敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。

今回お話を伺ったのは、『THE FIRST TAKE』や『おかえり音楽室』など話題のコンテンツでクリエイティブディレクターを務める、清水恵介さんです。

清水 恵介

1980年生まれ。2008年TBWA HAKUHODOに入社。NHK、Netflix Japan、UNIQLO、SHISEIDO、UNITED ARROWS、NISSAN、AIGなど、数多くのブランドのキャンペーンを手がける。2019年にYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』の企画・クリエイティブディレクション・アートディレクション・映像ディレクションを担当。2023年にNHKの音楽ドキュメンタリー番組『おかえり音楽室』の企画・映像監督を担当。

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デザインや映像などさまざまなジャンルで企画や制作に関わる清水さんに、仕事術とアイデアの生み出し方を伺いました。

清水恵介さんの一問一答

氏名:清水恵介

職業:クリエイティブディレクター、アートディレクター

居住地:東京都

現在のコンピュータ:MacBook Pro 16 inch

現在のモバイル:iPhone 13 Pro

現在のノートとペン:Keynote/Apple, Magic Trackpad/Apple

仕事スタイルを一言でいうと:為すべきことを為す。

写真の延長線上で映像をつくる

Photo: Yoshiharu Harada
Photo: Yoshiharu Harada

――現在のお仕事内容を教えてください。

クリエイティブディレクター、アートディレクターという職種で、長年広告の仕事を行なってきました。最近は広告以外の、TV、YouTube、ストリーミングサービスなどのコンテンツの企画・制作など、領域を越境して活動をしています。たとえば、Netflix JapanのYouTubeチャンネルコンテンツや、NHKの音楽ドキュメンタリー番組も手がけています。

『THE FIRST TAKE』では、映像監督もしていますが、僕のようなクリエイティブディレクターが映像監督をすることは基本的にはあまりなく珍しいことかと思います。

『THE FIRST TAKE』は映像ですが、じつは写真の考え方で構成されています。定点カメラで写真のようにアングルをあらかじめ決めて撮影しているんです。

僕は、いままでアートディレクターとしてカメラマンと一緒に写真を撮って、ポスターを制作するという仕事をしてきましたが、『THE FIRST TAKE』はその延長線上にあります。

だから映像といっても、写真やグラフィックデザインがベースになっていて、そこに広告で培ってきた企画性をプラスしているんです。

NHKで担当している「おかえり音楽室」という番組も、まさに企画性がありアートディレクションがきいた映像を企画・監督するというものでした。

順風満帆ではなかったキャリア

――クリエイターとしての歩みを教えてください

僕は変わった経歴で、広告代理店のアートディレクターにはめずらしいタイプ。

20歳のころAdobeのPremiereやAfter Effectsで、映像制作をしていた時期があり、その頃はアーティストのライブ映像を作っていました。いまでも当時の編集感覚は残っていると思っていて、でも一度やめたんですよね。挫折したんです。

その時に、音楽バンドに誘われて、ワーナーミュージックと契約して3年ほど活動しました。バンドを辞めた後は、映画配給会社でDVDジャケットやフライヤーのデザインを担当していました。20歳の頃から今でも20年以上ずっと続けている仕事が、CDジャケットのデザインです。昨年もGLAYの60枚目のシングル『Only One,Only You』のジャケットをデザインさせていただく機会をいただきました。

26歳になって、自分の進む道を決めようとデザイン会社に転職。そこではPARCOや無印良品のポスターやカタログなどをやらせていただいて、その一つにadidas Japanのお仕事がありました。それが、TBWA HAKUHODOの仕事だったんです。

そこから縁あって、TBWA HAKUHODOに転職をしました。広告の仕事は、映像に深く関わるので、いままでさまざまな映像監督の後ろで学ぶことができました。超一流の監督たちの仕事を間近で見てこられたのは、本当にラッキーだったなと思います。

伝えることに適したKeynote

――仕事をする上で、欠かせないアプリは?

「Keynote」です。

――そのアプリで何をしますか?

チームにアイデアを共有するだけでなく、そのままクライアントにプレゼンする資料もつくります。撮影時はアーティストに企画説明をするとき、Keynoteは欠かせません。

紙に印刷した場合、修正があると再度プリントしなければいけませんがKeynoteであれば、いつでも修正ができます。

特に、僕の場合は寸前で変更が発生する場面が多く、アーティストに説明するときも、直前で「これを言われたら嫌だろうな」と気づいたときにすぐ修正します。プレゼンのギリギリまで修正がきくというのがいいですね。Keynoteは、「伝える」ことにとても適しているんだなと。

あとは、Illustratorのパスデータや画像を貼っても、Keynoteは動きが軽い。Illustratorのパスも保持されて、それをもう一度Illustratorに戻せるんです。

互換性もよく、早くてサクサク動く。簡易的な画像編集やグラフィックデザインも、Keynoteでできてしまいます。入稿の手前までKeynoteでデザインするということもありますよ。そんなこともあり、TBWA HAKUHODOでは、Keynoteを使っている社員がとても多いです。

――そのほかに欠かせないツールはありますか?

iPhoneで、編集の指示を出すための赤入れをしています。『THE FIRST TAKE』でいうと、週2曲をアップするスピード感でやっているので、iPhoneで作業できないと仕事が追いつかない。

タブレットとタッチペンも試しましたが、iPhoneで手書きするほうが早いと気がつきました。元々、MacBookのTrackpadで作業することに慣れているので、指で書く感覚が好きなんです。

Photo: Yoshiharu Harada
Photo: Yoshiharu Harada

アイデアが浮かんでくる瞬間

――仕事のなかで編み出したライフハックは?

複数のプロジェクトを同時進行するので、頭を休めるために昼寝と入浴の時間を大事にしています。どちらも頭が整理されて、答えがパッと浮かぶんです。

たとえば、仕事で悩んだら諦めて寝ます。30分だけでも昼寝をしますね。入浴も同じ役割で、リラックスするとアイデアや「やるべきこと」がくっきりと出てきて。頭の片隅にあるような「あの人に連絡しないと」というタスクも、お風呂上がりはサクッとできます。

お茶やお香にもはまっているのですが、スマホから離れて脳が安らぐ感覚が好きです。何もせずに、ぼーっとする状態をつくることで、頭が整理されて今やるべきことが見えてきます(お気に入りは金工作家の中村友美さんがつくられた急須)。

Photo: Yoshiharu Harada
Photo: Yoshiharu Harada

――お風呂はどのタイミングで入るのでしょうか?

リモートワークの合間に、日中でも入ります。いま入りたいと思ったら入るようにしています。だから家にはお風呂グッズがたくさん。

入浴剤もこだわっていますし、たとえば昼間に飲むビールより、お風呂のほうが贅沢で好きなんです。「うわ、こんな明るい時間にお風呂入ってる」っていう(笑)。

――リラックスした瞬間にアイデアが出てくるんですか?

知識や情報をただ大量に詰め込むのは、効率が良くなくて。思いっきりトライアンドエラーをやって遠回りして、試行錯誤を続けたあとに、いきなり全部忘れて手放してみる。その瞬間に、「はっ」と気がつくみたいにアイデアが出る瞬間があります。

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アイデアを生み出す、お気に入りの3つのツールとは?
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