SNSやネットニュースでは、ChatGPTに代表されるAIの活用法や課題が話題になっています。

「自分も早くキャッチアップしなければ」「仕事がなくなるのではないか」と不安を覚えた人も多いのではないでしょうか。

そんな時だからこそ、コンピューターの歴史について学んでみましょう。

雑誌『Spectator VOL.48』 を読めば、コンピューターがどのような背景から誕生し、開発者たちがどこに向かおうとしていたのかがわかります。

多くの人が日常的にスマホやパソコンを使い、AIの進歩が騒がれる現代を、新たな視点で見つめ直すことができるかもしれません。

近代コンピューターの成り立ちはヒッピーの存在なしに語れない

『Spectator VOL.48』では、「パソコンとヒッピー」という特集のもと、パソコンやスマホが世に出てくることになった時代背景や歴史が描かれています。マンガのようなレイアウトで、多くのイラストを交えながら構成されているのが特徴。

まず、コンピューターの歴史は「ヒッピー」と『ホール・アース・カタログ』、「ハッカー」の存在なくして語ることはできません。

いまでは忘れ去られているが、パソコンは中央権力の象徴ととらえられていた大型コンピュータに対抗する「個人の開放ツール」として、ヒッピーにより考案されたものだった。

ヴェトナム戦争のさなかに「人間とは何か」を根源から考え直そうとした米国の若者たちにとって 、LSDもコンピュータも、ともに個人の内面を探るための道具として、等しい価値観でとらえられたのである。(現在シリコンバレーで活躍する著名人OBたちは、60年代70年代の反体制派知識人が少なくない)(『Spactator VOL.48』20ページより)

ヒッピーとは、1960年代にアメリカを中心に生まれた反体制的な若者文化で、社会変革や平和を求める思想を持ち、ロック音楽、サイケデリックカルチャー、ヒッピー風ファッションなどを特徴とします。自然に対する愛や平和主義に基づき、物質主義を否定し、コミューンと呼ばれる共同体をつくり生活していました。

そのヒッピーたちのバイブルともいうべき本が『ホール・アース・カタログ』。

第1章【コンピュータとヒッピーを結びつけた『ホール・アース・カタログ』】では、当時28歳で元生物学者のスチュワート・ブランドが、彼らの自給自足の生活に思いを馳せ、ヒッピーたちが生きていくために必要なさまざまな知識や実用的な道具を紹介したことが書かれています。

Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズが、2012年にスタンフォード大学の講演で言及したように、シリコンバレーの巨大企業のCEOたちは若いころに、この『ホール・アース・カタログ』から多大な影響を受けたと言われています。

現代のグーグルやアマゾンのような巨大プレイヤーがおこなうことを『ホール・アース』は書籍で先行していた。

ブランドが撒いた種を育てたのがジョブズだった。

このカタログを通じて「ハイテク技術とカウンター・カルチャーの結合」というコンセプトに目ざめたと、自ら主張することになる。(同 28ページより)

そして、「ハッカー」。第9章【アルテアの衝撃。ミニ・コンがビートルズを唄った日】では、1975年3月、スタンフォード大学の一画に創設されたホームブリュー・コンピュータ・クラブの様子が書かれています。

リー・フェルゼンスタインが座長をつとめたこのクラブは、ビールやワインを自家醸造するように、自作のコンピュータに関する様々な技術の情報が交換される場で、多くのハッカーたちによって構成されていました。

ハッカーは、つまりコンピュータそのものに魅力を感じ、ハードやソフトをつくることに熱中していた少数の人々。

彼らにとって、そのごほうびは、みんなで分かち合う(=シェアする)ものだった。

それは、幼稚ではあるが、理想主義的な、ヒッピー/アナーキズムの社会だった。(同 132ページより)

この時代における「ハッカー」とは、現代におけるサイバースペースを攻撃するような人々のことではなかったのです。

ハッカーは、みんなのために何かをつくり、それをみんなで味わうのが好きだ。

みんなのために自分の能力を無償で提供できる人は、他人との関係を愛せる人だ。

そこにはヒッピーと同じ愛情が感じられる。(同 140ページより)

このクラブには、スティーブ・ジョブズとウォズニアックが参加しており、後にマイクロソフトを設立するビル・ゲイツとポールアレンがBASICを披露するなど、多くのコンピュータ・メーカーの創設者が交流していました。

1984年にマッキントッシュが発売。その成功をみてビル・ゲイツもWindowsを開発することになります。

一方で、ホームブリューは徐々にビジネス偏重の方向に向かい、1986年12月に正式解散されます。

その後、我々のコンピューターに関わる世界がどうなっていったかはご存知の通り。

パソコンは「POWER TO THE PEOPLE(人民に力を)」を標榜するヒッピーが生み出した。

しかし、それにもかかわらず考案者の手を離れ、国家や大企業によって全体管理に利用されるツールとなってしまった。(同 21ページより)

先端技術と向き合うヒントは「アーミッシュの生活」にある

最後に、『Spectator』の編集部は、第12章【われわれはスローなギークになれるか?(編集部による考察)】において、アメリカのアーミッシュの暮らしから、コンピューターとの付き合い方を提案しています。

アーミッシュは、17世紀の終わりにスイスで誕生しましたが、迫害を受けて18世紀に信教の自由を謳うアメリカに移住してきました。彼らは現在も、モダンな社会からの隔離を求め、自給自足の生活を送っています。

また、教会での儀式、家族やコミュニティといった共同体での生活を重視。そのため、新しいテクノロジーを受け入れることには、かなり慎重な姿勢を示します。

ちなみに、共同体の中に公衆電話が設置されていたり、図書館にインターネットが使える環境があるものの、携帯電話の使用に関しては議論中とのこと。

新しい技術を取り入れるには、まず一部の人間が使いこなし、その結果を司祭に報告することになっています。司祭はそのテクノロジーが共同体に与える利益と不利益を天秤にかけながら判断するのです。

特筆すべきは、司祭によって一度使用を許可された技術でも、社会に悪影響を及ぼすことがわかれば、使用を禁止できる「Uターンする勇気」を彼らが持っていることです。

注意深く観察し、時に引き返すこと──これは、われわれが最低限に実行可能で、見習えるべき点ではないだろうか?

(中略)

われわれは過剰にむかう暴走列車のような社会に住んでいる。

しだいに社会が暴走しはじめていることに危惧をおぼえながら、「とりあえずいいや」と、そのまま必死に火だるまの列車にしがみついている。

科学へ邁進することは社会全体を危うくするということを、アーミッシュから学んでみてはどうか。(同 160ページより)

話題だからと先端技術に焦って飛びついたり、そのニュースに一喜一憂するのではなく、時にはアーミッシュが新しい技術を取り入れる様子を頭に描きながら、AIとも付き合っていくと良いのではないでしょうか。

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Source: Spectator VOL.48, Spectator