仮想空間での体験やコミュニケーションを主体としたXR領域のメタバースと、NFTをはじめとしたWeb3の技術。この2つは、その関係性をどうとらえるかが難しいところです。
本連載第5回では、「リアルメタバース」をテーマにXR事業を手がける株式会社Psychic VR Lab 代表取締役の山口征浩さんと、ブロックチェーンゲームのヒット作「マイクリプトヒーローズ」を世に送り出したdouble jump.tokyo Inc. 代表取締役・CEOの上野広伸さんに、XRメタバースとWeb3の現在地や今後について、それぞれの視点から語っていただきました。
STYLYで「リアルメタバース」を体験
今回のインタビューは、Psychic VR Labのオフィスで行ないました。そこでインタビュー前に、Psychic VR Labで展開しているVRとARのプラットフォーム「STYLY」を実際に体験することに。

Psychic VR Labは、STYLYを通じてクリエイターが自由にコンテンツを制作して公開できる場を提供するとともに、XRの可能性を探るさまざまな取り組みを行なっています。
2022年からは、渋谷スクランブル交差点上空にSTYLYアプリをかざすと、ARアートと巨大なスロットマシーンが現れる「BŌSŌ SLOT」を、さらに第2弾としてARミニゲーム「NEO TOKYO CLASH」を展開。
いずれもNFTのブランドやプロジェクトと協業しており、体験者にNFTが当たるキャンペーンも実施されました。

現在はスマホ越しにコンテンツを見るARが主流ですが、今後、ヘッドセットやグラスを装着して現実空間に重ね合わせるように仮想コンテンツを表示するMR(複合現実)が普及すると、この体験がさらに進化するといいます。
取材では実際にヘッドセットを装着し、現実の部屋の中に仮想のキャラクターが表れたり、空間に出現した巨大なスクリーンで映像を視聴したりする様子を体験しました。

将来、誰もが日常的にMRデバイスを身につける時代が到来すれば、商業施設のイベントに訪れた人に対して、それぞれに合わせた広告を表示するといったことも可能になると山口さんは予測します。
一方、double jump.tokyoでは、2018年と非常に早い時期からブロックチェーン・NFTの事業に参入。NFTとして発行されるキャラクターなどを使ってゲームを進めて報酬を得るブロックチェーンゲームの「マイクリプトヒーローズ」は、イーサリアムベースのブロックチェーンゲームとして、取引高・取引量・アクティブユーザー数で世界1位を記録しました。
現在は、バンダイナムコやセガをはじめとした国内外大手ゲーム企業と協働で、より広い層が使いやすいゲーム特化型のブロックチェーン「Oasys」のプロジェクトを進めています。
それでは、Metaverse Japan代表理事の馬渕邦美さんをファシリテーターに、お二人のインタビューを見ていきましょう。
メタバースもWeb3も、現時点ではあくまで「バズワード」

馬渕邦美さん(以下、――):まずは現状のメタバースやWeb3の位置づけについて、改めてお二人の認識をお聞かせください。
山口征浩さん(以下、敬称略):「メタバース」とは何か、その定義が定まっていないといわれます。しかしこれはあくまでも「バズワード」なので、いろいろな人がその言葉で自分たちの取り組んでいることを説明しているだけと、割り切って考えたほうがいいかなと思っています。
上野広伸さん(以下、敬称略):Web3も同じですね。2021年にマーク・ザッカーバーグがメタバースという言葉をバズワードにし、それに対抗するようにアンドリーセン・ホロウィッツ(シリコンバレーの大手ベンチャー・キャピタル)もWeb3をバズワードにしていった形です。
要するに、どちらもバズワードなんです。
まずは「よくわからない言葉」として世の中に広まり、実態が生まれるにしたがって定義が定まってくるのではないでしょうか。
――XRとしてのメタバースと、Web3としてのメタバースがかみ合わないという議論もあります。
山口:XR領域のメタバースは体験をベースにとらえることが多いので、Web3のメタバースも購買という体験をもとに考えてしまう傾向はあるかもしれません。
上野:Web3は社会の構造を変えるものという認識がなされている一方、XR領域のメタバースは社会の構造的な変化がなく「セカンドライフ」の頃から変わっていないのではないかという議論があったりします。
でも、今日実際に体験させてもらいましたが、体験すればXRで世界が変わることがすんなり理解できます。まだ一般に浸透していない段階なので、ピンときていない人のほうが多いのでしょうね。
これはWeb3も同じで、NFTの存在は知っていても、買ったことはないという人が大半なので、ぼんやりとしたとらえ方になってしまう部分は大きいと感じています。
――「体験」という軸で考えたときに、XRのメタバースの中で、NFTが体験として価値を発揮する可能性は?
上野:CDやDVDにたとえて考えると、イメージしやすいかもしれません。音楽や映像コンテンツがCDやDVDで売られていた時代は物理媒体として価値があり、物理的に買ったり借りたりすること自体が体験として面白いものでした。
今はストリーミングで視聴できるようになって、わざわざ物理的なディスクをプレイヤーで再生することは少なくなりましたが、そうなった瞬間にデジタルコンテンツのデータの価値は、あたかも無料のような錯覚に陥ってしまいます。
サブスクサービスとしての料金は支払っていても、音楽や映画そのものは無料かのような認識を抱いてしまう人も多いのではないでしょうか。
でも、それではクリエイターとしてはいたたまれないし、本来はデータそのものに価値があるはずなんです。
今さら物理メディアには戻れませんが、たとえば、ストリーミングで検索してすぐ聴くのではなく、メタバース空間内のCDショップで音楽を買うことができれば、わざわざそこに行ってCDを選び、買って帰って聞くという一連の流れが体験として面白く感じられると思います。
そのときにメタバース内のショップで買うものとして、NFTが使われるようになる可能性は高い。そういったデータと体験を結びつける技術として、NFTには可能性があると思っています。