん
デジタルガレージ 取締役 共同創業者 チーフアーキテクトの伊藤穣一さん
Photo:Metaverse Japan

大人の学びにも共通する変化

セッションの話題は子どもや学生の教育に関することが中心でしたが、これらの変化はビジネスパーソンが学んでいく場合にも共通するものといえそうです。

今後は、何を学ぶか、どうやって学ぶかを考えるときに、ジェネレーティブAIをうまく使うことや、学びの場の選択肢としてのメタバースの存在を意識する必要があるのかもしれません。

イベントではこのほかに、スポーツや観光、医療、SDGsをテーマにしたセッションや、メタバースやWeb3を活用した地方創生にチャレンジする自治体の取り組みや、中央省庁によるメタバースやデジタルツインの活用の取り組みについて紹介するセッションなども行なわれ、新たな可能性を探る1日となりました。

Source: Metaverse Japan