ライフハッカー・ジャパンとBOOK LAB TOKYOがコラボ開催するトークイベント「BOOK LAB TALK」。第25回目のゲストは、『つながるための言葉 「伝わらない」は当たり前』の著者・勝浦雅彦さんです。

約10年間の非正規雇用期間を乗り越えて電通に入社し、コピーライター・クリエーティブディレクターとして頭角を現した勝浦さん。現在は宣伝会議講師、法政大学特別講師として、広告の枠を超えたコミュニケーション技術を伝える活動にも注力しています。

なぜ私の思いは伝わらないのか」という多くの人々の悩みに向き合ってきた勝浦さんに、思いを言葉にするための方法やTIPSを伺いました。

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コピーライター・勝浦雅彦さんが語る、言葉で思いを伝える技法【BOOK LAB TALK #25】(2022/11/22) by ライフハッカー・ジャパン BOOK LAB TALK

コピーライター・勝浦雅彦さんが語る、言葉で思いを伝える技法【BOOK LAB TALK #25】(2022/11/22) by ライフハッカー・ジャパン BOOK LAB TALK

伝える前に「自分とは何者なのか」を考えるべき

勝浦さんは、法政大学でのコミュニケーション技術の講義をするとき、いつも最初に伝える言葉があるといいます。

「『自分とは何者なのかを考えましょう』。

こう言うと、日本の教育では自分のレゾンデートル(存在意義)を問われることがなかなかないから、特に大学生は面食らいますね。

でもそれがわかると、自分が紡ぐ言葉が意味のあるものになっていくということを、僕は仕事や教えることを通して学んできました」(勝浦さん、以下同)

コミュニケーションにおいて自分自身を知ることは、スポーツでいう「基礎体力をつけてから試合会場に向かう」のと同じ。そのために本書では自分を深掘りするトレーニングを提案しています。

「自分の思考を整理するためには、紙か文章に「落とす」のが一番いい

毎日、何分とノルマを決めて、SNSのような場に自分の考えを書き続けるのもいいですね。

他者に伝えようと試みることで、自分の考え方・言語が外に出やすくなります」

短い言葉でもいいから外に出し、反応がなくても気にしない。スポーツ同様、コツコツと基礎訓練を続けることで、自分の輪郭がだんだんと見えてくると語ります。

「言葉は矢印」。研ぎ澄ます練習法とは?

本書の第2章「言葉を使いこなすには」の冒頭には、「言葉は矢印である」という勝浦さんの表現──まさに名コピーが登場します。

勝浦さんの言葉を借りれば、コピーの定義は「最短距離で人の心を動かす、目的を持った言葉」。

目的を持つということは、一言でいうと「人の心を動かしたい」、そして「わかり合いたい」ということ。そのためには、考えて、準備して、練習するという地道な作業が必要であり、近道はありません。

そして実際に言葉を外に出す──実践するときには、一旦踏みとどまって「魅力的に伝えるには?」「伝える方法のベストは?」と考えることを大切にしてほしいと言います。

「つまり言葉を言い換えてみるわけですが、そのためには削ぎ落して鋭くするか、増やして豊かにするかの二択しかありません。

本では夏目漱石や二葉亭四迷が『』をどう言い換えたかというエピソード(つくり話とも言われている)を紹介していますが、僕も以前、同じお題をコピーライターの先輩に出されたことがあります。

僕の答えは『世界で一番、嫌いになってしまいそう』。

愛の対義語は憎しみではなく無関心だから、一番愛している人は、世界で一番嫌いになるかもしれない人では? と言ったら、少しだけ褒められました(笑)」

疑問を感じた言葉を深掘ると、新しい世界が見えてくる

実は「」は、本書の重要なテーマの1つ。

「言葉を扱う仕事に長く関わるなかで、この言葉の大切さを感じない日はない」とも書かれています。

「僕の結論は、相手を思いやること、何かしてあげたいと思うことが愛。

つまり言葉にしたいと思うことは、結局は誰かとつながりたい(何かしてあげたい)という思いであり、それは愛であり、不変なのではないだろうか──と自分の中でつながったんです」

一方、第6章「ビジネスの言葉」には、「ビジネスにおいて自分の身体から発するものはすべて『投資』されていく」という印象的なフレーズが登場します。

新人の頃から『いつも大変お世話になっております』にはじまる、ビジネスにおける言葉遣いが不思議でした。

でもあるとき、これは投資であって、これをやることによってリターンがあるんだと気がつきました。

電話応対やメールでの言葉遣いは、知らないと一定数の人々に「ビジネスパーソンとしての礼儀がない」とウィンドウを閉じられてしまいます。

これを避けることは、新入社員にとって「言葉の初期投資」であり、使いこなすことによって必ずリターン(学び)がある行為。

こんなふうに自分の周囲にある言葉を深掘りしていくと、新たな一面が見えてくると教えてくれました。

つながるための言葉とは、誰かと心情を分かち合うこと

勝浦さんによると、突き放したように感じられるかも…と心配していた本書のサブタイトル『「伝わらない」は当たり前』が、意外なほど好評なのだとか。

この言葉が好きだ、救われたという声が多くて、みんなもそうだったんだと。

つまり僕は、人と人は100%分かり合えないと思っているんですね。

それでも、伝わらない人に対して伝えたいと思う自分、伝えようとした自分をほめてほしいし、誇ってほしいという思いが根底にあります」

伝わらないのに、自分以外の誰かとつながろうとするのは、人間の本能のようなもの。

伝わらないのが当たり前だとわかったうえで、つながるための言葉を紡いでいく、それは勝浦さんが考える「愛」の形にも通じます。

セッションの最後、「つながるための言葉とは?」という問いに、「自分ではない誰かと心情を分かち合うこと」と答えてくれた勝浦さん。

「コミュニケーションとは感情と情報の交換です。

人間は事実だけではなく、感情を伝えたい生き物

事実はひとつでも、そこには無数の真実があり、『誰が何をどう感じたか?』を我々は知りたいのです

誰かと心情を分かち合うことで、人間は少しだけ孤独を忘れることができます。

もどかしくても心に愛があれば、相手を思ってがんばっていることは伝わるはず──。

そこは信じていい」という勝浦さんの言葉に励まされました。

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コピーライター・勝浦雅彦さんが語る、言葉で思いを伝える技法【BOOK LAB TALK #25】(2022/11/22) by ライフハッカー・ジャパン BOOK LAB TALK

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