3月8日の国際女性デーを記念して、Apple丸の内で開催されたToday at Appleのトークセッション「高尾美穂医師に学ぶ女性の健康とApple Watch」。
産婦人科医・スポーツドクターの高尾美穂先生が、女性のライフステージごとの体の変化のしくみや、それぞれの時期をよりよく過ごすために知っておきたいこと、そのためにApple Watchの機能をどう活用していくのがよいかについて語りました。

記録が不調への対策になる
Apple WatchやiPhoneの「ヘルスケア」アプリの「周期記録」では、月経周期を記録して、そのデータをもとに次の月経日や妊娠可能期間の予測を表示できます。さらに、Apple Watch Series 8とApple Watch Ultraでは、寝ている間に手首の皮膚温を計測することも可能になりました。
「睡眠」の集中モードを有効にしたうえで4時間以上の睡眠を5日間とると、基準となる皮膚温「ベースライン」が判定され、それに対する皮膚温の変化がグラフで記録されます。
これによって過去の排卵日を推定できるようになり、より高精度な周期予測が可能になるとのこと。

このほかに、「腰痛」「便秘」「気分の変化」といった、さまざまな心身の症状を記録できる機能や、月経不順、希発月経、過長月経といった、周期の偏差の可能性について通知を受け取れる「偏差通知」の機能も備えています。
これらの機能を使って、女性が自分の体のデータを記録することのメリットについて、高尾先生は次のように話します。
排卵の後、生理の前の期間は、女性にとって調子が悪くなりやすい時期です。そういう時期だと知っておけば、「言葉がきつくなりやすいから気をつけよう」などと考えることもできます。
自分の状況を知ることで、その時期で起こることに対策ができるようになる可能性があるんです。
「継続できる頑張り方」をする
高尾先生は、女性が活躍していくために大事なこととして「頑張りすぎないこと」を挙げます。
ずっと走り続けることができるなら頑張り続けてもいいのですが、たいていは途中で息切れしてしまいます。
そうならないためには、持続可能な頑張り方をする必要があります。

そのためには、頑張る時間と休む時間のマネジメントが重要になると話す高尾先生。
頑張るときとリラックスするときのメリハリをつくり、「ある程度自分が快適な状態を維持しながら、やりたいことにはしっかり力を入れて、リラックスするときには心も体も開放するサイクルが必要」だと話します。
不調を我慢するのはもったいない
「生理周期は始まった日と終わった日をとりあえず記録しておくくらいでもいい」と話す高尾先生。
記録をしておくことで、不調が出たときに、それが単発のものなのか、繰り返し起こっているものなのかを見分けることができるといいます。
たとえば、ちょっとお腹が痛くなったけれど、休んだらよくなったという場合なら、すぐに受診する必要はないかもしれません。
一方で、それが毎月続くようなら病院に行ってみようという選択ができます。そのために記録をしておくことが大切になるんです。
不調を記録する基準については「痛みなどを数値化する必要はなく、つらいと感じたら記録すればいい」と話す高尾先生。
そして、「我慢をするのはもったいないこと」だと強調します。
生理にまつわる不調は、その時期を乗り切ればどうにかなるので、我慢してしまう人が多いんです。たとえば生理前の不調は生理がくれば改善するし、生理痛もつらい時期はたいてい3日くらいです。
でも、その3日間を家で布団をかぶって休んでいるのではなく、ある程度調子よく過ごすことができれば、もっといろいろなことができます。そういう意味で、痛みや不調を我慢してしまうのは、とてももったいないと思います。

「世の中で本当の意味で平等なものは時間だけだと思う」と高尾先生。その限りある時間を有効に使うためにも、不調を記録して、必要に応じて相談することが大切だといいます。
そして、受診をする際に役立つのが、Apple Watchで記録した手首皮膚温や周期記録の履歴をPDFで書き出す機能です。
これらのデータを持っていくことで、医師とのコミュニケーションに役立つことはとても多いそうです。
婦人科の外来でわかることは、その場で検査できることだけなんです。
たとえばエコーの検査で子宮や卵巣の大きさを調べることはできますが、ホルモンの変化による働きの問題については、診察室で対面した状態で知ることのできる情報はすごく限られています。
過去のことがわからないと先のこともいえないので、これまでのデータを記録しておくことは本当に大切です。
よい人生のために、自分の健康を把握する
自身もApple Watchユーザーだという高尾先生は、睡眠記録機能も大いに活用しているそうです。
日中の活動時間をよりよく過ごすには、眠っている時間をよくすることが大切な条件になります。
睡眠を記録することで、眠っている時間がどんな状態だと次の1日をどういう状態で過ごせるかがわかるので、それをもとに寝る時間などを考えるといいですね。
「今日はよく眠れたから調子がいい」ではなく、「次の日を快適に過ごすためにしっかり眠る」という、睡眠を基準にした考え方をすることが大切です。

自分の体の変化を記録することは、今後さらに重要になると高尾先生は言います。
日本の人口が減っていくなかで、病院の併合などで医療機関にすぐにアクセスするのが難しくなる地域も増えていくと思います。
だからこそ、自分の健康をある程度自分で把握することは、これからの社会では絶対に必要になります。
それが、自分の生きたい人生を生きるためのベースになるのではと思っています。
女性の不調をパートナーと共有するには?
女性ならではの不調は、男性のパートナーなどにはなかなかわかってもらいにくいもの。セッション後に高尾先生に、「不調を男性に知ってもらうためにできること」を聞いてみました。
男性は生理を経験することがないので、女性の困りごとが男性にとっての“自分ごと”として100%伝わることは基本的にないと思います。それを理解したうえで、何が困っているのか、何ができないのかを共有できるといいのかなと思っています。
ヘルスケアアプリには特定の人と情報を共有できる機能がありますが、そういった機能で直接言いづらいことを伝えて会話のきっかけにするといいかもしれません
高尾 美穂(たかお・みほ)
産婦人科医 / 医学博士 / スポーツドクター。統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。文部科学省・国立スポーツ科学センター女性アスリート育成・支援プロジェクトメンバー。ヨガ愛好家として多くのインストラクターを指導。動画共有サイトでは女性の悩みに答え、楽に生きられる考え方を毎日配信している。
Source/Photo: Apple