最近、筆者は「クーリエ・ジャポン」の購読を始めました。

きっかけは、これまでの読書を通じて、多くの著名人が、「クーリエ・ジャポン」や新潮社の「フォーサイト」「WIRED」などの媒体を購読していることを知ったからです。

ニュースサイトやSNSから「ファストニュース」が溢れ出るなか、なぜ今スローで長文のニュースを読むことにしたのか。読み続けた結果、得られた気づきについてまとめてみます。

スロージャーナリズムとは?

毎年公表される「国境なき記者団」による「世界報道の自由度ランキング」において、2022年の日本は残念ながら180カ国中71位でした。確かに、日本には煽るような見出しや偏った目線のニュースが少なくありません。

また、若い世代を中心に、SNSをニュースサイトの代わりに使っているユーザーも少なくないそうです。

そのような「ファストニュース」の対極にあるのが「スロージャーナリズム」です。「IDEAS FOR GOOD」はスロージャーナリズムを以下のように定義しています。

スロージャーナリズムは、情報が社会にとって価値のあるものかどうかを吟味し、時間をかけてニュースを掘り下げ、報道するスタイルのジャーナリズムのこと。

「とにかく早い」「センセーショナルな情報を流す」近年のマスメディアの報道スタイルに対し、時間をかけてでも「正確」で「読者(視聴者)に本当に求められている情報を流す」ことが特徴的だ。スローニュースとも呼ばれている。

IDEAS FOR GOOD より

元マイクロソフト日本法人代表取締役で『39歳からのシン教養』(PHP研究所)の著者・成毛眞さんは、スロージャーナリズムについて以下のように言及しています。

「フォーサイト」「クーリエ・ジャポン」ともに、有料で記事を配信している。

本来、貴重な情報には高額の原稿料が支払われるべきだから、広告収入頼みのサイトで実現するのは不可能に近い。

新潮社も講談社もそれがわかっていて、会員制の有料サイトとして、お金を出してでもハイクオリティの記事を読みたい人向けに配信している。ボクシングのビッグマッチでも、有料のライブビューイング(当初、クローズド・サーキットと呼ばれていた)を行うことがあるが、考え方としてはそれと似ている。

はっきり言ってしまえば、「日本の0.1%ぐらいが読んでくれればよくて、99.9%は読まなくていい」というぐらいのスタンス。こういう会員制メディアは、”マス”メディアでない分、信頼が置ける。信頼できない情報を流すようになれば、簡単に淘汰されてしまうから、媒体も必死になって情報をチェックするし、それこそいい書き手を揃えようとする。だから、信用できるのだ。

『39歳からのシン教養』89、90ページより

ニュースサイトやSNSから、無料で情報を得られることが当たり前になると、有料サイトへのアクセスに対してハードルを高く感じてしまう人は多いのではないでしょうか。

しかし、そもそもインターネットが発達していなかった時代は、書籍を購入し、新聞の購読料やNHKの受信料を払って情報を得ていました。

なぜ普段閲覧しているニュースサイトやSNSが無料で使えるのかを考えてみるだけでも、1つの気づきが得られるかもしれません。

スロージャーナリズムを読み続けてわかったこと

クーリエ・ジャポンは海外の有力メディアと提携し、厳選した記事を日本語に翻訳して掲載しているので、どの記事も読み応えがあります

また、海外メディアが書いた日本に関する記事も多くあるので、世界の様子だけでなく、海外から日本がどのように捉えられているのかを知ることができます。

そして、広告表示が少ないのも魅力。ニュースサイトの記事を読んでいて、広告に気を取られてしまった経験がある人も多いのではないでしょうか。クーリエ・ジャポンでも、無料版であれば広告は出てきますが、画面に占める割合が少なく、かつサイトの雰囲気を崩さない広告に限定されているので、集中して記事を読むことができます。

それらのメリットがある一方で、昨今のファストニュースからの情報に慣れていると、スロージャーナリズムの記事は読みにくさを感じるかもしれません。

1つの記事につき、5分ほど読む時間がかかります。専門的な言葉も多く、日本語訳で読めるとはいえ、原文が外国語の記事も多いため、「読む力」が求められます

時間をかけることでニュースに新たな価値が生まれる

つくり手も読み手も負荷がかかるところが、情報収集で差がつくポイントだと思います。

なぜなら、1つの事実がその後、私たちにどのような影響を与えるのか、時間をかけて検証しなければ分からないことも多いからです。そうなると、必然的に情報量は増えますよね。

たとえば、2023年1月に、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン元首相が辞任を表明したニュースは、BBCでは以下のように報道されていました。

ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相(42)は19日、2月7日までに辞任すると表明した。国を率いるために必要な「余力が底をついた」としている。

BBC NEWS JAPANより

もちろん、この文章のあとには、アーダーン元首相の経歴や実績、辞任を決断した経緯などが説明されています。何となく「ああそうだったなぁ」と思い出す人も多いかもしれません。

その約2カ月後である2023年3月20日の「クーリエ・ジャポン」では、アーダーン首相の辞任について、より深く考察された「ファイナンシャル・タイムズ(英国)」の記事が掲載されていました。

すべてを手に入れたから「勝ち組」という発想はもう古い!女性は仕事も家庭も「すべてを手に入れる」ことが成功なのか?

クーリエ・ジャポンより

1月時点では、「世界的に注目を浴びた女性首相の辞任」という事実が伝えられましたが、2カ月の時間を経て、アーダーン首相辞任の背景にあった今までの女性のキャリアの在り方や、男女関係なく「成功」の定義を再考することを促す、より深みのある記事が生み出されているのです。

このように、1日5分でも超一流の書き手が書いた良質な記事を読むことで、より深くて確かな情報を得ることができます。長い目で見ると、コスト・タイムともにパフォーマンスの高さを享受できるのではないでしょうか。

目まぐるしく状況が変化する現代ほど、正確で良質な情報が求められる時代はありません。

情報をすぐに集められるスマートフォンやパソコンが身近だからこそ、スロージャーナリズムを活用してみることで、一歩踏み込んだ情報収集ができることは間違いないでしょう。

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Source: IDEAS FOR GOOD, Amazon, BBC NEWS JAPAN, クーリエ・ジャポン