敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。
今回お話を伺ったのは、映像プロデューサーでライター、そして、顔ハメパネル愛好家としても活動中の鎮目博道(しずめ ひろみち)さんです。
鎮目博道さんの仕事歴:
早稲田大学を卒業後、テレビ朝日に入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、「報道ステーション」などのディレクターを経て、報道制作班のプロデューサーに。
インターネットテレビ局「AbemaTV」のサービス立ち上げに参画し、50歳を迎えたタイミングでテレビ朝日を早期退職し、独立。
現在は「シーズメディア」代表としてフリーの映像プロデューサーという立場でコンテンツ制作に携わるほか、「Yahoo!ニュース」などでのコラム執筆、中小企業のコンサルなど、多岐に渡り活躍中。
趣味の“乗り鉄”と“スマホ中毒”を活かしたノマドワークは、「MacBook Airなら寝ながら仕事ができる」と気づいて以降、フリースタイルに進化中。
過酷なテレビマン時代を経て気づいたという、ストレスフリーな働き方とは?
3つの仕事をバランスよく掛け持ち中
——現在の仕事について教えてください。
動画コンテンツの制作やABEMAの番組の総合演出といったプロデューサー業、「東洋経済オンライン」や「夕刊フジ」での連載といったライター業、中小企業のPR施策や新商品開発といったコンサル業を、それぞれ3:3:3くらいの割合でやっています。
テレビ局にいて一番多かった仕事は、そんなに面白くないことをどうまとめたら面白くなるか、アイデアを出すこと。その経験を活かしています。
とくに中小企業のコンサルは、技術力はあるけれど、どうやってPRしていけばいいかわからない町工場がメイン。
先日も蒲田のチョコレートトレーを得意とする真空成形金型の町工場で、「超リアル!手を型取りしたきゅんチョコ製作用トレー(ただしオッサンの手)」という商品開発をサポートしました。
きゅんですポーズがキテる!というところからアイデア出しをして、リアルな金型をイチから真面目に作ったのですが、その様子を動画に撮ったり、おもしろネタが好きそうなウェブメディアにネタ提供したり…。
バカバカしい企画を考えるのが最高に楽しいですね。
ベッドや電車で仕事する

——1日の仕事の流れを教えてください。
フリーになったら体が資本だと、テレビ局退職前にお酒を辞めたんですよ。そうしたら朝から脳がしゃきっと働くようになって。
早ければ6時、遅くても8時には目を覚まして、まずはベッドで寝ながらライティングの仕事をしています。午前中ってテレビ関係の取引先はまだ寝ているので動かないんです。
そうこうしていると昼頃になってお腹が空くので、次の打ち合わせ先に近い場所で、趣味であるおいしい麺類のお店を探して食べに行く。
で、町工場で打ち合わせを終えたら夕方までの時間、これも趣味の電車に乗って車内でメールの返信などの仕事をしながらふらふらするって感じです。
夜はNetflixを見ている合間に仕事したり、夜中でも目が覚めたらお腹の上にパソコン立てて仕事することもあります。MacBook Airだと軽いので、こうやって片手で支えると寝ながらでもできちゃう。
移動しながらでも寝ながらでも仕事できるようにしたので、24時間働いているともいえるし、24時間遊んでいるともいえますね(笑)。
——移動中に仕事をする術とは?
乗り鉄なので、電車の中がものすごくいいワークスペースになるんです。
最近までスマホ2台持ちで、2台同時に打てるくらいスマホ中毒だったんですけど、スマホがあれば文章打ったりメール返信したりできますよね。そうすると、ライター業はスマホでできる。
iPhoneのメモで文章書いて、あとでPCを開けるときにワードにコピペして文字数だけ確認して完成させる。電車内で立ってでもできるし、座れれば何でもできる! とくに特急はアドレナリンが出てはかどるので、大阪出張なら原稿2〜3本は書けますね(笑)。
あと、オンラインの会議も移動中に入れることが多くて、街歩きしながらや駅前を観察しながらスマホをかざしてやっています。スマホとMacBook Airで完結するならどこでも仕事できますね。

別の仕事で気分転換する
——集中力をあげるためにしていることは?
タイムスケジュールの立て方を工夫すること。要は、働く脳が違う仕事をバランスよく組んでいくってことですね。
最近、仕事の気分転換は、ほかの仕事でするのが効率的だと気づいたんです。
たとえば、テレビの仕事をしているときと文章を書くときに使う脳って違うじゃないですか。それを組み合わせると、ずっと働いているけどまるで休んだかのように脳がリフレッシュできる。どこでも働けるようにして仕事で仕事の気分転換をすると時間を有効に使えるので、いまはそれが楽しい!
アイデアは出し惜しみしない
——アイデアや企画を生み出すためのインプットはどうやっていますか?
できるだけ人に会ったり、オンラインでもよく人に話を聞くようにしています。あとは、知らない街を歩くことですね。
変な看板を見つけたりするのが大好きなので、そういう視点で街を見るといろいろな角度から物事を楽しめるようになってくる。
蒲田の動けない車

京都で出会ったコムロテツヤ

読めない韓国料理店

それを写真や動画に残してインプットしておくと、あとから振り返ったときにそれを見つけた時間や情景、思考といった細かいことまで思い出せて、アイデアが広がっていくんです。
いまはウェブで調べれば何でもわかりますが、逆にそうしない方がいいと思っていて。それが発想力につながっている気がします。
——アウトプットするときに心がけていることは?
面白いと思ってインプットしたものをケチらずにSNSでどんどんアウトプットすること。
面白そうだからとアイデアを取っておくと忘れて使わなくなるのがオチ。短いセリフをつけて試しに投稿してみんなの反応を見て、そこからさらに伸ばしていく方法を考えて行く方が効率よくアウトプットできます。
面白い動画は五感を刺激する

——近著の「アクセス、登録が劇的に増える!『動画制作』プロの仕掛け52」ででは、動画をバズらせる方法をさまざまな角度から解説しています。プロの鎮目さんから見て面白い動画コンテンツとは?
勝手な思い込みかもしれませんが、僕が面白いと感じるのって、細かいところの作り込みをしっかりやっているもの。テロップや音など細かい部分に小ネタをできるだけ詰め込んで面白くしたいタイプなんです。
最近の動画はすごく面白い一方で、もったいない部分もあって。いまって出ている人が魅力的とかやっていることが面白いとか、一点突破で流行っている気がします。
何かひとつ面白い要素があって当たっているけれど、残念ながら飽きられやすい。持続して楽しんでもらうにはもっと細部の作りに凝るといいのでは。
凝るといっても小手先で何とかするという話ではなくて、テロップや音や間や構成など、核となる動画を補ういろいろな要素で五感を刺激するということ。
かといって、テレビっぽくなってしまうのはつまらないし、それは望んでいないので、ヒントになるようなポイントを著書で伝えています。おっさんが長年培ったコツを若い人に伝授したらもっと面白いものが増えると期待しています。
3割バッターをめざす

——先輩からのアドバイスで心に残っていることは?
同じ業界の先輩から言われた「バッターと同じで3割打てればいい」という言葉。
10の仕事のうち3つ成功したら十分ヒッターだという気持ちでいると、気がラクですよね。それに、10回やって10回とも高視聴率を取ろうとすると、ウケがよかった同じネタばかりやることになる。
けれど3回でいいとなると、ほかも試してみようとチャレンジできる。だから、3割打とうとする方が長続きします。
それといつも肝に銘じているのは、「間に合わなかった番組はない!」。テレビ業界って放送時間に1秒でも遅れたら事故です。
でも、焦ると冷静に考えられないので、最後の瞬間まで正気を保つっていうのが大事。そのために、この言葉をふと思い出すようにしています。そのくらい気軽にやらないとなと。
自分のために働かない
——いまはストレスもなく理想的な働き方ができているように見えます。その秘訣は?
50歳までテレビ局で働いていたときは、名プロデューサーと言われたいとか目立ちたいとか、“自分のため”が強かったんです。
それがフリーになって、発注してくれた人に一番よろこんでもらうためにはどうすればいいかというのが仕事の目的に変わった。これってすごく楽しくて、よろこんでもらえると自分もうれしいし、人のために働いていると思うと気分もいい。
仕事って自分のためにやろうとすると辛いけど、人のためにやろうとした方が楽しくできるんだと、50歳すぎてようやくわかった感じです。
新しい動画作り「AbemaTV」立ち上げ
——テレ朝で数多くの番組制作をした後、「AbemaTV」のサービス立ち上げに携わっています。このプロジェクトに参加した理由は?
番組制作にはディレクターとプロデューサーがいますが、ディレクターは映像を撮って編集して作る、いわゆる現場仕事がメイン。それに対してプロデューサーは企画を立てて全体を統轄する、いわゆる管理職。
僕は現場が好きだったので、ずっとプロデューサーになるのを断り続けていたのですが、40代になるといよいよ逃げ場がなくなって。
いざプロデューサーになるというときに、せっかく管理側に回るならもっと見聞を広めようと「デジタルハリウッド大学院」に入学したんです。
そこで、ベンチャーやIT企業などさまざまな業界の人と出会って「テレビも新しいことをしなくちゃダメだ」と刺激を受けて。
次にそういう機会があったら絶対に手を挙げようと決めていたので、アベマの話が出たときは飛びつきました。
——「AbemaTV」ではテレビ朝日社員として、どのようなことをされたのですか?
テレビ局が作るハイクオリティな動画を、ウェブやスマホのUIで見やすいかたちにしたのがAbemaTV。前者をテレビ朝日が、後者をサイバーエージェントが担いました。
最初、社風がまったく違うのですごく戸惑って。なにせサイバーはみんな若い! 当時僕は45歳でしたが、取締役が28歳でしたからね。でもものすごいスピード感で勉強になりました。
もともとテレビ業界ってアナログ時代にできたワークフローで制作していたので、ムダな過程が多くお金もかかっていて。
そのムダを省いていまある便利なモノを使えばもっと簡単にいい動画が作れるはずと、最初に立ち上げた「AbemaPrime」というメインのニュース番組では、取材はすべてスマホを使うスタイルにしました。
編集もPCでやって、紙のフリップも廃止してiPadを使う。トライアンドエラーをしながら新しい動画作りを模索できたので楽しかったです。
——そんな中、テレビ局を辞めてフリーになったのはなぜですか?
会社員だとある程度時期がくると人事異動がありますよね。僕もアベマの次は地上波のニュース番組のプロデューサーという路線が見えていたので、それを想像したときにもう前の世界には戻れないなと。
それと、子どもも大きくなってお金の心配もあまりいらなくなり、もうすぐ50歳というタイミングだったので、これからは好きなことをしたいなと考えました。
学生時代からライターとして文章を書きたいと思っていましたが、ちょうど趣味の顔ハメパネルの連載を夕刊フジでさせてもらえるようになって。
あとは、1度でいいからNHKスペシャルとか作りたいし、YouTubeやウェブ動画もこの先面白そうだぞと。早期退職で優遇されることもあって、50歳になった途端に辞めました(笑)。
セルフブランディングはしなくていい
——ライフハッカー読者である20〜30代は、自分が早く何者かになりたいと必死な世代です。何かアドバイスは?
セルフブランディングとか、人と比べて苦しむのはやめようよといいたい!
いまの若者はセルフブランディングにしばられていてかわいそうですよね。でもブランディングしてくれるのは周りの人で、セルフじゃできないよと。
SNSのフォロワーを獲得して自分をこう見せたいと考えると何もかもがつまらなくなるし、人との比較になって“あいつに負けている”っていうのが続く。その生き方はしんどい。
セルフブランディングなんて考える暇があるなら、自分がやりたいことをやって、自分なりにチャレンジして、自分なりに周りの人によろこんでもらえるように仕事をして、それでいいじゃないって気がします。
ゴールの距離が短すぎますよね。50歳すぎても体は動くし働けます!
一番伝えたいのは、作っている人が楽しまないと見ている人も楽しくない! ほかの仕事でもそうで、楽しくやっていない仕事の結果を受け取るお客さんってたぶんそんなに楽しくないってこと。
だから、自分が楽しむのが一番です!
撮影協力: コンフォートホテル東京東神田