ライフハッカー・ジャパンとBOOK LAB TOKYOがコラボ開催するトークイベント「BOOK LAB TALK」。第26回目のゲストは、『異能の掛け算 新規事業のサイエンス』の著者・井上一鷹さんです。

集中力を可視化するメガネ型ウェアラブルデバイス「JINS MEME(ジンズミーム)」、深い集中を促す会員制ソロワーキングスペース「Think Lab(シンクラボ)」などの新規事業を手がけ、集中力に関する本を2冊上梓している井上さん。

しかし、ご自身いわく「集中のプロというのは裏の顔」。本業は、新規事業の開発が何よりも楽しいと話すほどの「新規事業家」であり、現在はビジネス・テック・クリエイティブの三位一体で事業開発・プロダクト開発の支援や、海外IT人材の教育から採用支援を行なうデジタル・クリエイティブスタジオ、株式会社Sun Asterisk(サンアスタリスク)に参画しています。

その意味で、新刊はまさに井上さんの本領発揮の一冊。新規事業だけでなく、不確実性が高まる時代のビジネスに不可欠な「異能との働き方」を紐解いてくれました。

新規事業を成功に導くサイエンス「異能の掛け算」とは

井上さんは、新卒で戦略コンサルティングファームに入社して以来、約16年の社会人生活のほぼすべての時間を「新規事業開発」に投じてきました。

これまで注目を浴びてきたトピック「集中」はテーマの1つであり、実は一生をかけてやりたいことは別にある、と話します。

「何がしたいかというと、日本の中で新規事業をどう増やすか。事業開発はサイエンスしにくいというか、イーロン・マスクのような天才でないとできないイメージがある。

どうしたら上手くいくかを研究すれば、再現性を持たせられると考えたのです(井上さん、以下同)」

主体者として2つの事業に携わり、「2回目では明らかに『ここが危ない』という“鼻のきき方”が違った」という井上さん。

何をやると上手くいき、何を考え落とすと失敗するのか──。その解こそが「異能の掛け算」なのです。

「異能の掛け算とは、平たく言うと“自分と違う脳の人とどうやってお互いの強みを活かし合うか”。

新たな価値創造のためには、「個人の集中×チームビルド」という相反する2つの要素が必要です」

新しい価値を自分で起案して、それを誰かが手にとってくれた瞬間ほど、人生で達成感を感じることはない。少しでもきっかけをつくれば、みんな新規事業の面白さに気づいてくれるはず──。

「日本発の新規事業で、世界をにぎやかすかつての時代を再燃したい」思いが、執筆のモチベーションになったと語ります。

1人の天才よりチームが大事。異能を活かす「BTC」

新規事業の成功談は、とかく「自分だからできた」という精神論になりがち。しかし、新たな価値は、1人の天才ではなくチームで創る時代だと井上さん。

「そのチームとは、大事にするものさしも違えば、プロフェッショナルなスキルも違う、BTC──Biz(ビジネス)/Tech(テクノロジー)/Creative(クリエイティブ)の“異能”の集まりであるべきです」

たとえば、メディア運営のような事業では、コンテンツを読者に届けたい編集部(Creative)と、売上のKPIを追う営業(Biz)がぶつかりがち。

お互いの視座へのリテラシーがないと、異能が掛け算になるどころか相反する要素となり、メディアの価値を最大化するゴールを達成できません。

お互いに何のミッションを背負って、何を大事にしているか?…その背景を言語化して認識し合った、相互尊敬のあるチームづくりとリテラシーが重要だと、井上さんは指摘します。

「不確実性」には「無知の知」で立ち向かえ

新しい価値、つまり知らないことがどれくらいあるかもわからないことに取り組む新規事業は、「不確実性」が極めて高い仕事と言えます。

新規事業という名の五里霧中の航海をするためには、異能のクルー集めと、不確実性を下げるための羅針盤が必要。

井上さんは、次の3段階を踏むべきだと話します。

【新規事業を成功に近づける3ステップ】

1. 始動する

2. 無知の知に至る

3. 確信と確証を得る

「事業開発における“無知の知”とは、昨日までは全体像が見えてもいなかったことに対して、『自分はこれがわからない』と気づくこと。

自分を無知の知に至らせるためには、自分と全く違うタイプの脳の人=異能の人と考えることが近道です」

知らないことに対して1人で悶々と考えたり検索したりしても、自分の枠を超える解は生まれません。回り道をしないために大切なのは、「自分脳の仮説」を積み上げないこと。

「自分脳だけで仮説を積み上げると、その仮説が我が子のように可愛くなって、上手くいくような気がしてしまう。

もしも新しいテーマの軽い仮説を立てたら、異能の人に5分話を聞いてもらい、30分だけでもいいので考えてもらって、5分間のフィードバックをもらいましょう。

自分の仮説が可愛くなる前に、自分が尊敬できる異能の人と話す。これが鉄則です」

無知の知を得るためには、バイアス(先入観や偏見)を外すことが不可欠。異能と対話することで、自身のスキル・経験・環境から生まれるバイアスを外すことができます。

このステップが、事業の弊害となる「不確実性」を下げ、事業を成功へと導く確信と確証を与えてくれるのです。

新規事業の成功者に共通する2つの「人格」

新規事業の立ち上げと拡大は困難だと言われますが、その理由は実は単純。新規であることと、事業であること。この2つに尽きる、と井上さん。

「新しいことに取り組むのが難しいのは、無知の知に至るのが難しいから。

そして、事業には市場性や競合性など、最低でも20種類以上の変数があるので、指数関数的に構成要素が多くなる難しさがあります」

「新規×事業」の難しさに取り組むためには、自分と違う能力の人を集めることに加えて、自分のマインドセットも変えていかなくてはなりません。

そのために重要なのが、前述の「バイアス外し」。新規事業の成功者は、バイアスを外し慣れている人が多いのだそう。

「こういう人は仕事でも趣味でも、新しいものに触れることが好き。

自分の慣れ親しんできたこと、今までの自分が正しいと思ってきたことを否定できる、アンラーンする能力が高いなと感じます」

異能の人とお互いのバイアスを外しながら新規事業に取り組むなかで、井上さんは1つの発見をしたと言います。

それは、新規事業の成功者には、集約された2つの「人格」があること。

「1つは“子どものような自由さ”。砂場遊びのように無邪気に夢中に取り組む力、まずは動いてみる力を持つ人ですね。

もう1つは“大人の教養”。バイアスを除去したうえで無知の知を持って、異能のメンバーを理解・尊重できる教養を持つ人です」

個人の「夢中」をつくり出すチームこそ価値創造を可能にする

子どもの自由さと大人の教養。

相反する2つの人格を両立させるのは難しいことのように思えますが、「まずは1人の時間をつくることからはじめてみては?」と井上さん。

「2つの人格を備えた方たちは、好奇心で生きること、できる限り“今この瞬間”を楽しもうという意識が高かった気がします。

新しいアイデアは、意識の集中と拡散、集合と離散の中から生まれてくるもの。1人ひとりが深い集中(夢中)を持つためにも、異能の人とのチームビルディングが鍵になります」

セッションの最後、「新規事業とは?」という問いに対して、「自分が夢中になるために、誰にまかせるか?」と答えてくれた井上さん。

苦手なことを任せることで、お互いに深く集中できる時間をつくり出す。

自分の夢中に集中し、お互いの夢中をリスペクトし合えるチームこそが、新たな価値を生み出すのだと気づかせてくれたセッションでした。

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Source: JINS MEME, Think Lab, Sun Asterisk